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PEZYスパコン詐欺の構図と朝日新聞『ニセ半導体』!?記事の真相

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マスコミ報道のおかしさが時々ソーシャルで話題になります。専門知識がなさそうな記者が書いた記事が意味不明で、何が起きているのか分からないとか、誤解しているに違いないとしか思えないからです。

Twitterのトレンド「ニセ半導体」が上がる元になったこの朝日新聞の記事もそうで、スパコン詐欺といいつつ性能が出てベンチマークテストでランキング入りしているのに、ニセ半導体で性能が出せるのか? と話題になりました。該当記事部分はこちらです。

https://www.asahi.com/articles/ASL1T52WBL1TULFA011.html

NEDO検査、ニセ半導体見せすり抜け スパコン詐欺:朝日新聞デジタル via kwout

社員から偽の半導体を見せられ、本物と信じ込んでいたという。  
NEDOを所管する経済産業省が25日、助成の経緯について立憲民主党に説明。助成金額を確定させるための検査でNEDO職員が外注先に立ち入った際、社員から開発の成果として偽の半導体を見せられたケースがあった。性能は外観だけでは分からないが、電子顕微鏡を使って構造を調べたり、動作テストをしたりするなどの確認をしなかったという。

この記事は全くの誤報なのでしょうか?それとも誤読なのでしょうか?

そもそも、PEZY社の詐欺容疑対象は、積層メモリデバイスの実用化開発助成金 約5億円の不正流用

朝日新聞の記事、見出しにスパコン詐欺とありますし、多くの人の記憶にはスパコン詐欺と残っています。しかし、技術的に詳しいことに踏み込んだ日経BPの記事 「PEZY社長逮捕、スパコンの旗手に何が起きたのか」浅川 直輝=日経コンピュータ 2017/12/07 を見ると違った実像がわかります。12月5日に逮捕された容疑は イノベーション実用化ベンチャー支援事業での超広帯域Ultra WIDE-IO3次元積層メモリデバイスの実用化開発案件であり、積層メモリーの実用化にという名目で受けた助成金を不正流用したことが問題とされているわけです。

また、産経新聞の1/24の記事 斉藤元章容疑者、「桜井基樹」の選手名でカーレース出場 レース事業の損失穴埋めに充当か では、お金の流れも報道されています。カーレース事業で赤字を出した会社を「ウルトラメモリ」と社名を変えていました。日経BPと産経の報道をあわせて読むと、積層メモリーを発注したことにして対価として資金を支払い助成金を不正に流用したという状況が見えてきます。

朝日新聞 ニセ半導体記事の真相

いくつかの記事を横断的に読んでから朝日新聞の記事を見るとやっと実像が見えてきました。

NEDOが立ち入った先は、3次元積層メモリーデバイスを実用化するという会社であり、助成金を受けて実用化したというメモリー(半導体)を見せてもらったが、期待された性能が出る「本物」ではなかったということでしょう。3次元積層構造だというなら電子顕微鏡なりで拡大して構造を調べるとかいうことも意味を持ちます。また、メモリーのベンチマークテストかなにかで性能を調べるということもやるべきことだったかもしれません。

ただ、こういう確認は大変なので、開発のための資料とか開発のために使った経費の内訳とか他の成果物で確認するのではないかと私は想像します。

問題は資金を初期の目的に使ったかであり、その正統な支出がされたという裏付けがとれればそれで済むからです。

ともあれ、謎の記事の真相が見えてきたやっと見えてきた今、一般紙の報道がどうあるべきか?そして我々はどう読むべきかという課題がありそうです。

記事自体は、もう少し意味がわかるように「助成金の対象となった高機能メモリー(半導体)とは違う一般メモリーが見せられた」とか書いてくれることを期待します。電子顕微鏡で見るとかいう前提が書かれてないと意味不明であり、何が「ニセ」なのかと状況が分からないからです。

読み手ができることは難しいのですが、こういったブログで補っていくのがひとまず早そうに思います。マスコミとソーシャルメディアとが補完していくことで我々の理解が深まる、そう期待しています。

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