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ヴィジュアル、サウンド、テキスト、コードの間を彷徨いながら、感じたこと考えたことを綴ります。

西横浜の夜に、「T.M.A.」は、響くのか? 呼吸を賭けた、ピッキング! ~6弦のカナリア(6)~

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『TERROR SQUAD』で、作曲・アレンジ・ギターを担当する、大関慶治氏。Jake E Leeファンなら必見!と言われるテクニックの持ち主だ。その腕を、日用品に含まれる化学物質は封じてしまう。
渋谷メタル会フェス 2023』を制した『TERROR SQUAD』が、ふたたび西横浜のライブに挑む。

メディアを動かす仲間たち。息する権利を取り戻せ。

5月7日。全国の『TERROR SQUAD』ファンから驚きの声があがった。
朝日新聞の朝刊。一面インデックスに「『香り』で異変 動いた仲間」。そこには、ギターをかき鳴らす、大関氏の写真が。
4月6日、朝日新聞デジタルに掲載された記事の、短縮版「(窓)無香料で聴いてくれ」(伊藤恵里奈記者)が、紙面に転載されたのだ。
同内容の記事は、「朝日新聞デジタル」にも掲載された。

twitterで掲載を知った健康被害者たちが、朝刊をもとめて外に出る。汚染された空気、大雨の中を、ガスマスク姿で。

早朝から、大関氏のもとには、twitter DM、facebook メッセージが、届き始めた。リツイートやシェアが膨れ上がっていく。全国各地の健康被害者たちも同様だった。症状の類似点に気付いた同僚や友人たちから、「新聞記事を見た」という知らせが届く。世田谷区長や各地の議員もリツイート。健康被害への関心の高さを伺わせた。

さらに、5月15日。
朝日新聞デジタルに、『香りに青春も職も奪われた 知らぬ間に加害者になる「悪意なき汚染」』という記事が掲載された。翌日朝刊にも、ダメ押しの掲載。
伊藤記者の同僚、机美鈴記者が、パネル展示イベント「化学物質過敏症・香害・SDGs」を取材したものだ。
堺市の展示会場には、健康被害者たちから寄せられた手紙が、所狭しと掲示されている。怒りをこらえ、苦しみを握りつぶすように、叫ぶ、文字。大関氏も、手紙とガスマスク姿の写真を寄せた。
主催者は、「香害はイノセント・ポリューション(悪意なき汚染)」だと強調する。複数のメディアを使って、苦境と改善策を訴えた。

ネットを積極利用しないひとたちには、新聞・テレビ・ラジオで伝えよう。勇気を振りしぼり、名を晒し、顔を晒す。矢面に立つ、命がけの攻防。これに勇気を得て、全国の健康被害者たちが、息を吹き返す。

ジャンルを超えて共感するアーティストも現れた。
シャンソン歌手のクミコ氏は、朝日新聞の記事を読み、感想をブログで公開。「柔軟剤のこと」という記事からは、来訪者の持ち込み移香に困惑している様子が伝わってくる。

マイクロプラスチックによる環境汚染問題への関心の高まりも、追い風となっている。
関東学院大学の応用化学コースは、ドラッグストアで購入した柔軟剤のマイクロカプセルを観察している。リスクが「データとして」示されつつある。

4月末、健康被害者たちの頼みの綱「そよ風クリニック」の外来診療終了という、悲しい出来事があった。それでも、彼らは、前を向く。
皆で支え合って、声をあげよう。 使用物質名の開示や製品への規制は、遅々として進まない。トップダウンがだめなら、ボトムアップで変えていこう。
15年前の空気を取り戻そう。

子どもたちに、これから生まれてくる命に、息のできない苦しみ、社会的な無理解による悲しみを、負わせたくない。―――大関氏の悲願に、共感するひとびとが増えている。
背後で支える層が厚みを増し、潮目は変わりつつある。

オン・ステージ、オフ・ステージ、両立の負荷に倒れる。

前回4月末のライブ前日、大関氏は、自宅周辺で柔軟剤成分に曝露した。
いつ、どこで、曝露するかわからない。ステージを離れても、緊張の絶えない日々。

神出鬼没の化学物質を避けようとすると、外出もままならない。孤立しがちだ。
そこで、大関氏は、同じ悩みをもつ健康被害者たちと相談。昨年末に、twitterスペースを使ったお茶会を開催。夜を徹して、ホストを務めた。

オンラインでつながった健康被害者有志は、シャボン玉石けん株式会社の講師によるZOOM洗濯講座を開催。また、啓発に積極的な議員たちとの懇談会も開催。さらに、オンライン・コミュニティを結成して、講演会を主催した。
講師は、全国で唯一せっけん購入に補助金が出る町・北海道厚岸町の、室崎正之議員。ホストは松戸市議会の増田議員。日本消費者連盟経由で「香害をなくす議員の会」からも多数の議員が参加。開催当日の、5月11日。参加者は56名に膨れ上がった。
「海と大地は貯金の元金」という演題で2時間。室崎議員の人柄と郷土愛、知識と経験の詰まった話に、参加者全員が感銘を受けることとなった。

だが、その準備はといえば、試行錯誤の連続だった。
健康被害者たちが、体調不良をおしての作業だ。大関氏は、広報を担当。参加希望者との接点となるため、負荷は大きい。調整や折衝も必要になる。
二日連続ライブでの疲労回復を待つ時間はない。ライブ翌日から、大関氏は、講演会の準備に注力した。
講師とのリハーサル、ホストとの打ち合わせ、ZOOMの操作講習など、作業は多い。多忙を極めたが、責任感で乗り切った。

そこへ、折からの天候不順。寒暖差と疲労。講演会の成功を見届けるや、大関氏は、風邪で臥せることになった。
通常、『TERROR SQUAD』は、毎週土曜日、スタジオで練習を行う。だが、これを休むほどの事態。
ライブの日は、刻々と迫る。関係者たちは気をもみながらも、回復を祈って、静かに見守ることしかできなかった。

当日券のみ。事前の周知が難しいなか、ライブハウス・オーナーが動く。

5月17日、ライブ3日前。大関氏、復調。間に合った。

今回のライブは『Hit By Pitch vol.9』と銘打ち、映画化で話題沸騰中の『fOUL』が出演。
5月20日、土曜日。17時開場、17時半開演。出演は、6バンド。『60' Whales』、『Mad Maniax』、『fOUL』、『Socilal Porks』、『T.C.L』。『TERROR SQUAD』はトリを務める。

会場はふたたび『西横浜 EL PUENTE』。これまで無香害ライブを連続2回成功させているハコだ。追い風のなか、連勝記録の更新なるか。

ただし、今回は、当日券のみ。予約不要のため、無香害の重要性を呼びかけたとしても、来場予定者に届く可能性はきわめて低い。
それでも、『EL PUENTE』公式は、一縷の望みをかけて、周知をはかる。
「【明日の無香害ライブへのお願い】関係者に香水、整髪料、柔軟剤、消臭剤等へのアレルギーがある方がおり、最悪演奏不可能になる可能性があります。可能な限りその類のものは避けて頂く様、よろしくお願いします!」

そして当日。
『EL PUENTE』オーナーのShigeru Shiggy Sato氏は、ライブハウス内の空気に、いつもとは異なるニオイを嗅ぎ取った。いくばくかの危険性を感じて、あらかじめ、大関氏に連絡。転換の時に換気の必要性がある旨を伝えた。この報告により、大関氏は、防毒マスクを持ってセッティングに臨むなど、心がまえができたのだった。

オーナーの配慮が心にしみた。体調は万全。客をなぎ倒す勢いで弾いてやる!

ラスト1曲で、アクシデント発生!アンコールは実現なるか?

20時50分。客の前に、ストラトを構えた大関氏がいた。21時20分まで、30分間を突っ走る。

今回のセットリストは、渋谷メタル会フェスと同じ。『Straight To Hell』で、幕を開ける。
地獄への門、重い扉を開くような、重厚な音。遠吠えのような歌唱が、客をつかむ。宇田川氏の手になる歌詞は、絶望的な言葉を並べながらも、かすかに希望を残す。
落ち着く間もなく、『Born Defector』。知る人ぞ知る名曲だ。起伏に富んだ構成。マーシャルから放たれる音の砲撃。強烈な印象を残す「大関の音」。切々と訴えかけるような宇田川氏の声。
『Survival For Conflict』と続き、新曲『No Wrong Way』では、おきまりのシンガロング。初めて聴く客も、声を合わせる。
『Bastards』から、『闇より深く...』強く、鋭く、激しく、速く。一体となって疾駆するリズム隊とギター。宇田川氏のパフォーマンスに共振する客たち。

そして、ラストは、『Chaosdragon Rising』
圧倒的な速度で、ドラムとベースとギターが絡み合う。音の激流に、ボーカルが重なる。
熱情を叩きつけて、すでに7曲目、音の渦に巻き込まれた客たちは、テラー・ワールドに酔いしれている。

龍のように駆け昇るボーカル。並走する、ギター。
BACK TO RIOT FIRE
BACK TO RIOT FIRE
Back on WILD STREAM OF SIN

魂を投げ出すかのような、叫び。
CHAOSDRAGON RISING!!

ところが。この時、異変は起きた。

ベースの音が、途切れたのだ。ベーシスト・前川氏のピッキングが止まる。音が聴こえない!プラグか?違う。出力側への信号が......ケーブルを目で追う。原因はどこだ!
ケーブルをつなぎ替える。出力しない。これか?違う!これも、違う!!
楽曲は進行形、他のメンバーは、全速力。1ミリセコンドたりとも止められない。「無理だ...」

湧き上がる客の熱情。水を差すな。ベースなしで、やる。4人の意思は、確認し合うまでもなく共通だ。
『TERROR SQUAD』は、アクシデントに強い。ベテランの凄みを見せろ。このまま、客を惹きつけたままで、突っ走れ!
ジョーカー氏のドラムが、ひときわ強く立ち上がる。ベースの音なく、ギターソロに突入。駆け上がり、ピックの斧を振り下ろす。
激情を絞り出すかのように、1曲を終えた。

アンコール!湧き上がる歓声!アンコールだ!!

客の歓喜、その間に、大急ぎでベースの出力を復旧。エフェクターへのケーブルが断線していた。エフェクターを介さず、生きているケーブルを急きょ接続。
ベースのケーブルにマイクのケーブルが巻き付いていたようだ。宇田川氏が駆けた際に引っかけたのか。それほどまでに、宇田川氏のパフォーマンスは激しい。心の中の闇を引きずり出して、昇華させる。
それは、ライブという名の、祭り。スラッシュという名の、現代の、祭典だ。

ベースの出力を確認するや、間髪入れず、アンコールに突入。

トーキョー!メタル!アナーキー!!

宇田川氏の第一声に、会場は、喜びではちきれんばかり。『Tokyo Metal Anarchy』略して、『TMA』。

ジョーカー氏の刻むシンバルに誘われ、音空間が動き出す。突入する、ギター。1小節目から、激しいポジション・チェンジ。低音から中低音へ、指板を自由に跳躍。
ピックスクラッチのジェット音で脳を抉ると、一転、すさまじい速弾きへ。

激しく回転し、歪み、せき止めるものもないままに、あふれだす音の奔流。
ジョーカー氏のドラムが、客席へ矢を放つ。鋭く、ライド・シンバル。響き渡る、ハイハット。腹を抉る、スネア。指板を縦横無尽に駆ける、前川氏のベースが、背筋に響く。ダイナミックな演奏に、4人と会場は一体となった。
前川氏、大関氏も、天を仰いで声を張り上げる!

T.M.A.!!
NEW BORN RACE!!
BREAK YOUR CHAIN!
BY YOUR OWN WAY

宇田川氏と前川氏の掛け合いが始まり、ギターの中低音が手堅く支える。
オーバードライブでクリップされた、太さの際立つ音。その1音1音のディテールを、右手はリアルタイムで制御する。天性の、手首と指に備わる感覚。磨き上げた、ピッキング。
盛り上がりに花を添えるように、ハンマリング&プリング!魅せるテクニックが、客の目も奪う。
なめらかな、高音の単音速弾き。そして、最後は、JAKE FAKE!擬似ディレイ!
渋谷メタル会が「極上のギタープレイはJake.E.Leeファン必見!」と評した、そのテクニックは華やかだ。スライド・ダウン。タップ&スライド・ダウンを繰り返す。

4人の繰り出す音が重なり、客たちが呼応。盛り上がりが、盛り上がりを呼び、らせんを描いて上昇するエネルギーがハコを満たして、嬌声のなか、ようやくマーシャルは沈黙したのだった。

安心安全なライブへ。4人のタレンテッドを守れ!愛と感謝の、30分。

この一夜を、来場者は、こう評した。
「土曜のエルプエンテ『SOCIAL PORKS』→『T.C.L』→『TERROR SQUAD』の並び。異種格闘技過ぎて最高だったし、アンコール『Tokyo Metal Anarchy』で死んだ」
ナイフのアイコンが並ぶ。その演奏は、死にいたらしめる凶器。それほどまでに、凄まじかったのだ。

それは、4人が、全力で演奏できた証でもある。

振り返って、大関氏は、会場の安心感を強調した。
「演奏中は抗菌洗剤や柔軟剤臭も感じずしっかり演奏できました。」

スタッフ、出演者、客。皆で創り上げた、一夜。
大関氏がSNSで発したことばには、愛と感謝があふれている。

「無香料にご協力くださった皆様に感謝!!
『EL PUENTE』オーナーの『弱者や少数派を取り残さない行動』は『愛』そのものだと思います。演奏中もギターの近くで『ニオイの番人』的な感じでそばにいてくれたので、安心して演奏できました。いつもありがとうございます!!香害を周知してくれた企画者さん、『EL PUENTE』に感謝を!」

この日は、他の会場でもライブが多数開催されていた。そのため、客足は伸びないと見られていた。
だが、予想は良い方向に外れた。大賑わい。『TERROR SQUAD』のライブを初めて体験する客も多数。
『TERROR SQUAD』公式によれば、先の渋谷メタル会フェスでも同様で、その反応がうれしかったという。

宇田川氏が振り返る。
「初めてのお客さん多かったけど、こうゆうの燃えますね。20年前くらいはこうゆうライブ沢山出てて、それで鍛えられたと思います。自分で言うのもアレですがそれがテラーの強みです。」

これから世代交代が進み、若い客も増えていく。親子二世代のファンも、出現するだろう。初めて見る『TERROR SQUAD』に心奪われ、足しげく通うようになるファンも現れる。
4人は、その演奏で、アウェーをホームに変えていく。セオリーの鎖を断ち切り、ブルドーザーで荒れた道を均すように、独自のジャンルを切り拓く。無香害の客の歓声を浴びながら。

あの4人の演奏を、その場で、全身で、感じたい。激情に満ちたライブハウスに、人生のひとときを埋めたい。
誰も書くことのない曲。誰も思いつかぬアレンジ。誰も再現しえないテクニック。唯一無二のギタリスト、大関慶治の音を聴きたい。

『TERROR SQUAD』のライブに行きたい、だから、無香害。
すべての客がそう願うとき、おのずと空気は変わり始める。

NEW BORN RACE!! NEW BORN MUSIC!!
ああ、そうさ、あの音に出会うためなら、無香害にだって何だってするさ!あの音に出会うためなら。


TERROR SQUAD』ライブ・スケジュール
読者の皆さまがご来場の際には、フレグランス・フリーを実践していただければ助かります。

6月4日(日)『東高円寺 二万電圧』『PIG'S TAIL 19TH ANNIVERSARY LIVE
開場16時、開演16時30分 8バンド出演4番目(18:30-18:55)※前売り予約は、リンク先アカウントへDM、リプ

8月5日(土) 『新大久保 EARTHDOM』

9月16日(土)17日(日)『TTF RETURNS 2023』TRUE THRASH FEST RETURNS 2023-RS限定「TTF 2-DAYS」特典TS付き通し券(前売りのみ) - ROCK STAKK RECORDS

9月30日(土)『西横浜 EL PUENTE』『憎まれっ子世に憚る十五巡目』13時30分開演 BAREBONES、G.L.G.、TERROR SQUAD。予約希望の方は、リンク先(同ライブ企画者のアカウント)を参照。

12月22日(金)『新大久保 EARTHDOM』DIE YOU『Black X'mas
BASTARD! / TERROR SQUAD、2マン!開演19時30分。

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5月20日『西横浜 EL PUENTE』にて、音合わせ中の、ボーカル・宇田川、ギター・大関、ドラムス・ジョーカー、ベース・前川。大関氏は、ゲン担ぎで、初の無香害ライブ時に入手した『BAREBONES』のTシャツを着用。(写真『TERROR SQUAD』Officialより)


『TERROR SQUAD』【試聴・購入】(アルバム2枚)
【PV】『Chaosdragon Rising』

※本稿は、関係者の公開ツイートや投稿をもとに、情報を再構成したものです。

「6弦のカナリア」目次

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