孫正義氏の「スペインでは自然エネルギーが主流説」が怪しい件
8月に行われた、日本のエネルギーを考えるという孫正義氏と堀義人氏対談。議論では孫子の勝ち、とかいう判定が聞こえてきますが、孫氏の資料を細かく見るといろいろ疑問が湧いてきました。「スペインでは自然エネルギーが主流」とういうのは、どうも、たまに起きる日のデータを切り取っただけで、また、一部解釈が違っているのじゃないかという疑問です。
孫氏の資料で問題の箇所です。
風力が大きな比率を占め、一日安定して稼ぎ、電力需要のピークである夕方には水力が供給を伸ばしてガスタービンと共に支えています。更にまた、「太陽光など」が上乗せされていて自然エネルギーすごいなぁ という雰囲気があります。
「その他」の中心は、コージェネレーション発電:
ただ、冷静に見ると、その他は一日中比較的安定して供給されていて、太陽光がほぼすべてでは無いことが論理的に推定されます。
REDの別資料に、その内訳データがありました。
Special Regime というグループで主力の風力(グラフのブルー)をのぞいたものがその他になります。太陽光は、設備としてその他中22%程度なのですが、ここは生産ベースの数字が必要で大体6%程度です。生産ベースでその他の中心はコージェネレーション発電となります。
また、孫氏のグラフの発電源比率は、他の日を見ると状況が全く違うことが分かります。以下複数こちらからの抜粋を紹介します。
これは、2011/8/23のデータで、下から、水力、原子力、石炭、コンバインドサイクル、風力、その他 です。風力とその他が似た緑色でほとんど区別がつかないのですが、要するに、風力は極わずかしかありません。孫氏は「自然エネが主電源での安定供給 自然エネの発電量予測 差異は5%以内」と紹介されていますが、ともあれ、風が吹かない日に、発電されないということには変わりなく、風が吹かず、他で補わなければならないと分かるので、コンバインドサイクルや水力で補えるから停電を避けうるという意味に過ぎません。
もちろん、風力が稼ぐ日もあります。
この2011/2/28だと、風力が大きく稼ぎ、幅が広いのでどういう緑か読み取りやすくなっています。こういう稼げる日は、水力やコンバインドサイクルを控えめにし、なおかつ電力輸出も大きくできています。
風力発電が増えるジレンマ:
風力発電は、頼りになる主力ではなく、あったらラッキーな存在だと分かりますが、ないよりはあった方がうれしいよい存在でしょうか?そうとも言い切れません。
電力は貯めることが非常に困難なため、変動が大きな風力の比率を増やすと、補う発電で大きな設備が必要となります。コンバインドサイクルは非常に大きな供給力を持っていて、風が吹いた日は稼働率を落とし、また、刻々と変わる必要電量に応じて発電量を調整していることが分かります。
自然(再生可能)エネルギーは、稼ぎが不安定なアルバイト:
自然エネルギーへの期待は分かります。コストダウンが進めば、後は燃料がいらないから丸儲けになりかつ、エネルギー問題の根本解決に繋がるかもしれません。
しかし、大いに期待されて安全と思われてきた原子力発電が大きな事故を起こしたように、自然エネルギー発電のコストダウンも期待通りにいかない可能性が大いにあると私は考えます。そして、将来コストが下がって、廉価な電力の供給源とするためにも、自然エネルギーへの投資は、ノウハウ蓄積と投資対効果の見極めをしながら徐々にやるべきと考えます。
風力や太陽光発電はヨーロッパや中国など世界的に取り組みがすでにされていて、今は過剰供給と補助金が追いつかない問題で、特に太陽光パネルの値段が暴落という局面にあります。それだけ下がった今でも、太陽光発電は他の電力より割高でかつ、稼働できない日に他の方式から電力供給で助けてもらわねばならない、「稼ぎが不安定なアルバイト」という位置づけにあり、近い将来も変わりそうにありません。遠い将来、超長距離直流超電導送電が安価に行えて、サハラやネヴァダの砂漠の電力をもらい変動や太陽の照る時間帯や、風力の不安定さをプールできるようなことができる日まで、この状態は変わりません。
結局のところ、スペインが続けているように、原子力、天然ガスによるコンバインドサイクル発電、石炭、水力などなど多様な電力供給原あっての風力発電ということが言えそうです。
そういうミックスの中、日本の強みが生かせるジャンルとしては原子力とコージェネレーション発電が有望と考えています。原子力は反対の意見も増えている中ではありますが、重大事故のノウハウをこの事故対応で積むことで日本の原子力技術で世界に貢献できる強みになると期待しています。
鉄道、航空機、自動車などなど多くの事故と死者を出しながら科学技術は発展してきたのですが、今回の不幸な原子力発電所の事故もその課題克服での技術・ノウハウ蓄積は大きく、21世紀、22世紀と続くであろう世界の原子力発電で求められる事故対応能力向上の礎の一つになりえる、そして、是非なって欲しいと願っています。まだ90年ほどある21世紀でエネルギー需要の高まりのなか地球規模で原子力発電の必要性は無くならないでしょう。
また、コージェネレーション発電も、日本では家庭向けという小規模コージェネレーション発電が立ち上がりつつあり、ここは世界をリードしうる余地があります。もちろん、大規模なコージェネでいいものは海外から輸入していけばいいとは思いますが、家庭用という別の切り口での普及もすすめられれば、より一層活躍が期待できます。
ちょうど、24日に、家庭用コージェネレーション発電、エコウィルで停電時の発電対応を東京ガスと大阪ガスが検討というニュースが流れました。欲しい物が減っている今、安心で省エネという投資は日本で立ち上がりつつあり、ここで普及とコストダウンを先駆けることができれば、世界に貢献して輸出できる新たな製品とノウハウになりえます。
世界的にそれなりに需要があるのに、それでも安くならない、風力・太陽光発電と比べて、家庭用コージェネは重点投資の勝ちが大きなジャンルでしょう。
日本がどうすれば世界に貢献できるか、そういう観点で発想し、実行されることを期待しています。