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日本は72位か44位か?大きく違う二つの「報道の自由」調査を推移グラフで比べてみた

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日本の報道の自由度が落ちて問題だと2回ニュースになりました。最初が4月20日ごろの日本は、72位(スコア 28.67 ※ スコアはいずれも小さいほど自由)に落ちて香港や韓国より下というものです。この報道より小さい扱いで26日にも報道されたのですが、こちらは44位(スコア26 ※ 同じくスコは小さいほど自由)でした。前者はNGO「国境なき記者団(Reporters Without Borders)」調べで後者はNGO「フリーダム・ハウス( Freedom House)」調べです。後者は不破雷蔵さんのブログでご覧の方もいらっしゃるでしょう。さて、大きく順位が違うこれらの調査、どちらが妥当性があるのか?まずは最新データの違いをランクで塗り分けたマップで比較してみましょう。

2016年発表データで二つの調査を比較してみた

国境なき記者団 2016年発表
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国境なき記者団では、クリーム色の薄い方と濃い方が自由の範疇です。西欧・北欧の他、ポーランドやルーマニアなどとUSやオーストラリア、台湾、などがここに入っています。日本はそれに次ぐやや不自由とされる分類で、南米の多くとイタリア、韓国などと同じグループになっています。小さくて見えませんが香港も同じです。書店主らが拉致されたり、身の危険を感じて日本に移住する人が出る香港より下ということに疑問がでています。一方Freedom Houseで日本の扱いは大きく違います。

Freedom House 2016年発表
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日本は自由というグリーンの分類に入っており、ヨーロッパの多くの国、北米、オーストラリア、台湾などと同じです。ちなみに、Freedom Houseでは香港は独立したデータを持ちません。これに次ぐやや不自由なグループは濃いクリーム色でイタリアや東欧南部、南米、韓国、インドなどが入っています。国境なき記者団では「自由」と扱われたルーマニアは日本より下の区分です。国境なき記者団で日本より順位が上で目立ったタンザニアはスコア55で日本の26とは大きく引き離されより不自由と判定されています。

以上最新データで比較してみたのですが、経年変化を追うとこの二つの調査の性質の差がよく分かります。ある程度ニュースで触れることの多い馴染みある国(日本、韓国、台湾、オーストラリア、米国、イギリス、フランス、イタリア、)の推移をとってみました。なお、Freedom House は2015年のページで国別にマウスでフォーカスを当ててでる順位を目で見てプロットしています。見間違いがある可能性があることは先にお断りしておきます。

二つの調査の時系列推移に見られる特徴

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一目瞭然なのは、国境なき記者団ではデータが2012年から2013年にかけてドラマチックに日本(赤丸のチャート)の値が下がったこと、そして日本だけでなく、オーストラリア、イギリス、米国などなどことごとく落ちたこと(赤の破線囲み)です。なぜ2013年に主要国の報道の自由度が一斉に落ちたのか? 各国共通で報道の規制が一斉に変わるというのはとても考えにくいことです。思いつく仮説を三つ挙げます。
仮説1:国境なき記者団が調査方法を変えて下がった。
仮説2:国境なき記者団は日本の順位低下の理由を東電福一事故報道での規制がと言うが、米国やイギリスなど多くの国が「グル」になって一緒に規制しているため、同時に下がった。
仮説3:世界中の国民は騙されて気づいていないが、国境なき記者団は世界中が気づいていない秘密を知っている。

ともあれ、合理的な説明は私には不可能です。

一方、Freedom House ではスコアの変動は緩やかですが、イタリアと韓国だけ不自由だったのがほぼ横ばいな一方、オーストラリアやフランス、日本など比較的自由とされた国々のスコアが落ちていることです。理由はよく分かりませんが、ともあれ、日本だけ取り上げてスコアが落ちていると悲観するよりはなにか先進諸国共通の問題があるとFreedom Houseが考えていると言えそうです。

また、Freedom House ではイタリアのスコアが青線囲みのところで低下しているという特徴が観察できます。この青線の範囲は、ベルルスコーニ政権の時代であり、実際に報道に問題が生じてスコアが落ちたと見られていることが分かります。世界有数の資産家でメディア王、そして公私ともスキャンダルの多いベルルスコーニなのでこういう評価は納得できるものです。

原発事故データ隠蔽論に立つ、国境なき記者団の調査スコアは無意味

二つの調査データの時系列推移を並べて見るに、国境なき記者団のデータは不可解な動きをしていることが分かります。

日本のレポートで国境なき記者団はこう論評しています。

The Fukushima nuclear disaster, the imperial family's personal lives and the defence of Japan are all "state secrets."

福島第一原子力発電所事故、皇族の個人的生活、日本の防衛の情報はすべて「国家機密」である

日本のマスコミはこの変な論評をストレートに報じてはいません。東電福一でデータ隠蔽についてはマスコミが報じているところであり、報道できないわけではありません。皇室報道は完全なタブーではなく、少なくとも週刊誌では賑わっているニュースです。そして日本の防衛の情報も他の国に比べては自由に報道されていると考えます。少なくとも、2012年にスコアがマイナス1にまで自由と評価された状況からそれほどは変わっていません。

彼らの説明に従うと、東京電力福島第一の原発事故データを隠蔽・改ざんしているのは、日本に限らず、英米仏豪などの先進諸国共通の問題のようです。ただ、私にはこの説明は、彼らが陰謀論に囚われてまともな判断ができないという証拠にしか見えません。

国境なき記者団のスコアがどうしてこう変な動きをしているのか?彼らのデータにはどれほどの意味があるのか、調査報道するマスコミが現れることを期待しています。

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