デフレ下で間接税増税すべき理由‐相関と因果関係の違いが分かれば騙されない
デフレ下の間接税増税は愚策と主張するブログ、平成時代の日本の税収入がここまで落ち込んだ理由〜デフレ下で間接税増税する愚策をなぜ繰り返すのか? - 木走日記 viakwout を見つけました。しかし、「理由」という題にもかかわらず、その説明が間違っているというか説明になっていません。
特に消費税を増税した平成9年度以降本年度まで、一度も平成9年度の税収を越えることはできていません。
上の記述は、消費税増にも関わらず、総税収が落ち込んだことの説明の図ですが、消費税を増やしても税金は落ち込んだ、という「相関」を示すだけであり、「因果関係」の検証はされていません。
ちょうど先日公開された、「相関と因果について考える:統計的因果推論、その(不)可能性の中心」での、「女性の平均寿命」と「NHKの放送受信契約数」の関係と同等のグラフです。
たまたま、そうなっている(相関関係がある)ものを、引っ張りだして、原因と結果という因果関係があるかのように書いたプロパガンダに過ぎません。何しろその理由の検証は無いのですから。
成長率が落ち、景気が低迷して税収が落ち込んだ時期と消費税導入や税率上げと重なったとして、それを、 間接税増税をあたかもデフレの原因のように語るのは不適切なことです。
つまりこの平成23年間、この国はほぼ一貫して「減税」されてきたのです。
何の税目が減税されてきたのでしょうか。所得税と法人税であることは明らかです。
このあたりの記述で、直接税を「減税」してプライマリバランス(基礎的財政収支)が崩れたかのように書かれています。これも相関はあっても因果関係があるとは言いがたいものです。収入が伸びなくなり、赤字企業が増えて、所得税と法人税が取れなくなった結果的にそうなったという話です。
また、所得税には限界がきています。働く人がそそそも減っていて、高齢者などの資産や年金で暮らす人が増えているのです。こういう人からも税負担をしていただこうというのが消費税などの間接税であり、嘆くべきポイントは、福祉切り詰めとかの節約と間接税増税という必要な策を取り、基礎的財政収支のバランスを怠ったことなのです。
デフレの意味と消費税増の意義:
さて、「デフレ」の本質は何でしょう? 世間で、デフレは二つの意味で使われます。
1つめは、原義としてのデフレーションであり、物価が下がることです。対義語はインフレーションです。1970年代のインフレの時代を覚えている人は、インフレが好景気と直接的な結びつきは無く違った性質の事象だと記憶されていることでしょう。
2つめは、「不景気」としてデフレを使います。待っていたらより安くなる、現金やそれに近い資産を持つのが特、という時代に、モノは売れにくくなるので、 デフレ= 不景気 という認識が置きやすく、あながち外れてもいません。
段階的消費税、増税の意義:
2012年現在の日本はデフレの状況にあります。このデフレはグローバル化が進んで、中国や他のアジアやアフリカなどの国から安くていいモノが入り続け、継続的に物価が下がり、近い将来も上がりそうにないと予想される状況にあるために起きたことです。
並行して、日本では、生産性向上、産業の発展、イノベーションといったものが停滞しています。より進歩するために設備を入れ替えるでなく、どうせ需要も減るのだからと投資が落ち込んでいる状況です。
このデフレ下で段階的に消費税を上げるという法案が衆議院を通過しました。木走日記では、この消費税税率上げを愚策として糾弾されています。確かに、この程度の税率上げでは足りないし、急速に進む少子高齢化社会と成長の停滞という自体に、福祉の削減とかの策も併用せずにはいられないのですが、それでもなお、政策の方向性というか、デフレ期にやる政策として正しい効果があります。
デフレを解消し、物価が上昇するインフレの状態を着実に作れるというメリットです。以下は、放っておくと年率1%の物価下落(-1%のデフレ)の状況で、年率2%の段階的消費税上げを実施した場合の、物価のシミュレーションです。デフレ下で、5000万円の不動産があったとして、頬っておくとどんどん値下がりしてより安く買えるので「今買う」理由はよっぽど必要じゃないと生まれません。
それが、消費税の段階的上げで、擬似的に1%インフレな状況を作り出せます。
まごまごしていると、値上がりして損なので、購買を検討している人はなるべく早い決断と行動を迫られます。
毎年少しづつの税率アップなんて手間が大変ですが、長期的にはこの程度税率アップせざるを得ない、そんな認識が広がると、買えるものは今買うが得、そんなパラダイムシフトが起きるわけです。
物事にはいろいろな見方があり、私の提案は一つの意見ですが、いずれにしろ、もっともらしいグラフを魅せられて、「そこに因果関係があるのか?」そんな疑問を持たない人は遠からず騙されること必定です。
もっともらしい言説の確からしさを吟味し、プロパガンダを見抜く洞察力向上が進むことを期待しています。