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日経新聞「NTT東 小型無線ルーター月500円で提供」騒動の波紋

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紙の新聞だけの時代は、ニュースの価値は紙面の場所と面積でほぼ決まりました。つまり新聞社の整理部自身がニュースの軽重をほぼ決められたわけです。日経新聞朝刊一面トップと言えば、ビジネスパーソンにとっての大ニュースの典型であり、一方、同じ新聞に載るといっても奥まった面の下のほうに小さく大見出し無く載る記事は、ベタ記事と呼ばれて大したニュースでは無いという扱いで世に出ていきました。

しかし、ネット時代になって、画面が狭くなる一方で載せられるニュース自体は増え、状況は大きく変わりました。もちろん、見出しの位置とかで目立つかどうかは差があります。

しかし、人々がより目にするニュースの窓は、Yahoo! Japanニュースとなり、新聞社、通信社はそこへのニュース卸売り会社というような位置づけにシフトしてしまいました。皆が目にするYahoo! トップ掲載するかどうかという軽重の判断は、Yahoo!がつけておりしかも、見出しは恐らくYahoo!が調整しています。

そして更に、Twitterなどでよりソーシャル化、ニュース伝播のリアルタイム化が進むと、ベタ記事が掘り起こされて大反響という事態もまま起こるようになりました。

NTT東、持ち運べる無線ネット接続器 2010/5/14 21:02

という記事がまさしくそうでしょう。最初に出てくる金額が、「月500円」であるため、無線ブロードバンド接続の価格破壊か! というような反応がどんどん広まりました。よーく読めばそれはルーターのレンタル料であり、

フレッツ光の利用料を含めると、契約者が支払う料金(携帯通信料は除く)は月計3000~6000円となる見込み。

とかいう文も目に入るはずなのですが、そちらはほとんど印象を残さず「NTTが月500円で無線ルーター」という情報だけがあちこち駆け巡りました。結局、ドコモ3G対応モバイルWi-Fiルータ、バッファローが発売)という記事にある、

「定額データプランスタンダード(バリュー含む)」と定額データ スタンダード割」(2年間継続利用が条件の割引サービス)で申し込んだ場合、申し込みから1年間の上限月額料金は4410円になる。

というところが、皆さんの関心に対する料金であり、特別すごいものではないことが分かりました。しかし、それほどすごいことではないゆえにこちらの続報はそれほど騒がれず、その分印象が広まることもあまり無いようです。「日経新聞によると、NTTが月500円で無線LAN接続 」という読み手の解釈が生んだ、う断片的な情報は、結果としてさほど訂正されることなく残り、更には、日経新聞でぬか喜びしたとかいう印象を残したように思います。

ソーシャル化や、続報による補強など、進化を迫られるニュース:
新聞社としては昔からやっていることを忠実に続けているだけでしょうが、印象としての勘違いを広めたことを振り返ると、新聞社やニュースを伝える媒体(メディア)企業は、ネットやソーシャル化という流れにあわせた「進化」を迫られているように思います。

まずは、紙面の配置による重み付け機能に頼らない記事を意識して書くことです。逆に言うと、「ベタ記事」なんてもう、無い、そんな意識改革です。場合によっては一部の人が注目して広まる可能性もあり、祭り状態になったり、批判されたりする可能性があります。例えば、日本の映画界についての記事で製作、配給、上映の区別が甘いとかいろいろ突込みがある記事がありましたが、このあたり、より深い分析や見識を持つニュースサイトと連携して補完するとかいうことがあれば防げたことじゃないかと思います。ちょうど、Yahoo! JapanがITmediaの記事を転載したり、関連記事としてリンクしているようにです。

また、ソーシャルなニュースの伝播を意識して、その流れに向けた続報を出すとか双方向的にコミュニケーションするとかいうことも、必要でしょう。

例えば、日経新聞本紙のソーシャルリレーションシップ担当Twitterアカウントがあれば、誤読が多い記事を機動的に補足するとか、記事に反映させて続報リクエストを伝えるとかいうことが考えられます。

また、記事を載せるWebページ自信も続報のリンクを足すとかいう機能が求められます。新聞社のニュースページで過去記事を早めに削除することへの批判があります。それは第一に有償の過去記事データベースサービスビジネス保護のためでしょうが、新聞社はその記事が陳腐化していて残していることで問題を起こしうることを知っているために、消したいと考えた、そんな推測もしています。

いずれにしろ、私は、ニュースを伝える媒体ビジネスは変わらねばならない時期にいることを痛感しています。日刊紙と投書欄という関係で平衡状態を長らく保ってきた新聞も、ニュース媒体の電子化とソーシャルな情報の流れが強まるという変化を自覚し、環境の変化に合わせて変わるべき時なのだ、そう思う次第です。

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