「光の道」とかけて「新幹線ひかり号」と解く、その心は…
その心は、両方「ひかり」です、というそのまんまじゃなくて、 全国津々浦々、需要の無いところに引くのは無駄 ということです。
「新幹線を全国津々浦々に通そう」そんな構想は2010年の今日ばかげた無駄なこと明らかでしょう。しかし、沖縄や離島を除く、全国の都道府県に新幹線を通そうという構想がまじめに語られた時代がありました。しかも、大人気を背負って出版した翌月に首相に就任する、今太閤とまで一時賞賛された有力政治家が推したことがあったのです。田中角栄氏が昭和47年(1972年)に掲げた日本列島改造論での構想です。
[田中角栄著 日本列島改造論より]
角栄氏の主張は単純明確で、これまでは、需要があるところに新幹線というインフラを作ってきたがそれが一極集中の元凶である。先行投資でインフラを整備すれば、それで都市と農村の格差が解消されて一極集中、過疎過密が解消されると説いたのです。東北(東京-盛岡)、上越、成田新幹線は建設が決定・実施済みとし、北陸、九州、東北・北海道(盛岡-青森-札幌)を基本計画へ、更に奥羽(青森-秋田-大阪)をはじめ、抜けているのは奈良県ぐらいじゃないかというぐらいの新幹線網整備が国土開発の理想と説いたのです。
この構想は、開発候補地での土地の買占めによる値上がりを招き、後のオイルショックによるインフレの加速とあいまって政権が行き詰まり、構想は大きな修正を余儀なくされました。そうは言っても地方への高速道路、空港、そして3つの本四架橋という大きな建造物を生みました。
ある程度構想が実現されたわけですが、過疎過密の解消という目標は達成されることなく、東京一極集中が更に進むのを助けたという評価があります。しかし、全国各地への移動が便利になり、例えば、Jリーグでの遠征が昔よりは楽になっているというようなプラスの側面があることは評価すべきでしょう。
ただ、幹線での大量輸送用の新「幹線」を全国に引くという構想は自己矛盾であり、需要に適した道路整備や在来線改良とかの適材適所の投資は意味があったということです。
列島改造論よりも数倍問題が大きな「光の道」構想:
さて、では、総務省が取り上げた、ソフトバンク社長、孫正義氏肝いりの、「光の道」構想はどうでしょう?
私は、まず光ファイバーを軸にするという方法論が、「津々浦々に新幹線を」という日本列島改造論に似た過剰投資であること、供給があれば需要がついてくるという錯覚という二点で似ていると考えます。
もちろん、需要が伸びて採算に合うから、皆が家庭に光回線を引きたいと願い、費用を払うという状況になるのならいいのですが、そういう需要がないから普及が限られているのです。それを政策と国費でまかなおうというのは、「津々浦々に税金で新幹線を」という構想に等しい愚挙だと思います。
しかし、この「光の道」構想は、列島改造論以上の問題があるのです。
孫氏はこのようなツイートを繰り返されています。
Twitter / 孫正義: 10年後に1000倍の車が道路にあふれると大渋滞に。 ... via kwout
道路や鉄道という交通インフラと通信インフラは似ている側面もあります。その場所にあること「即地性」、その時に使えること「即時性」が求められます。代わりの場所に 繋がっていても代替にならない場合が多いのは共通です。
しかし、自然の地形や歴史的施設の遺産が大きくものをいう交通と、それほどの広い空間を必要とせず、また技術革新で既存インフラが陳腐化する可能性がある通信とでは大いに違うのです。
よく知られているように、東京都心の高速道路は、江戸城の堀や運河たる日本橋川といった過去の「遺産」のお陰で整備することができました。そして、中央線の四谷-飯田橋も江戸城の外堀の土塁があったから引けた線路です。東京の発展は江戸の天下普請のお陰という側面が大いにあります。
一方、通信インフラは、過去のインフラに助けられるということはあまりありません。光ファイバーが無いビルでも、後から引けます。今引かなくても10年後に必要になるならその時に引けばいいのです。過去の通信インフラ遺産として、明治生命館のメールシュートが後々役立ったかというと、そんなことはあまり無いようです。
インフラは急には作れないのは確かですが、必要性が今無い通信インフラを需要創造型で作れというのは、大いなる無駄でしょう。孫氏は、「メタルの維持コストが無駄」といわれていますが、本当に無駄なのは、銅線ではなく、交換機であり、 必要なのは「オール光化」ではなく「オールIP化」です。
「道」という比喩は分かりやすいのですが、通信回線は道路や鉄道とは根本的に違う、そのことは忘れないでいただきたいと願っています。
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