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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

インターネットにビジネス方法特許がしっくりこない理由-その2

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このトピックの続きです。

【仮説2】経営者が意思決定する際に、どうしても関心がビジネス方法特許の”強み”に向いてしまい、その特許が関係しない戦略オプションを行使しなくなる。結果的に企業価値が向上しない。

インターネット上で何らかの新しい枠組みを持った事業をやろうという場合、「まずビジネス方法特許を取って」という発想で臨んでしまうと、実際に事業がスタートしてから、様々な局面が訪れる度に、十中八九その特許を優先させた経営判断を下してしまうことになると思います。
経営者はすでに、当該新規事業の価値の源泉がその特許にあると考えているわけで、どのような企業活動を行うにせよ、その特許をはずした選択肢はあり得ないし、困難な状況があれば、まずその特許を守り抜くという態度に出るはずです。

リアルオプションを少し勉強してみると、企業価値が向上する可能性は、経営者が行使できる戦略上のオプションの多様性にひそんでいるということがわかってきます。
(リアルオプションを簡略に説明する愚をあえて冒せば、事業価値を算出する際に、純現在価値法(Net Present Value)では捉えきれない価値、すなわち、事業開始を延期する/市場調査を行って参入タイミングを伺う/展開途中で中止する/事業規模を拡大する、といった戦略上のオプションが持つ価値について、金融オプションの価格算出理論を用いて定量的に取り出す手法)

経営は多様な状況における意思決定の連鎖であるわけで、価値をもたらす顧客、その価値の元となるものを作り上げる従業員、景気や競合などの外部環境などに向き合いながら、常に最良の選択が求められます。
例えば、ある新規サービスに、特許が認められたビジネス方法を組み入れて市場に出したところ、顧客の要望が非常に多い改善ポイントが出てきた。当該特許の範囲では、その改善ポイントはカバーされていない。顧客の改善要求を容れると、サービスから特許の守りがはずれてしまう。さてどうするか?といった状況が訪れる。

この時、A.当該特許を捨てる、B.当該特許を捨てない、という二者択一的なオプションしかないとしたら、はなはださみしいわけです。特許から入る経営だと、どうしても近視眼的になって、その特許を生かすか殺すか的な考えに傾きがち。

そうではなく、A.顧客の要望に応えつつ、B.当該特許は捨てず、C.頃合を見て、D.当該特許を生かす別な方策も考えつつ、E.当該特許を生かすことができる別企業に売却する選択肢も残しつつ、F.当該特許の強化版で新規に特許を出願し、G.おまけに強化版の周辺特許を10本程度は固め…、といった多様な戦略オプションを駆使する立場に立つと、将来的な企業価値にかなりの希望が持てます。

「場合によっては当該特許を捨てることもできる」という余裕が、意思決定の多様性につながります。ビジネス方法特許も戦略上のひとつのオプションに過ぎないとする態度が、おそらくは正しいのではないかと思います。

リアルオプションに興味がおありなら、それだけを扱った単行本よりも、ぜひ「コーポレート・ファイナンス」リチャード・ブリーリーほか(上/下)をじっくり読み通されることをお勧めします。安直なネット上の解説だけに頼ると、その深い意味が捉えきれません。

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