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Google+、その国内アクセス状況、サービスの強み、今後の展開を予測する

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Google+、ソーシャル分野で最もホットな話題だ。

今や「Facebookは日本で普及すると思いますか?」という定番質問にかわり、「Google+は普及するのでしょうか?」と尋ねられる機会が多くなったほどだ。
 
ただし、現在発表されているGoogle+はあくまで限定公開のレベルであり、長期的な製品ロードマップに基づき、最初の一歩をオープンにしたに過ぎない。その点に留意しつつ、当記事では、ソーシャル界隈における最もホットな関心事、Google+の現状と今後について、できるだけ客観的な考察を試みたいと思う。


■ 過熱するGoogle+報道と、国内利用の現状

Google+に関する報道は過熱気味だ。米国調査会社であるComscoreが定期的にGoogle+のユニーク訪問者数をリリース。8月2日の最新版では、ユニーク訪問者が1ヶ月弱で2500万人に達したと報じている。参考まで、7月22日、2000万人到達の際にリリースで発表された調査サマリーを転載しておこう。

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Fig2

Fig3

  • 開始から3週間でユニーク訪問者2000万人。招待制である事を考えると驚異的なベース
  • 米国がトップで530万人、続いてインドが280万人、英国が87万人。日本は10位外
  • 利用者デモグラフィックでは、男性が63%、18才から34才が58%

このGoogle+の2500万人という数字が、FacebookやTwitterと比較して圧倒的に早いことに反応している記事も多いが、筆者はこの数字に過剰反応しないほうが良いと考えている。というのも、FacebookやTwitterはソーシャルネットワーク黎明期に利用者を開拓しながら積み重ねた数字なのに対して、Google+の場合は圧倒的なブランドと利用者数を持ち、さらにFacebookが開拓した市場に後発参入した形になっているからだ。
 
仮に、世界のソーシャルネットワーク人口を保守的に見て8億人だとすると、2000万人で2.5%、これはちょうどイノベータ層の割合(2.5%)に相当する。つまり、現時点ではイノベータ(新しもの好きで真っ先に採用する人々) がユーザー登録したことを示すデータにすぎず、継続利用の頻度も不明なため、普及するか否かの判断基準とはならないということだ。例えば、別の調査会社Hitwiseから、7月23日週の訪問者が、その前週と比較して3%ダウンとしたとの調査もある。したがって「Web史上最速」などという言葉には踊らず、現時点では冷静に動向を注目すべきだろう。

実際にサービスが本格普及するか否かは、その後に続く、最も影響力の大きいアーリーアダプター(13.5%)層での受け入れがカギを握っている。この層が本格利用しはじめるかどうかが、その後のサービス普及には決定的に重要なのだ。残念ながら私のまわりでは「機能的には洗練されているが、既存SNSがあるため継続利用するインセンティブがない」という声が圧倒的に多く、現時点で普及すると判断するのは早計だと感じている。

あわせて、注目度も発表当初と比較して落ち着き気味になっているようだ。以下のグラフはGoogle Insight for Searchにて、"Google+" というキーワードでの検索回数トレンドをあらわしたもの。発表時、および利用者が1000万人を超えたという報道近辺がピークとなり、現在はダウントレンドとなっていることがわかる。

Fig11
【データ元  Google Insight for Search】

では、日本国内の利用者の数はどのくらいなのだろうか。

Nielsen/NetRatings Netview(PCベースのみ)の週間速報をみてみよう。下記表は、mixi, Twitter, Facebook, Myspaceと比較した、Google+の週次利用者(一週間で1度でもアクセスした利用者数) だ。

Fig12_2
 
Google+のデータについては、国内4万件のパネルのうち20件未満の利用者しかいないため、データ信頼性に問題があるとの警告が出ている。そのため、利用時間やページビューなどは残念ながら調査対象となっていなかった。

数値の正確性はともかく、Google+の国内アクティブ利用者数は、三大SNSはもちろん、Myspaceと比較しても圧倒的に少ないことは確かなことだ。Google+が、mixi, Twitter, Facebookと競合し、企業がマーケティングで活用できるレベルに達するには相当の時間がかかることは間違いないだろう。
 
このような現状ではあるが、それでもなお、Google+に期待感を持つ人々は多い。それは、Google+が機能的に洗練されている上に、Googleだからこそ実現できる将来展開があるからだ。次節で、そのGoogle+の強みをまとめてみたい。
 
 
■ Google+ の強みを分析する

Google+は、(1)絆を分類できるサークル機能、(2)片方向の関係性、(3)関心トピックのニュースを集めるスパーク機能 (4)強力なチャット機能 といった機能的特徴を持つソーシャルネットワークだ。
 
特にソーシャルネットワークのキモとなるソーシャルグラフに関して、国内の他サービスを包含する機能性を持っている。

Google

強い絆を主対象とするmixi、弱い絆を主対象とするFacebook、そして一時的な絆を主対象とするTwitterに対して、最後発のGoogle+は、サークルをカスタマイズすることで、それらすべてをカバーできるように設計されている。

【参考記事】
ソーシャルグラフの進化と新興サービスがとるべき戦略 (2011/5) 

ただし、Google+の強みは、ソーシャルネットワークとしての機能よりも、Googleがすでに持つ外部サービスとの連携性にこそあると考えるべきだ。具体的にあげてみたい。

  1. Googleコンシューマ向けサービス (検索, 地図, Picasa, YouTube etc... )と連携を図れる点
  2. Google Apps (Gmail, Google Calender, Google Docs etc... )と連携を図れる点
  3. Andriod機器において、標準共有プラットフォームとなりうる点
  4. Google Chrome、Chrome OSにおいて、標準共有プラットフォームとなりうる点

これらは、ネットの覇者Googleならではの強みであり、Facebookといえども対抗困難なものが多い。

特に、2の強みを生かした企業内ないしタスクチーム向けソーシャルネットワークは個人的に面白いと考えている。ここはFacebookも進出が遅れている分野だからだ。競合となるサービスは、FacebookやTwitterというより、むしろYammerやSalesforce Chatter、国内ではサイボウズのようなグループウェアになるのではないだろうか。

また、1のサービス連携と3のAndroid連携のあわせ技は、Googleとして最も計算しやすい利用者獲得手段と言えそうだ。ガートナー予測(2011年4月)によると、Android携帯の販売台数は、2011年に1.8億台、2012年に3.1億台、2015年には5.4億台に達すると予想されている。

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【モバイルOS 販売台数シェア by Gartner 2011/4  元記事

Android機器では、Google+と連動することで、写真を撮る、動画を撮る、スケジュールを入れるなどのアクションを、自然な操作性で友人とシェアできるようになるはずだ。これはコンシューマー向けに最大の売りと言えるだろう。(参考記事 ) また、Android連携ほどの破壊力はないが、Chrome連携もPCユーザーの獲得には強みとなるだろう。

これらの強みが本格化すると、モバイルインターネットの爆発的普及の波にのり、毎年億単位で利用者が増えていく可能性も考えられる。これはFacebookが最も恐れるシナリオの一つだろう。
 
 
■ Google+ の狙いと普及シナリオ

Googleの狙いは、短期的なものと長期的なものに分かれるだろう。

短期的には、Facebookという、Googleにとって巨大な不可侵領域をオープン化すること。つまり、そこにあるソーシャルストリームとソーシャルグラフを、検索サービスに活用できるようとすることだ。その目的であれば、Google+ はメインのソーシャルネットワークとならなくても良い。そして、すでにGoogle+のデータが検索対象となりはじめたと報告する記事 (投稿がGoogle検索エンジンにインデックスされ始めた件) も登場した。
 
利用者がGoogle+とFacebookやTwitterを連動することでのソーシャルストリームは取り込めるし、サークル機能を活用しはじめれば精緻なソーシャルグラフを獲得できる。さらにスパーク機能が普及すれば、Facebookの弱みとも言えるインタレストグラフまで獲得できるようになり、Googleの検索サービスや広告ターゲティングの精度は大きく向上することになるだろう。
 
一方、長期的な目標は、前述の通り、さまざまなGoogleの既存サービス、既存OSと緊密連携することにより、本格的にFacebookのシェアを奪うことだろう。例えば、Google Appsとの連携を進めると、Google Calenderに書かれているイベント、業務上のtoDo項目、Google Docsの文書などのオブジェクトに対して、直接コメントできるようになる。それらの変更点を、サークルで指定した関係者に自動通知することも可能だ。つまり、ビジネスオブジェクトがソーシャル化するということだ。この生産性向上効果により、Google Appsユーザーを中心に利用がすすむ可能性は高いのではないだろうか。
 
同じ土俵で、圧倒的な会員数を誇るFacebookに対抗するのが困難なことは、Googleも当然理解している。まずビジネス分野というFacebookの弱みに集中して、まず一定レベルのアクティブ利用者を獲得する。その上で、AndroidやGoogleサービス(地図、写真、動画など)との連携を強みとし、初期利用者の友人に範囲を広げ、本格的にFacebookに対抗していく作戦をとるのではないだろうか。

一方のFacebookも、手をこまねいて傍観することはないだろう。Google+新機能の一つ「ビデオチャット」を、ほぼ同時にSkype連携の発表で追撃したように、ビジネス系や検索系ではMicrosoft、モバイル系では携帯キャリアと組むなどして、Google作戦の封じ込めを次々と図ってくることは間違いないだろう。
 
 
■ Googleに期待すること
  
以前、Googleは、データポータピリティ技術「Friend Connect」でソーシャルグラフのオープン化を促進したが、Facebookの「Facebook Connect」に圧倒され、一敗地にまみれている。ソーシャルグラフのデータポータビリティは、自らの個人情報を自らの手で管理するという、ソーシャルメディア時代に極めて大切な概念となるものだ。(Facebookは友人のメールアドレスは本人のものではないということで、ソーシャルグラフを事実上非公開にしている。また大規模サイトのAPI利用は禁止されているため、過去にもTwitter、Apple(Ping)、GoogleなどがAPI接続を拒否されている)

ソーシャルグラフを自ら管理し、Facebookを含むさまざまなソーシャルネットが相互メッセージングできるようなオープンな仕組みができることこそ、健全な競争が促進され、新しいシェア文化が加速するために極めて大切なことだ。また、そんな環境になれば、国産SNSであるmixiも捲土重来を期すことができる。

Googleは「オープン化」を世界で最も積極的に推進する企業と言ってよいだろう。Google+ が成功するか否かは、現時点では神のみぞ知る領域だが、業界全体の健全な成長を促すという意味では、Google+ が牽引する形で競争が加速されるカタチが望ましい。そして、Google効果によってソーシャルネットワーク(つまりFacebook)のオープン化がすすむことを切に願いたい。

 
 

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