センター試験地理Bのムーミン問題は良問。実はムーミンの舞台の国を問う問題ではない
センター試験地理Bでムーミンなどのアニメが取り上げられて大きな話題になっています。マイナー科目だけど大事という地理愛がある私としては話題になるのはいいことと思うのですが、一つ懸念があります。単にアニメの知識とかの些末な事を聞いたわけではありません。
そりゃあ、「ねえムーミン、こっち向いて」っていう有名な主題歌があり、私もレコードを持ってて何度も聴いたのでそれをもじった見出しにしたくなるのはわかります。でも、実際のところ、ムーミンがどこ出身か?とかどこに住んでいる?という問題がでたわけではありません。朝日新聞のこの記事は誤誘導であり、かなり誤報に近いと言わざるを得ません。
ねえムーミン、どこ出身? センター試験出題に反響:朝日新聞デジタル via kwout
実際の問題はこちらです。まず、デンマークを経由して北欧3国を旅するという流れで地図付きでこの問題は始まっています。フィンランド、スェーデン、ノルウェーという位置関係からしてもう問題中で記載がされていたわけです。
センター試験2018 地理B問題|解答速報2018|予備校の東進 via kwout
問題は、このあと、3国の発電エネルギーの違いなど様々な知識から推定して解く問題が続き、4番目にアニメを使った問題でムーミンなどが登場します。
センター試験2018 地理B問題|解答速報2018|予備校の東進 via kwout
センター試験2018 地理B問題|解答速報2018|予備校の東進 via kwout
そりゃあ、ムーミンがどこの国を舞台にしているか知っていたら一つは分かるのですが、それだけでは正解になりません。国に加えて言語も選ばねばなりません。
また、国を選ぶ方ですが、これは実はムーミンを知っているかという問題ではありません。
アニメ「小さなバイキングビッケ」の舞台の国がわかればそれで、国は自ずと決まるのです。この小さなバイキングビッケ、若い受験生は知らないでしょうが、この絵柄と名前からバイキングに関するアニメだとは分かるでしょう。親切にもバイキング船まで載っています。そして地図もあります。バイキングはヨーロッパ中を荒らし回ったわけで外洋に漕ぎ出しやすい国ということで、勘でもフィンランドでなく、ノルウェーの方だと推定できる問題です。そして消去法で残ったムーミンの 「タ」がフィンランドを舞台としたアニメーションとわかります。
次に、言語です。ヒントはAの方がスウェーデンとほとんど同じということで、語族としてスェーデンとAが共通、Bは全く違うとわかります。フィンランドがウラル語族で、スェーデン、ノルウェーのゲルマン語族と知っていたら解けます。また、単語の長さを見て英語っぽいAの方がイギリスに近い方という選び方でも当たります。実際英語に近いのがノルウェー、スェーデンです。
さらに、大きなヒントがあります。トナカイの絵です。トナカイ、サンタクロース、フィンランド という連想が働けばもう言語についてはBだとわかるでしょう。受験生へ出題者からのちょっと遅れたクリスマスプレゼントなのかもしれません。
毎日新聞はこの問題を好意的に解説しています。
教科書に載っていない題材を使った問題を、基礎的な知識を生かして解く「実用的な思考力」を試す近年の傾向が今年も見られた。
ムーミンが取り上げられたのは北欧の3カ国に関する問題。ノルウェーとフィンランドを舞台としたアニメと、両国の言語で書かれたカードとの正しい組み合わせを答えさせた。
もう一つのアニメは「小さなバイキングビッケ」。ムーミンの舞台がフィンランドと知らなくても、バイキングと関係する国はノルウェーだという知識があり、三つの国の成り立ちから設問中に例示されているスウェーデン語と、ノルウェー語が似ていることに気付けば問題は解ける形になっている。
毎日新聞については辛いことを書くことが多い私ですが、この案件に関しては非常にいい報道だと感心しました。新聞の短いスペースでこれだけちゃんと書けるのは凄いなと。
この問題の意義を、地理担当の高校教師Sunday先生のTweetでまとめます。
センター地理Bのムーミン問題、いろいろ突っ込みどころはあると思うし再検証は必要だと思うが、アニメと地理を結び付けて出題したという出題者の工夫は評価されるべき。生徒に媚びているのではなく、生徒が普段接する文化が教科の内容と関連性を持っているんだよ、というメッセージである。
-- Sunday (@dw_sunday) 2018年1月13日
勉強が社会で役に立つのか?という疑問を持つであろう高校生へのメッセージが含まれていると思います。そして、単にアニメの知識が出題されたという誤誘導的な報道をただし、勉強と実社会とのつながりを正しく受け止めたいところです。