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ポスト・ムーアの時代。シェアの法則が加速するパラダイムシフトとは?

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前記事「ITプラットフォームの変遷とポストFacebook時代を考察する」では、ムーアの法則がリードしてきたITイノベーションの変遷と今後について考察を加えてみた。

記事化の発端となったのは、7月6日のマーク・ザッカーバーグ氏による「今後5年のFacebook」(参考: CNET記事) 発言だ。特に注目される点を記事から要約してみよう。

  • ソーシャルネットワークは現在「転換点」にある。次の5年間のトレンドは、繋がりの数ではなく、その上で何を築くことができるかになる。
  • 次の5年、Facebookにとって重要となる指標は、人々が得た価値の量、費やした時間、アプリの数、動かした経済などだ。
  • 共有をする人の割合は、指数関数的な割合で増加している。前年と比べ、一人当たりの共有量は約2倍。少なくとも今後2年間はこのトレンドが続くと思われる。
  • われわれは(共有の成長に関する)指数関数カーブの「屈曲部」にいる。今後開発される機能は、共有に指数関数的成長をもたらす。

Facebook

ザッカーバーグ発言は、Google+ に対して「すでに7.5億人のユーザーを獲得したFacebookは、共有を加速する段階に入っている。今からユーザーを獲得し、時間をかけて利用者の共有を促す必要がある Google+ とは全く次元が違うのだ」という挑戦メッセージとも受け取れる。そして、Facebook上の一人当たり情報共有量が年間2倍になるという「シェアの法則」(以降は略) が産業をリードするということは、今後5年間、世界はFacebookを中心に回っていくという宣言でもある。
 
ソーシャルグラフとコミュニケーション・インフラを独占しつつあるFacebookだからこそ許される強気な発言だが、好むと好まざるとにかかわらず、ザッカーバーグの発言が持つ意味は大きい。

実際、半導体の集積密度は分子の5倍程度にまで達し、ムーアの法則は物理的な限界点に近づきつつある。しかし、40年間続いたムーアの法則のおかげで、インターネットが世界を一つにし、Facebookが人々を結びつけた。PCはもちろんのこと、携帯電話やゲーム機、家電などあらゆるハードウェア産業、そしてその情報機器を接続するための通信産業、情報機器上で稼働するソフトウェア産業、インターネットを利用したWebサービス産業と、極めて大きな産業牽引力となってきた。

パラダイムシフトという言葉がある。その時代において常識と思われていた認識や思想、価値観が劇的に進化する様をさす言葉で、例えば、地動説、進化論などはその最たる例だ。IT分野でムーアの法則が起こしたパラダイムシフトは、次の言葉からも推察できる。

  • 世界中でコンピュータの需要など5台ぐらいだ。(1943年 ワトソンIBM会長)
  • 個人が家庭にコンピュータを持つ理由など見あたらない(1977年 オルセンDEC会長)

余談だが、コンピュータ需要を5台と見込んだIBMの創業者ワトソンの言葉は、クラウドコンピューティング化で、Amazon, Google, Microsoft, Facebook, Yahooなどに集約されつつある姿を暗示した言葉として再注目されている。いずれにしても、指数関数的な産業牽引ドライバーが存在すると、このようなパラダイムシフトが必然的におこってくる。
 
ムーアの法則は、ハードウェア、通信といったインフラを急激に進化させた反面、人間系であるソフトウェア、そして人間自身の生産性をボトルネックとして浮き彫りにさせた。その結果、選択することが可能な情報の総量と、消費することのできる情報の総量に極めて大きなギャップを生み出す結果となる。便利になるはずの情報社会において、ジャンクな情報が大量に発生し、機能的にボトルネックとなった人間が情報過多に苦しむようになったのだ。

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Facebookは、ムーアの法則が引導した情報過多を、人間系の生産性を高めるカタチで解決しはじめた。それが、信頼できる友人による情報選別、ソーシャル・フィルタリングだ。シェアの法則により、人々が情報を加速度的にシェアしはじめると、このフィルター機能が指数的に強化される一方、既存メディアのパワーは相対的に低下していく。

一人当たりのシェア量で、2012年で2倍、3年後の2014年では8倍。ソーシャルネットワークの本格的な国内利用者数が3年後に2倍になると仮定すると、なんと16倍もの機能強化されたソーシャル・フィルターができ上がることになる。

人間は、自分と関係ない人の情報より、関係ある人の話題に強く魅かれる生き物だ。1日の時間は限られており、自分ごとの情報が16倍になるということは、それ以外のメディアから垂れ流される情報の多くは、今以上にスルーされるということ。つまり、人々が興味を持たない、楽しめない、共感できない一方的な情報は全く流通しない。そんな時代がそう遠くない将来、確実にやってくることを意味している。

ムーアの法則は、40年という長きにわたり、それまで存在しなかったコンピュータ・ネットワークを世界中に張り巡らせ、多くの産業を勃興させた。それに対してシェアの法則は、すでに巨大化している情報産業に対して、パラダイムシフトをもたらすものだ。情報産業は「限られた時間」の奪い合いのため、産業全体の成長を促すというより、産業構造の劇的な変化を促進するはずだ。

ザッカーバーグは、シェアの法則を「少なくとも2年は続く」と予想したが、仮にこれが5年、10年といったスパンで続くと仮定すると、次のような根幹的パラダイムシフトが到来する可能性が高いだろう。

・選別された情報が、必要とする生活者を見つける時代が到来する
生活者の「その時、その場で、関心を持つこと」に対する最善の情報が、リアルタイムで届くようになるということだ。これを実現するためには、シェアの法則による基礎情報、それに付与されるロケーション情報やセマンティック情報、モノから発信される情報など、膨大なデータベースから、その時、その場で本当に必要な情報を抽出する高度な仕組みとアルゴリズムが必要となる。それは人間の英知に依存するものであり、実現タイミングを予想することは困難だが、今よりもその方向に力強く向かっていくことは間違いないだろう。

そして、このパラダイムシフトが根幹となり、次のような副次的シフトも発生するだろう。当社では、これらのパラダイムシフトを「ソーシャルシフト」と呼称している。特に産業界を対象として、いくつかの方向性を提唱したい。

・マスメディアや企業に、人間性が回帰する
マスメディアや企業が発信するメッセージやサービスは、ソーシャルメディア上での伝播を強く意識したものになる。共感、サプライズ、エンターテインメント、人間らしさなど感情に訴えるエモーションな要素が必須となる。ゲーミフィケーションなどもその流れにあるものだ。エモーションを刺激するコンテンツとして、動画が果たす役割も劇的に増加するだろう。一方で、不誠実な情報は生活者に選別され、逆効果をメディアや企業にもたらす。「山場CM」のような視聴者の感情を無視する行為も、生活者からの手厳しい審判を逃れられないだろう。

・生活者に支持されるかどうかで、企業は二極化する
現在、日本語のツイート数だけで日に4000万件。その数十倍の規模が定常的に発信される時代。あらゆる企業やブランドが生活者の審判を浴びることになる。企業はコントロールできないクチコミを直視することからスタートし、それらの意見を傾聴する姿勢を強いられる。逆に、従来のコントロール志向を手放し、生活者の信頼を得て、生活者に共感される企業、愛されるブランドになるべきだ。愛されるブランドは、生産活動から販売、顧客サポートまで、生活者の手厚い支援を受けられるようになる。良い企業はさらによく、悪い企業は退場させられる二極化が鮮明になるだろう。
 
・広告から顧客支援サービスに、企業予算がシフトする
信頼できるクチコミが現在の数十倍になる時代。良い商品であることを生活者に伝える役割は、企業広告から、友人の使用感にシフトする。そのため、企業の広告予算は、潜在顧客に対する広告から、既存顧客に対する顧客支援サービスに大きくシフトするだろう。生活者は、満足レベルではなかなかクチコミしてくれない。事前期待を上回る顧客感動を創造できてこそ、共感をよび、賞賛のクチコミが創出される。サプライズを提供するような顧客支援サービスこそ、ライフタイムバリューを高め、ポジティブなクチコミを生み出す最も効率的な販促手段となるだろう。

・大企業に、オープン化の波が押し寄せる
大企業の強みである資本やブランドの相対価値が低下し、逆に硬直化した組織、法的規制などによるデメリットが強くなる。装置産業など資本が基礎となる産業を除き、本格的な Small is Beautiful の時代が到来する。広告しないでも、すばらしい商品やサービスは自動的にクチコミされるため、起業における最大のネックだった営業の問題が解決される。そのため、優秀な人材を旧来型組織にとどめておくことは困難となり、社内文化や組織、リーダーシップの見直しが大胆にすすめられるだろう。
 
 
最後に、Facebookの独占に関する懸念点を述べておきたい。現在、Facebookは世界中のソーシャルグラフとコミュニケーションインフラを寡占しており、その強大な影響力は私企業の域を完全に超えはじめた。

先日ローンチした Google+ は、PCではChromeブラウザ、モバイルではAndroid OS、アプリケーションではGmailやカレンダーなどのGoogle Appsと密に連携することで、Facebookの牙城切り崩しを狙うものだ。

Google+ が成功するか否かは、現時点では神のみぞ知る領域だが、これは現存勢力の中でFacebookに対抗しうるラストの手段と言えるだろう。私自身は、Facebook以外で情報をシェアするのは面倒と感じるし、現時点で高いハードルを感じているが、業界全体の健全な成長を促すという意味では、Google+ や mixi などが、オープンに協業するカタチで成長してほしいと切に願っている。

以前、Googleは、データポータピリティ技術「Friend Connect」でソーシャルグラフのオープン化を促進したが、Facebookの「Facebook Connect」に圧倒され、一敗地にまみれている。ソーシャルグラフのデータポータビリティは、自らの個人情報を自らの手で管理するという、ソーシャルメディア時代に極めて大切な概念となるものだ。(Facebookは友人のメールアドレスは本人のものではないということで、ソーシャルグラフを事実上非公開にしている。また大規模サイトのAPI利用は禁止されているため、過去にもTwitter、Apple(Ping)、GoogleなどがAPI接続を拒否されている)

ソーシャルグラフを自ら管理し、Facebookを含むさまざまなソーシャルネットが相互メッセージングできるようなオープンな仕組みができることこそ、健全な競争が促進され、新しいシェア文化が加速するために極めて大切なことだ。ぜひ、そのような仕組みが実現されるよう祈念したい。
 
 

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Comment(3)

コメント

斉藤さん 財・サービスにも少品種大量を前提にしたものと、多品種少量を前提にしたものがあります。出版業界でいえば、ミリオンセラーを目指す小説の領域、必要とする人以外には全く興味を持たれない学術書の領域。「シェア」の分量が財・サービスの評判を決めたり、財・サービスのメタデータとなる時代・世界では、必要とする人以外には全く興味を持たれない多品種少量の領域は、そもそもその存在が無視されて行く趨勢となってしまうのでしょうか。

斉藤 徹

神宮司さん、返信が遅くなり、大変失礼いたしました。Amazonは売れ筋以外の書籍、いわゆるロングテールに光を当てた事で著名になりました。マスメディアの時代においては、一部の売れ筋商品に大量の広告投下をすることが最大の効果をあげるポイントでしたが、これからはそのパワーが大幅に低下し、多品種少量、ニッチ、小規模に光があたる時代だと思います。

神宮司信也

斉藤さん 神宮司です。いやその点はそうなんです。ところが今回の記事を拝見して危惧するのは、ニッチに関するLOGを、gooleの世界は掬い上げるけれど、facebookの世界はどんどん脇へ追いやっていくのではというポイントです。facebookは「一部の売れ筋商品に大量の広告投下をすることが最大の効果をあげる」という現象のブースターになるのでは、という懸念です。

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