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「関東各地の放射能値の可視化:micro sievert」3/28版が「ウソ」な理由

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何万という死者・行方不明者を出した、東北関東大震災そのものより、首都圏の関心は福島第一原子力発電所の事故に関心が集まる中、「関東各地の放射能値の可視化 http://microsievert.net/ 」が人気を呼んでいます。分かりやすい、TwitterやFacebookでは大人気でどんどん広まっています。しかし、私は本質的に図解の方法が間違っていると危惧しています。直感的に誤解を与えてしまうと。

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「累積」の危険性を「瞬間速度」たる雨の振り方で視覚化する問題:

では、どこが問題なのでしょう?

それは、「速度」に相当する、瞬間の値と、「距離」に相当する一年続いた結果の情報がまぜて扱われて、しかも、視覚的に速度に見える、「雨の降り方」になぞらえて視覚化されているところです。

「緊急に脱出が必要」とされる1000マイクロSv/時は、 http://www.irf.se/~yamau/jpn/1103-radiation.html で危険な瞬間値(時速のようなもの)として記述されています。この引用元のデータが正しいかどうかはともかく、ここは瞬間値を扱い表現するものとしての図としてはあっていると思います。

しかし、「健康に影響」については大いに誤解を招きうる、というか「ウソ」な表現だと思います。

データの根拠は http://www.u-tokyo-rad.jp/data/twittertoudai2.pdf の記述

もっと低い放射線量では、症状もなく、検査でも分かりませんが、発がんのリ
スクは若干上がります。ただし、およそ100mSv(ミリシーベルト)の蓄積以上
でなければ発がんのリスクも上がりません。危険が高まると言っても、100mSv
の蓄積で、0.5%程度です

を元にされています。この記述自体は権威あるものですが、その一年間の累積値(いわば距離)100mSvを一時間あたりに割った値であるいわば「速度」で健康に影響と書いてしまうのは誤解を招くというよりは、誤解させる間違った表現と考えます。

降水量のたとえで問題を整理する年間100mSv(ミリシーベルト)の意味:

年間100mSvを降雨量100mmの雨があると建物に悪い影響が出る砂漠の家にたとえてみます。100ミリの雨は一時間で降れば結構な大雨ですが、年間だとかなり乾燥した気候でないと超えない雨量です。「カイロの年平均気温は21.8℃、年平均降水量は26.7mm」というので、エジプトのカイロでそういう家があると考えるといいかもしれません。

そういう家に、一時間あたり11.4マイクロリットル(0.0114ミリ)の雨が降ったとします。これは、確かにずっと続くと建物に悪い影響がでるかもしれませんが、一時的な値であれば問題になりません。そもそも雨だとそんな微小な雨は計測できないわけですけど、ともあれ、その危険さは年間累積の値であり、それを一時間あたりの「速度」で表現して危険と言ってしまうのは本質的に間違ったことでしょう。

もちろん、放射線量は雨でありません。また、大量の放射性物質を体内に取り込んでしまったら代謝して外に出るまで、内部被曝が続く危険を受けることになり得ます。そういった違いはあるとしても、積算の問題を、瞬間的な雨の降り方になぞらえるのは正しい理解から遠い図解と思います。これは「放射線業務従事者の上限」の表現についてもあてはまります。便利だけど危なくもあるTwitter時代 は、集合知的に理解が深まりうる反面、誤解やデマも広まる危険性をもちます。「関東各地の放射能値の可視化:micro sievert」の作者の方が図解の問題を理解され、一時公開を停止され、修正版を専門家との相談の後に公開されることを期待しております。

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