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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

Knight Foundationの研究(4) - Googleが11億ドルで買収したシビックテクノロジー企業を「当てた」セマンティック−クラスタリング分析

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Knight Foundationは「投資が行われている分野には、将来性があるに違いない」と考えている節があります。彼らが昨年12月上旬に発表したシビックテクノロジー(Civic Tech)に関するレポートは、その論考のポジショニング設定に戦術的な匂いすら感じられる、非常にクレバーなものになっていると思います。

彼らが言う「シビックテクノロジー」とは、「ITの力によって都市・社会環境をよりよいものに変えて行くテクノロジー群」のことです。何がシビックテクノロジーで何がそうでないかを示した図があるので、少し細かく見てみましょう。英語だとやや抽象的なので、その下の表で平たい日本語で整理してみました。

Fields

Civictech_2

こうした5つの分野から成るシビックテクノロジーに投資が入り始めているため、その動きをしっかりと捉えておきたいという狙いの下に作成されたのが報告書"The Emergence of Civic Tech: Investments in a Growing Field"(シビックテクノロジーの出現:成長しつつある分野への投資動向)です。


■社会貢献における投資を割り切って考えている

この報告書には、いくつかの興味深い点があります。

まず第一に、シビックテクノロジーに関わる企業・団体に対して、いくらの投資(基金等による寄付を含む)が行われたかを金額で見ている点です。調査対象期間を直近という意味で2011年1月から2013年5月までに絞り、そこでいくらの投資を獲得したかを見ています。日本円で数千万円から1億円程度の投資も拾っていますが、数十億円といった投資が入っている企業もピックアップされています。どうも「投資金額の大きさがその企業の活動のインパクトを表している」と考えているらしい。あるいは「投資が活発に行われている分野は、テクノロジーによる都市・社会環境の改善という意味で要注目である」とも考えていそうです。
これは社会貢献に携わる活動はなるたけ金銭と無関係の方がいいと考える日本の伝統的な考え方からすれば、正反対の発想と言えます。「社会貢献を願う活動でも、より大きな投資を集めたものの方が有意である」と言っているようなものですから。まぁ、伝統的な考え方に対して議論をふっかけていると言ってよいでしょう。

■Quid社のセマンティック−クラスタリング分析がすごい

第二に、関連の企業群の分析と抽出に、Quidという専門企業の協力を得て、社会ネットワーク分析の知見を応用したセマンティック−クラスタリング分析(Semantic-clustering analysis)と呼ばれる手法を使っているのがおもしろいです。不肖わたくしも一時期数学がわからないながらも社会ネットワーク分析の入門書を読んだりして興奮したことがありましたが、その分野の最先端企業がQuid。そこの非常に興味深いツールを使っています。
直感的な理解は、同社が公開しているこのビデオから得られます。ネットワークマップがぐりぐり動くのがすごいです。


YouTube: Quid Insights Episode 1: The Dumb Pipe Problem

ビデオの中身は、同社のセマンティック−クラスタリング分析ツールを使って、通信業界のクライアントの課題解決をするケーススタディです。1) 25万のインターネット上の文書を解析し、1,500社の技術企業から自分たちにとって有用なデバイスを提供してくれる企業を発見、2)先端企業同士の関係性を視角化して吟味することにより新しい収益源となる分野を発見、3)6,000のデータセンター関係の文書を分析して、キーとなる技術分野を抽出し、その中からデータセンターのエネルギー効率化技術を持っている企業を抽出、という3つのケースを手短に説明しています。

同社のセマンティック−クラスタリング分析は、別資料(2011年のハーバードビジネスレビュー記事)によると、次のようなものです。

  1. 分析対象となる分野に関してインターネット上で公開されている文書(企業サイト、記事、公開PDF、特許公報等)を指定する。
  2. 個別の企業に関する文書について、その企業の"N-gram"およびキーフレーズを特定する。
  3. 2つの企業間でN-gramを比較し、80%以上に類似性があれば、その2つの企業の間を社会ネットワーク分析的にリンクする。
  4. これをすべての企業同士で行うことにより、社会ネットワーク分析マップができる。
  5. ネットワークが稠密な部分については、そこに存在している企業群に共通するフレーズを見いだすこともできる。
  6. 自分たちが興味を抱いている既知の企業に隣接している未知の企業は、何らかの有意な資源を持っている可能性がある(将来のパートナー/サプライヤー/顧客である等)。

このような手順で優位な企業や有意なキーテーマを抽出するセマンティック−クラスタリング分析により、シビックテクノロジーの「星」とも呼べる企業を浮かび上がらせています。シビックテクノロジーという新しいトレンドに関して新種の方法論で分析しているのが興味深いです。

■Googleに11億ドルで買収されたWazeをピックアップしているのがすごい

第三に、このように分析した中で浮かび上がってきたシビックテクノロジーの2つの潮流、"Open Government"と"Community Action"のうち、後者のサブセグメント"Information Crowdsourcing"に属する企業Wazeを非常に際立った企業として名指しで報告しているという点です(ネットワークマップの左上にWaze)。

Waze


Wazeはこの報告書が作成されていた時期、昨年の半ばに、Googleが11億ドルで買収を決めた企業です。事業内容は、道路交通情報をスマホを持つドライバー間でシェアすることにより、リアルタイムの交通渋滞がわかるというサービス。一言で言えば、ドライバーがみんなで協力して交通渋滞を切り抜けようというシビックテクノロジーです。このWazeを、上記のセマンティック−クラスター分析でエッジにある企業として析出しているのがすごいです。つまり、彼らの分析手法を使えば、将来において巨額のM&Aの対象になる企業をあぶり出すこともできないではないということです。

■社会改良にテクノロジーが使われる時代

とまあ大変に興味深い点を含む報告書です。

このシビックテクノロジーの中でオープンデータは、オープンガバメント分野の「公的データへのアクセスと透明性を実現する技術」として意味があるということになります。代表的な企業としては、政府機関のオープンデータパブリッシングを効率化するツールを提供しているSocrataが挙げられています。

流れとしては、オープンデータ、オープンガバメントの動きも大きなシビックテクノロジーのトレンドの一部であると考えるのが正しいのかも知れません。

従来のスマートシティやスマートコミュニティは、Knight Foundationの定義によればシビックテクノロジー中には入りませんが、世の中には色々な考えの人がいるわけで、スマートシティ的なトピックをシビックテクノロジーに含めて情報発信をしているサイトもあります
総じて、社会改良のためにテクノロジーが使われる新しい時代が到来していると言えるでしょう。

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