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国内外スマートフォンの最新動向を総まとめ - iPhone vs Android の先に見えるもの

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iPhone 3GSは絶好調だ。MM総研によると2009年度の国内スマートフォン出荷台数でiPhoneシェアはなんと7割超とのこと。そしてこの4月,ドコモXperiaを皮切りに本格的なAndroid攻勢も始まった。独自に成長してきた日本の携帯シーンに,グローバルの波が容赦なく押し寄せている。

スマートフォンの急激な普及は,我々のビジネスにも大きな影響を及ぼすことは間違いない。「ゲームのルール」が変わるからだ。モバイルの覇者がAppleになるのかGoogleになるのか。それによってモバイル業界の景色は大きく異なるものになるだろう。180度の差といってよいかも知れない。そしてそこにはHTML5の普及という読みづらいパラメータも密接に関係している。

当エントリーは,そのようなビジネス背景を睨み,今まで断片的に記事化していた国内外のスマートフォンに関する最新市場動向を集約したものだ。現時点で把握できる最新統計を採用し,国内外スマートフォンの動向,iPhone vs Androidの行方,モバイルOSを巡る争い,HTML5の意味まで,押さえておくべきポイントのまとめを試みた。


■ モバイル端末の種類と,長期的な普及予測は?

iPhone,iPadというキラー製品がリードする形で,モバイル端末普及が急加速している。2009年12月に発表されたモルガンスタンレー社「Mobile Internet Report」によると,モバイル端末の2008年までの年間出荷実績,および2009年から2013年までの出荷予測(単位:百万台)は次の通りだ。

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モルガンスタンレーはこのレポートでモバイル端末を3種類に分類している。

  1. WPD (Wireless Pocketable Devices) - グラフでは青色系
    24時間30センチ以内,常にポケットに入れられるサイズの携帯端末。スマートフォン,ポータブルWiFi機(NintendoDSやSonyPSP,iPodTouch等),3G対応多機能携帯電話が含まれる。
     
  2. PID (Portable Internet Devcies) - グラフでは緑色系
    持ち運び可能だが相応のサイズがあるため常に常備するわけではないデジタル機器。ノートPC,ネットブック,iPadやKindleがリードするタブレットが含まれる。
     
  3. SIT (Statinary Internet Terminal) - グラフではピンク色系
    据置タイプの機器。専用ゲーム機,インターネットテレビ等の家電機器が含まれる。

出荷台数ベースでいくと,2006年時点で3億台弱だったモバイル系機器は,2013年に15億台と5倍増すると予測されている。その比率を見てみると,PWD:PID:SIT = 61%:28%:11% が,2013年予測では 71%:25%:4% と,小型モバイル機器へのシフトが進む見込みだ。

そして最も注目すべきはスマートファンだろう。2008年から2013年までの年平均成長率で48%という驚異的な成長が予想されており,2012年の時点でスマートフォンが3G多機能携帯電話を抜き,最も出荷台数の多いモバイル端末となる。

もう一つのダークホースはタブレット機だ。2009年で100万台(Kindle)に過ぎなかったこの新型機器が2013年には4900万台,2008年から2013年までの年平均成長率で117%と予想されている。ちなみにiPadは初日出荷台数だけで30万台を超えているため,この予測はさらに上方修正されると見たほうが良いだろう。

一方ゲーム専用機はポータブル,据置型ともにほとんど横ばい状態だ。高機能な汎用機が出ると専門機のシェアが食われるというIT業界の定説がゲーム機にも適用される可能性が高いと予測されている。

【参考記事】
スマートフォン,タブレット,ネットブック等 モバイル端末の普及予測 2006-2013年 (12/28)   


  
■ インターネットのトラフィックでは,すでにスマートフォンが多機能電話を逆転

米国モバイル広告配信会社であるAdmobから2010年3月に発表された「Admob Mobile Metrics Report Feb. 2010」には,世界を対象としたモバイル端末からのインターネット・トラフィック量調査が発表されている。

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この1年間で,スマートフォンは 35% → 48%,Mobile Internet Devices(iPodTouch,SonyPSP,NintendoDS等)は 7% → 17% と大きくシェアを伸ばしたのと対照的に,多機能携帯電話のシェアは 58% → 35% と大きく衰退しているのがわかる。ちなみにMobile Internet Devicesの93%はiPodTouchだ。

そして重要なポイントは,すでにネット・トラフィックにおいて2009年10月にスマートフォンが多機能電話を逆転していることだ。つまりアプリ(多機能電話の場合はコンテンツと称されることが多い)市場としてみた場合,すでに多機能電話よりスマートフォンの方が潜在的なパイが大きくなっているのだ。

さらにスマートフォンに絞り,2010年2月のOS別トラフィック・シェアを見てみよう。

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スマートフォンによるトラフィックの50%はiPhoneだが,第2位のAndroidは24%は前年比12倍と驚異的な成長でiPhoneを急追している。ちなみにAndroid携帯とはGoogleがオープンソースで提供するAndroid OSを搭載したスマートフォンだ。直近6ヶ月間の変動を見ると,iPhoneOSが 40% → 50%,Androidが 7% → 24%と大幅にシェアを伸ばした反面,SymbianOSは 34% → 18%,RIM OSは 7% → 4% と大幅にシェアを落としている。トラフィック量から見るとスマートフォンは完全にiPhone/Androidの二強時代に入っていることがわかる。

Android

Andoroid最大の強みは,Android携帯を開発する意向を表明しているメーカー群が極めて強力だからだ。上記の資料は,それぞれの地域の携帯メーカーの出荷シェアをあらわしている。このうち緑になっている携帯メーカーはAndroid開発意向を表明している企業であり,ワールドワイドですでに過半をしめていることが見て取れる。これに対してiPhoneはAppleの独占ブランドだ。そのためガートナー社は,2012年に出荷台数ベースでAndroid携帯(7600万台)がiPhone(7150万台)を上回るとの予想を発表している。

【参考記事】
iPhone/Androidが圧倒。最新スマートフォン,多機能携帯電話のシェア動向 (3/28)   
 

   
■ iPhoneとAndroid,国内の出荷台数シェアはどうなるか?

続いて国内の状況を見てみたい。古くから日本国内のみで発展してきた多機能携帯電話はオープン性に欠けているため,一部からガラパゴス・ケータイ(ガラケー)と揶揄されはじめている。次のグラフは2009年12月にインプレスから発表されたスマートフォン国内利用動向調査だが,2009年はiPhoneだけで全体の46%を占めるなど,国内独自仕様のものは大きくシェアを落としている様が見て取れる。

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そしてiPhone 3GSの爆発的ヒットに対抗して,ついに高機能なAndroid携帯が登場してきた。NTTドコモのXperia(2010年4月出荷),auのIS01(2010年6月出荷予定),ソフトバンクのHTC Desire(2010年6月出荷予定)などだ。少なくともAndroid携帯のハードウェア・スペックは,今のiPhone3GSを大きく凌駕し,次世代iPhoneと対抗しうるものとなっている。

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国内出荷台数の推移を俯瞰してみよう。2010年2月に発表されたミック経済研究所「携帯電話端末のグローバル市場の現状と展望2010年版」によると,国内スマートフォン市場は2009年が302万台(前年比219%),2010年は475万台(前年比57.5%増)に達すると見込まれている。

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また内訳を見ると,2010年にiPhoneシェアは32.3%(前年比14.1%減)とシェアを落とすのに対して,Android携帯シェアは20.2%(前年比9.6%増)と倍増する勢いと予想されている。
 


■ iPhoneとAndroid携帯のアプリ比較

多機能電話と比較したスマートフォン最大の特徴は,膨大な数のアプリを選択できる点だろう。iPhoneは約19万種,Androidも約5万種のアプリがそろっており,それぞれ急増中だ。

iPhoneアプリ数: 190,673 apps (148Apps 4/25)
Androidアプリ数: 47,936 apps (Androlib 4/25)

特にAndroidはこの2ヶ月強で倍増している他,Googleアプリがキラーコンテンツとして存在するため,早晩アプリ分野でもiPhoneと互角に戦えるレベルになりそうだ。

従来からAppleはiPhoneデベロッパーに数々の規制を加えてきた。有名なところではWebでFlashを再生できない,セクシー系(水着を含む)アプリは禁止などだ。そしてここに来てさらに開発ツールにまで制約をかけるなどの締めつけ策を強化しており,デベロッパーの反発心が一気に高まってきた。そのため事実上規制がないAndroid攻勢がさらに強まる気配も感じられる。

参考まで,iPhoneのアプリのカテゴリ分布は次のようになっている。(青が無料,緑が有料)

Iphone

【参考記事】
iPhone vs Android アプリ最新統計 ~ iPad発表でiPhoneアプリが急増中 (2/13)   
 

 
■モバイルOSを巡る三強の争い

ここで注意したいのは,GoogleのOS戦略はAndroidだけではない点だ。次の図は,モバイル・インターネット時代の主役であるスマートフォン,タブレット,ネットブック,ノートPCという主要4端末に対して,OS覇権争いの構図をチャートでまとめてみたものだ。

Os

両刀使いであるGoogleは,ノートPC(およびネットブック)分野ではChromeOSを武器にMicrosoftと一騎打ち,最重要端末であるスマートフォン(およびタブレット)分野ではAndroidを武器にAppleと覇権争いという構図が見えてくる。

ノートPC・ネットブックをめぐる争いではあちら側の「クラウド・コンピューティング」が主戦場となり,逆にスマートフォン・タブレットではこちら側の「アプリ」が雌雄を決する最大の要因となるだろう。

さらにその過程において,Google内部における「Android vs ChromeOS」の構図(競合か共存か)も第3極の争いとして浮かび上がってくる。

【参考記事】
Google vs Apple vs Microsoft ~ ひと目でわかるモバイルOS戦争の構図 (1/3)   



■ Appleの独占を阻むもの


ここでもう一つ読みづらいパラメータとして存在するのがHTML5の存在だ。Appleパワーの源泉はアプリ認可とコマースの独占にある。彼らはそれを武器に,モバイル機器から発生するあらゆるビジネスの根元を牛耳り,巨大な利権を手にしようとしている。

iモード創世期におけるドコモの収益構造とも似ている。アプリは公式コンテンツ,iTunesストアはiメニュー。公式コンテンツのみの時代にコンテンツ認可とコマース(ポータル)の独占をしたiモード利権だ。ただしドコモの場合は国内のみで,CPからの課金料は売上の10%程度だった。Appleは世界を舞台に,売上の30%を上納させる野望を抱いている。

それを阻むカギとなるのが「Androidの普及」ないし「HTML5の普及」だ。ドコモiモードに例えると,Androidは「他キャリア」,HTML5は「勝手サイトの理想的技術」だ。HTML5はアプリやFLASHと同等のコンテンツを,ネイティブHTML(JavaScript含む)で記述できる次世代HTMLである。

例えばiPad上の電子書籍販売を例に取ろう。アプリでの販売はiBookが独占しており,Amazon Kindleで書籍を買うする場合は,購入時にWebブラウザに飛ばなくてはいけない。iPhoneユーザーであれば誰しも,アプリとWebブラウザに大きな使い勝手の差があることは肌身にしみている。Flash制限もその流れをくむものだと考えると納得がいく。これによりAppleはコンテンツ販売を含むコマース全体を独占しようとしているのだ。アップル製品のネット通販を事実上禁止しはじめたのもその一貫だ。

【参考記事】
iPad向けKindleアプリ正式発表。iBookStoreと比較すると? (3/23)   

その救世主となりうるのがHTML5普及だ。ウェブブラウザにおける使い勝手がHTML5によりアプリと同程度になれぱ,Appleの描く独占ビジネスの基礎は崩れ去る。現時点ではAppleはFlash対抗のためにHTML5をバックアップしているが,アプリ独占の危機となれば立場を翻す,ないしWebブラウザにさらなる制約をかけることも予想されるだろう。

【参考記事】
HTML5のインパクト ~ それを巡るAppleとGoogleの呉越同舟 (2/8)   
 
  

■ 国内携帯ビジネスにおける「ゲームのルール」も変わる

スマートフォンの世界的潮流が日本に押し寄せることは間違いなく,日本の携帯ビジネス事情にも大きな影響を及ぼす可能性が非常に高い。

今まで右肩上がりで伸びてきた携帯コンテンツ,携帯SNS,携帯コマース等の成長は鈍化し,それに変わってiPhoneなどのスマートフォン上のアプリが台頭してくるということだ。そしてスマートフォン上のトラフィックは「ゲームのルール」が異なるため,現在の携帯ビジネスで大きな影響力を持つ国内キャリアや大手SNS,大手CPから,AppleやGoogle,Amazon等の世界的プレイヤーにパワーがシフトしはじめるだろう。

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想定されるシナリオを,確率の高そうな順に考えてみよう。

  1. Androidが出荷台数やアプリ数でiPhoneを抜き,50%以上のシェアとなる。このケースでは健全な競争環境に移行していく可能性が高い。
  2. Androidの伸びが予想を下回り,iPodTouch/iPhone/iPadを抱えるAppleと影響力が均衡し続ける。この場合前述の通り,HTML5の普及が新たなパラメータとなる。HTML5が健全に普及すればAppleアプリ独占の影響が弱まってくる。
  3. iPhoneの独走が続き,モバイル機器から創出される利益の多くをAppleが握るようになる。

もう一つ大きな要素があるとすれば,ジョブス氏の健康問題だろう。

果たしてiPhoneはMacの二の舞になるのか?
それともAppleは,ホスト時代のIBM,PC時代のWintelのような覇権企業に成長するのか?
いずれにしても,このモバイルウォーズからは目が離せない。

 
 
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