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国内外主要SNSのビジネスモデル比較 〜 mixi、GREE、Mobage、Facebook、Twitter

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僕がこのブログ、In the looopをはじめたのは2009年4月1日(開始記事)、なので、今日は In the looop 2才の誕生日です。これまで、特にソーシャルメディアの国内外動向に力点をおいて、最新情報を正確にお伝えすることを心がけ、続けてきました。その総括にもなるような内容を IT批評 次号 に掲載予定ですので、出版社の承諾をえて、ここに掲載させていただきます。テーマは、国内外の主要ソーシャル・ネットワークのビジネスモデル比較です。
 
 
■ ソーシャル・ネットワーク、普及のあゆみ
 
ソーシャル・ネットワーク(以下、国内ソーシャル・ネットワークはSNSと呼称)が人々をつなぎ、絶大な影響力で世界を動かしはじめた。チュニジアでは、FacebookとTwitterが先導した民主化革命が勃発し、その火種はエジプト、リビアに飛び火する。多くの独裁政権は、結集した人々のパワーに強い衝撃をうけ、危機感をつのらせた。アイスランド火山噴火、チリ地震やニュージーランド地震、東日本大震災などにおいても、災害時に強いコミュニケーション・インフラとして、重要な役目を果たしている。
 
ソーシャル・ネットワークの草分けと言われているのは、2002年に登場したFriendster。友人からの招待がないと会員になれない招待制を採用していたにもかかわらず、2004年には数百万人規模となり、新しいネットコミュニティの形態として注目を集めはじめた。日本において、GREEとmixiがローンチしたのもこの頃だし、ちょうどハーバード大学生だった天才プログラマ、マーク・ザッカーハーグがFacebookを開発したのもほぼ同時期だ。つまり、2004年は、Friendsterに注目した世界中の若い起業家がソーシャル・ネットワークの持つ限りない可能性に着目し、世界中の国でサービスを開始しはじめた、そんな記念すべき年と言えるだろう。
 
その後、Friendsterを一気に逆転したのは、音楽やエンターテインメントをフィーチャーし、誰でも会員になれるMyspaceだ。メディア王と呼ばれるルパート・マードックが買収したことでさらに勢いがつき、2006年にはついに登録会員数で1億人を突破するまでに成長した。学生限定のソーシャル・ネットワークとして成長していたFacebookが一般利用者に開放されたのも2006年。全く新しいミニブログ・サービスとしてTwitterが登場したのもこの年だ。それ以降、オープン化によるアプリ開放など、新しいテクノロジーを次々と投入したFacebookは、ついに2009年にMyspaceを逆転、今では6億人を超える比類なきソーシャル・ネットワークに成長する。また後発のTwitterも、普及率ではFacebookに劣るが、新しい情報を発信したり閲覧したりする簡易型ソーシャル・ネットワークとして存在感を強めており、一日に1億4千万ツイートもの情報交換がされるまでに成長した。
 
 
■ 日本におけるソーシャル・ネットワークの特徴

日本におけるソーシャル・ネットワークの普及状況は、世界でも非常に特殊で、ガラパゴス状態に近い。その特徴をあげると次のようになる。

1. PCより携帯での利用者が多いこと。
日本は、iモードやパケホーダイの普及で、世界でも稀な携帯インターネット普及国となっている。それはソーシャル・ネットワークでも同様で、国内三大SNSと言われるmixi、GREE、モバゲーは、いずれもその登録会員数は2千万を超えているが、携帯利用者が多くを占めている。

2. ローカルSNSがFacebookを凌いでいること。
Facebookは世界中でローカルSNSを逆転しており、トップシェアではない主要国は、中国(規制中)、韓国、ロシア、ブラジル、オランダ、ベトナム、そして日本の7ヶ国しかない。一方、Twitterの日本普及は世界でも抜きん出ており、PC訪問者数で1200万人を超え、普及率では世界トップとなっている。

3. 収益性が極めて高いこと。
国内三大SNSは、それぞれオープン化して、サードパーティが開発したアプリが稼働するプラットフォームだ。特にGREEとモバゲーは携帯ゲームコンテンツを中心としたSNSで、会員あたり月売上で200~350円、営業利益率で約50%と、極めて収益性が高いことが世界から注目されている。
 
 
■ ソーシャル・ネットワークのビジネスモデル

ここで、ソーシャル・ネットワークのビジネスモデルを考察してみよう。主たる収益源は、次の2パターンがある。

1. 広告売上 (広告スポンサー企業からの収入)
アクセス数の多いウェブサイトの主要収入源となっている広告売上は、ソーシャル・ネットワークでも非常に重要な収益源と言える。ただし、ソーシャル・ネットワークは友人との交流の場という認識で利用者がアクセスしているため、広告効率(CPMなど)は一般ウェブサイトと比較してかなり低い。ユーザー属性やサイト内行動履歴などを分析し、より精緻な広告表示を行うターゲティング広告手法などが開発されているが、それでもアクセス数に対する広告効率は高いとは言えないのが現状だ。なお、国内SNSはすべて広告代理店を通して広告を申込むスタイルだが、Facebookはクライアント自らが広告を制作して申込む、AdwordsやOvertureのようなセルフ広告の仕組みがあることが特徴だ。Twitterに関しては、Promoted Tweet、Promoted Trend、Promoted Accountの広告形態があるが、未だに実験段階であり、一部ブランドに限定として解放しているにとどまっている。またTwitter.comにパナー広告があるのは日本だけであることに注意したい。

2. 課金売上 (会員ないしゲームデベロッパーからの収入)
ソーシャル・ネットワークは、友人との交流以外に、アプリケーションが稼働するプラットフォームという側面を持っている。これにより、サードパーティ・デベロッパーは、オープン化されたAPIに利用することで、会員向けにさまざまなアプリケーションを開発し、そこで有料アイテムや有料アバターなど、いわゆるバーチャルグッスを販売することができる。Facebookはもとより、国内三大SNSはすべてオープン化されており、そこから課金売上が計上される仕組みとなっている。さらに分類すると、自社ゲームを持つモバゲーやGREEの主力売上である (2-1)ゲーム売上、そしてサードパーティ。デベロッパーからプラットフォーム手数料、つまり場代として徴収する (2-2)プラットフォーム売上 に分類される。また、SNS共通で提供するアバター売上などもプラットフォーム売上に分類できる。

3. 提携売上 (データ提供などによる提携企業からの収入)

現時点ではTwitterのみだが、検索エンジン運営企業(Google,Bing)に利用者から投稿されたデータを定期的に提供し、その対価を収入とするビジネスモデルだ。近い将来、Facebookが独占している世界中の人々のソーシャルグラフ(人間関係データ)なども、これからの検索、広告、コマースにとって極めて重要なデータとなるため、その対象となる可能性が高いだろう。


■ 代表的なソーシャル・ネットワークのビジネスモデルや業績比較

1. 国内三大SNSのビジネスモデルと業績比較


国内三大SNSである mixi、GREE、モバゲーは、それぞれ運営会社が上場しているため、四半期ごとに業績が公開されている。当記事では、2011年2月に公表された2010年10-12月期の直近四半期決算データを元に、これらSNSのビジネスモデルと業績を比較してみたい。
Fig1

【Fig1. 2010年10-12月期 登録会員数およびPV推移比較】

まず、業績の基礎となる登録会員数とペーシビューの比較からみていこう。登録会員数では三社とも2000万人を超え拮抗しているが、ページビューでは、モバゲー > GREE > mixi とかなり大きな差がついていることがわかる。

Fig2

【Fig2. 2010年10-12月期 全社売上および利益の比較】

この中で「前期比」とは2010年7-9月期との比較、また「利益率」は営業利益率を示している。売上を比較すると、DeNA(モバゲー運営会社)はGREEの約2倍、mixiの約5倍と大きな差がついている。また営業利益を比較すると、DeNAはGREEの約2倍、mixiの約14倍とさらに大きな差があることが見て取れる。続いて、各運営会社から、SNS関連事業のみの売上高を抽出し、比較したのが次のグラフだ。
   
Fig3

【Fig3. 2010年10-12月期 SNS事業売上の比較】
 
この売上比較チャートが、端的に各社ビジネスモデルの違いをあらわしている。営業利益率の高いモバゲーとGREEは課金売上率がそれぞれ93%、83%と圧倒的に高いのに対して、mixiは17%に留まっている。これは、モバゲーとGREEが、それぞれ「怪盗ロワイヤル」「釣りスタ☆」に代表される大ヒット自社ゲームを持っているのに対して、mixiはサードパーティ・デベロッパーに対するプラットフォームに徹しているからだ。モバゲーおよびGREEの内製ゲームとサードパーティ・ゲームの売上比率は未公開だが、業界ヒアリングを通じた筆者予測では、グロス(ゲーム売上全体に対して)に対しての内製ゲームの割合で、モバゲーは40-50%程度、GREEは70-80%程度と推定している。その点、mixiは100%サードパーティである点が特徴だ。またサードパーティに対してのプラットフォーム手数料も各社ごと異なっており、mixiは推定20%、モバゲーとGREEは推定30%だ。

最後に、直近四半期における(1)広告売上 (2-1)ゲーム売上 (2-2)プラットフォーム売上 それぞれの比率をグラフ化してみた。なお、モバゲーとGREEの (2-1)ゲーム売上 (2-2)プラットフォーム売上 は独自推定値を記している。

Fig4

【Fig4. 2010年10-12月期 国内三大SNSのビジネスモデルの比較】


2. Facebook、Twitterのビジネスモデル

世界的に普及しているFacebookとTwitterは、株式未公開企業のため、ビジネスモデルが開示されているわけではない。したがって、投資家からのリーク情報などをたどり、それらを推測してみたい。

2-1. Facebookのビジネスモデル


2011年1月、ゴールドマンサックス他が、Facebookへ5億ドルを出資したというのニュースが世界中を駆け巡った。その際、これまでベールにつつまれていたFacebookの損益状況が少しずつリークされはじめた。The Wall Street Journal記事*1によると、Facebookの売上高は、2009年に7.7億ドル、2010年に20億ドルと推定される。さらにeMarketer記事*2によると、Facebookの広告売上は、2009年に7.4億ドル、2010年に18.6億ドルとのこと。これを合わせると、Facebookの売上構成は次のように推定される。

  • 2009年 総売上7.7億ドル ... うち、広告売上7.4億ドル(96%)、課金売上0.3億ドル(4%)
  • 2010年 総売上20億ドル ... うち、広告売上18.6億ドル(93%)、課金売上1.4億ドル(7%)

なお、Facebookの純利益に関してはメディアによって差異がある。前述The Wall Street Journal記事では、2009年純利益2億ドル(利益率26%)、2010年純利益4億ドル(利益率20%)としているのに対して、Reuter記事*3では、2010年の純利益は少なくとも5億ドル(利益率25%)に達しているはずとした。

総じて、Facebookは自社コンテンツを持たず、プラットフォーム事業に専念している。その意味ではmixiに近い。したがって、そのビジネスモデルや財務構成も (1)広告売上がその大半を占めること (2)利益率が25%前後であること など、mixiのそれに類似していると推測される。

2-2. Twitterのビジネスモデル

最後に、Twitterについて触れておきたい。Twitterは、他のソーシャル・ネットワークと異なるビジネスモデルを志向している。収益の柱となっているのは、検索エンジンサイトにツイートをリアルタイムでインデックス化することを認める契約で、BloombergWeek記事*4によると、Googleから年間1500万ドル、Microsoft(Bing)から年間1000万ドルを得る見込みと報じられている。また、もう一つの収益源はPromoted Adsによる広告収入だ。こちらは、eMarketer記事*5によると、2010年で4500万ドルと予測されている。これらを合わせると、Twitterの売上構成は次のようになる。

  • 2010年 総売上0.7億ドル ... うち、広告売上0.45億ドル(64%)、提携売上0.25億ドル(36%)



3. 国内三大SNSおよびFacebook、Twitter、2010年 売上構成比較

mixi、GREE、モバゲー、Facebook、Twitterのビジネスモデルを比較するために、2010年1月~12月期における売上構成をまとめてみたい。ここで、国内三大SNSはそれぞれが公表している四半期決算を合計し、Facebook、Twitterは前述に基づく推測値を用いるものとする。

Fig5
【Fig5. 2010年1-12月期 mixi、GREE、モバゲー、Facebook、Twitterのビジネスモデルの比較】


4. 国内三大SNSおよびFacebook、Twitter、2010年 ARPU(会員あたりの月売上)比較

最後に、アクティブ会員数をベースに、会員あたりのARPU(会員あたりの月売上)を比較してみたい。FacebookおよびTwitterに関しては、上記仮定とほぼ一致するので、Sillicon Alley Insider記事*6で掲載されたグラフをベースにした。また、同表に掲載されている主要ウェブサービスも参考値として掲載している。なお、GREEおよびモバゲーのアクティブ会員数は未公表のため、登録会員数の60%をアクティブ会員数と仮定して計算している。TwitterのみSillicon Alley Insiderの2009年推定データとなっているが、その後、広告売上、ユーザー数ともに急増しており、2010年もほぼ同レベルと推測する。
Fig6
【Fig6. 2010年1-12月期 主要ウェブサービスのARPU比較】

ユーザーあたりの売上で考えると、世界的に見ても、モバゲーとGREEのARPUが突出していることは一目瞭然で、検索エンジン広告で高収益を誇るGoogleをも圧倒していることがわかる。この理由としては、次の4点があげられよう。(1) ゲーム開発会社としての売上貢献が著しいこと (2) 内製ゲームの収益改善施策 (継続率、課金率のチューニング技術等) が卓越していること (3) キャリア課金で低年齢層課金が容易なこと (4) 平均収入の高い日本国内をターゲットとしていること


5. ソーシャルネットワークのビジネスモデル総括

・主たる収益源について
ソーシャルネットワークの主たる収益源は、(1)スポンサー企業からの広告売上 (2)利用者からの課金売上 (3)提携企業からの売上 の3種類である。また(2)利用者からの課金売上には、(2-1)内製ゲーム売上 (2-2)サードパーティ企業からのプラットフォーム売上 の2種類がある。このうち、(2-1)内製ゲーム は極めて収益性が高く、成功するとアクティブ会員あたりの月売上が圧倒的に高くなる。

・主たるサービスのビジネスモデルについて
国内外のソーシャルネットワークのビジネスモデルには3つのパターンがある。
(1)プラットフォーム型 … Facebookおよびmixiのビジネスモデル。広告売上をメイン、オープンアプリケーション事業者からの課金売上をサブ収益源とするビジネスモデルだ。このうち、Facebookは高度なセルフ広告機能を持ち、ターゲティング能力や拡張性に秀でている。
(2)ゲーム提供型 … モバゲーおよびGREEのビジネスモデル。自社プラットフォーム上にソーシャルゲームを提供し、利用者からの課金売上をメイン、広告売上をサブ収益源とするビジネスモデルだ。提供するのは友人とともに遊ぶソーシャルゲームで、無料でも遊べるがアイテムやアバターが有料のフリーミアムモデルをとっている。特に自社内製ゲームの成功が収益性のキーとなる。
(3)データ提供型 … Twitterのビジネスモデル。利用者が生成する大量のCGMデータを提携している検索エンジン企業へ提供する提携売上がメイン、広告売上をサブとするビジネスモデルだ。ただし、Twitterの広告売上は急拡大しており、2010年以降は広告がメインとなる可能性が高い。


■ 参考記事
*1 … The Wall Street Journal "Goldman Flooded With Facebook Orders" (2011/1)
*2 … eMarketer "Facebook Drives US Social Network Ad Spending Past $3 Billion" (2011/1)
*3 … Reuters "Goldman customers get Facebook financials" (2011/1)
*4 … Bloomberg BusinessWeek "Content-Search Deals Make Twitter Profitable" (2009/12)
*5 … eMarketer "Twitter Ad Revenues to Soar This Year" (2011/1)
*6-1 … Sillicon Alley Insider "Here's How Much A Unique Visitor Is Worth" (2011/1)
*6-2 … Sillicon Alley Insider "Here's How Much A Unique Visitor Is Worth" (2010/3)



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