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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

ライクヘルド「Zero Defections」を読む

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昨日「エバンジェリスト」と記していた部分が原文では"Apostle"(使徒)だったことが判明しました。でもまぁ日本語では「エバンジェリスト」というカタカナ語の方がとおりがよいので、そのままにしておきます。

私が現在8割方の時間を使ってこなしている仕事は、ある企業のあるチャネルの改善に関わるご提案といったところで、顧客満足度、顧客ロイヤルティ、顧客エクスペリエンスなどの仕込を適宜進めています。

HBRのウェブ店舗で買ったままずっとまじめに読んでいなかったライクヘルドの古典的な論文「Zero Defections」に先ほどようやくと目を通しました。この論文の初出は1990年です。
顧客との関係の持ち方の原理について、古典的に説明している論文です。

目からウロコの記述が多々ありました。少し書き出してみます。ある程度、意訳です。

・企業は、自社のサービスから離反した顧客から、その理由を聞き出すことによって、近い将来に利益を減少させることになる可能性のあるポイントを把握し、その強化へと動くことができる。

・今日の財務会計の仕組みは、1人の顧客から一生涯にわたって得られるキャッシュフローをなんら考慮せず、一定期間のコストと売上のみを見るようにできている。

・顧客に向き合う仕組みをしっかりと作り、顧客との関係ができるだけ長く続くように工夫すれば、顧客からより多くの利益が生じるようになる。これはどの業界にも言える(この論文は金融、流通などのサービス業が対象)。

・顧客が離反する際には、その顧客から得られたかも知れない潜在的な利益をも手放すことになる。

・顧客との関係が1年、2年~7年と続くことによって、その顧客から得られる利益は、①ベースとなる利益、②より多くの販売機会がもたらす利益、③長く関係が続くことで減少するオペレーティングコストが生む利益、④その顧客が他の顧客を口コミで誘導してくれることによって得られる利益、⑤顧客が長く固定化していることで値下げで競争する必要がなくなることから得られる利益、という風に、累積的に増していく。

・あるクレジットカード会社で試算した結果、離反率を20%から10%に下げることで平均的な顧客の取引期間が5年から10年へと倍増、顧客が生む価値は134ドルから300ドルへ増加。さらに離反率を5%下げると、取引期間がさらに倍に伸び、得られる価値が300ドルから525ドルに増加した。

・離反率を5%下げるだけで、銀行業界では利益85%増、保険業界では利益50%増、自動車サービス業界では利益30%増と試算できる。

・10%のコスト削減を行うのに等しい効果が2%の離反率低下から得られる。

・企業は、その企業のサービスを利用することをやめることにした顧客から、理由を聞き出すことによって、非常に多くのことを学ぶことができる。

ちょっと長くなりましたが、そんなことが書いてあります。各所で引用される離反率と利益増加の関係の図もありますが、いまは割愛。

こうしてみると、企業は、自社を遠ざかろうとする顧客をひっつかまえて、「なんでウチのサービスをおやめになるんですか?」と聞き出さなければならないんですねぇ。

一般的に、企業の製品やサービスに不満を持つ顧客の大多数は無言のまま、その企業のもとを去ると言われています。クレームという形で意思表示をするのはほんの一握り。そのもの言わぬ顧客からどのようにして本音を引き出すかというのが大きな課題になりますね。

すでに各所で何度も言われていることですが、90年代後半から最近まで導入されたCRMは、ほとんどが成果を上げていないようです。

ライクヘルドのZero Defection理論に立ち戻って考えてみると、ここからは私の大胆な推察ですが、①CRMではインプット可能なデータに依存しすぎている、②利益に結びつけることのできるデータは既存のCRMシステムが把捉できないデータ、たとえばライクヘルドの言う離反客の離反理由(定性的ですねぇ。既存のCRMの枠組みでは処理しくにいですねぇ)の分析から得られる何かだったりする、③従って、Garbage in, garbage out(ゴミを入れればゴミが出るだけ)の格言どおりの結果となってしまう、ということなんではないでしょうか?

一種のホットライン(死語)を設置し、「何も言わずに立ち去る層」から、その企業のサービスの利用中止を決意する元となった経験の印象が鮮明なうちに電話をもらい、克明に書き留めて、当該企業にフィードバックしてあげる、なんていう事業があってもよいのではと思ってしまいました。

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