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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

所有しない経済

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2年ぐらい前、ヤフオクで中古オーディオ製品を頻繁に売り買いしていました。アンプというデカくて重いブツが非常に好きで、プリアンプをかれこれ十数台、パワーアンプも十台程度は試したと思います。あぁそうそう、サンスイの上位のプリメインなども試しました。重量が30kgぐらいありましたね(ヘタに運ぶと腰を痛める)。その他、CDプレイヤーも数台試したし、スピーカーも狭い6畳に大小とりまぜ5セットぐらい置いていた時期があります。

オーディオマニアの中には、頻繁に売り買いするマニアというのが一部にいるようです。頻繁に売り買いするのは、様々な組み合わせでどういう音が鳴るのか、試してみたいからです。オーディオショップの試聴室で鳴らすのではダメで、自室で、自分が大いに評価している機器と組み合わせて、どういう音で鳴るのか確かめたいわけです。
予算がある人だと1つの機器にかけられる金額が20~50万円程度(1個100~200万という機器を比較的普通に購入される方も一部にいらっしゃいますが)。そこそこ制約がある人だと1台数万円~十数万円。ヤフオクの中古オーディオ売買の世界では、以前に少し書きましたが、80年代の名機が10万円もかけずに入手できます(ただし、ヤフオクの中古オーディオ取引は、相当みっちりやった経験から言うと、不慣れな方にはお勧めできません。5回ぐらい売り買いすると、1回程度、ほんとに泣きたくなる経験に遭遇します。そのへんの詳しい話を書こう書こうと思いつつ、まだ書けていませんが)。

例えば、マニア垂涎のDENONのプリアンプのPRA-2000というのが相場8万円程度で売られているとして、これを入手したい人は何を考えるか?予算やお小遣いに限りがある以上、「何を売ったら8万円が捻出できるか?」と発想するわけですね。
オーディオでとっかえひっかえしている人は、ほぼ100%そうだと思います。あれをゲットするには、何を売ろうかと考える。

あのスピーカーを試したいから、このアンプを売る。このアンプはいまいちだったから、あちらのアンプと入れ替えてみる。そんなことを延々延々繰り返すわけです。
今でも思い出しますが、どつぼにはまった状態では、毎日飽きもせず、ヤフオクのオーディオセクションにアクセスして、出品される製品のページを1つひとつ念入りに読んで、当該製品の型番をぐぐって、関連資料ページをしつこくしつこく見て回って、はぁーとかため息つきつつ、いかにして入手しようかということに悩んでおりました。

そして自分の中で優先順位が一番低い機器に狙いを定め、写真に撮り、説明文を密度高くたっぷり入念に書いて、出品する。
そしてその代金が入ったら、間髪おかずに、垂涎の製品の落札にかかる。その繰り返しとなります。

その時期に売買した製品の台数は、たぶん100は下らないんじゃないかと思います。色んなことを学びました。苦いこともですが。

そういう頻繁な売り買いを繰り返していた時期に、ぼんやり思ったのは、「あ、この種の趣味嗜好が関係する比較的高価な製品は、所有しなくてもいいんだ」ということです。

マニア的な視点、あるいは別なジャンルでは、美を追求するといった視点で考えると、ある時期にAという商品を試すものの、別な時期にはぜひともBを試したい、それからCを試した後で、やはりAに戻りたい、そういう欲求があるわけです。クルマでもそうだと思います。

そういう欲求を持つ人がある程度の塊でいるとすれば、そういう人たちに、「所有しなくとも、満足ゆくまでとっかえひっかえできるサービス」を提供すればよい。そういうことを考えました。
なぁんだ、リースじゃないか、レンタルじゃないか、と思うことなかれ。「使用することから対価をいただくサービス」ということです。ユーティリティコンピューティングで言うところの「ユーティリティモデル」です。

これは、ある見方をすれば、製品は当初タダで配布する、そして所定の期間に、所定の使用料を徴収するというビジネスです。「当初はタダ」というのがポイントです。

仮にオーディオマニアだとして、McIntoshのプリアンプを計5台、聞き比べてみたいという人がいたとします。一般的に、オーディオ機器の音が”わかる”というのは、その部屋におけるエージングということもありますが、毎日聞いてみて、1週間ぐらい続けて、ようやくとその製品の鳴りっぷりというものがわかります(最低で1週間です)。異なる製品を並べて聞き比べるというのも、プリもパワーも相当にやりましたが、現実的には同時期に2台を並べて、切り替えて聞くのが限度。3台、4台も一緒に並べて本格的な試聴はできません。
で、商売をする側は、McIntoshのプリを2台、「当初はタダで」そのお宅にお届けする。そして聞いていただく。お代は後でというやつです。

この方式が可能であれば、顧客は「所有にかかる負担」がなくなるので、より多くのオーディオ機器を試すことになると思います。たぶん、生涯支出という観点では、かなり大きな額を出費することになるのではないかと思います。

「所有にかかる負担がない」というのは、家電を初めとした耐久消費財を購入することが当たり前だと思ってきたわれわれにとって、ひどく新しい世界です。「最初はタダ」。使った分だけお金を出せばよい。こういうのは、どうでしょうか?

このような「所有」を前提としないサービスを、ヒトの消費行為全般にまで拡大して発想すると、非常におもしろい経済の光景が広がってきます(大前研一言うところの「見えない大陸」だったりする?)。所得で負担しきれない分まで家に置いてしまうことを防ぐために、個々の顧客において支出の最適化が可能になるように何らかのファンクションをかませなければなりませんが、真面目に検討してみる価値がある経済ポテンシャルを持っています。

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