企業にとって大切なIT資産のきちんとした評価
企業のITシステムというのは、ご存じのように構築や導入時の「自動化率」がとても低いのです。日本企業の多くが企業ごとにすべてエンジニアリングし、世界にたった1つしかないシステムを作り上げているわけです。機械がハンコを押していくような自動化された導入技術もありませんし、自動化された構築技術も、設計技術も、管理技術もありません。産業として見れば、人の手がかかる、という点でとても遅れていると言えるでしょう。
何も世界に自動化された理想的な企業のITシステムがあると言っているのではありません。世界に1つしかないシステム構成で世界に1つしかないコードを稼動させるのではなく、80%ぐらいは共通化できるような議論が必要な時期にきていると思うのです。
そのときに重要になるのが、企業がIT資産をきちんと評価する仕組みを持つということです。もちろん、帳簿上の数字はありますが、投下資本に対する現有価値がどの程度なのか、何をもってそう判断するのか、それを説明する仕組みがまだありません。IT資産の評価のメソドロジー(方法論)を業界も企業も持ち合わせていないのです。
ハードウェア資産の価値というのは、年々急激に下がっています。価格自体が下がっているからです。それではソフトウェア資産はどうでしょうか。例えば、それほど年数が経っていないのにアーキテクチャーが陳腐化して、もしかすると雨漏りするなどボロが出て、本当は価値が劣化しているかもしれません。
経営の視点からは、こうしたシステムは本来は引当金を入れて、更新の準備をしておかないといけません。価値の下落がはっきりすれば、引当金を入れて、陳腐化したITシステムはちゃんと捨てることができるようになります。
しかし、現在は会計基準に基づく判断だけですから、「まだ、価値が8割もある」──そうなると簡単には捨てられません。8割のものを捨てられないために、多くのものを失うという弊害があちらこちらの企業で見受けられるのです。
企業は、自社の資産を評価しなければなりません。評価したら使わないといけません。古いものはすべて捨てるべき、ということではありません。5年経って古くなったけど、価値が8割もあると評価したシステムであれば、もっと使い、もっと生かす選択が可能になります。情報システムに対しても、評価し、使う、という普通の設備投資の発想が適用されるべきだと思うんです。
もちろん、ITシステムの評価は、普通の設備投資の評価よりも難しい側面があります。例えば、半導体の製造設備の場合、ある半導体のライフサイクルが3年とすれば、3年間そのラインは稼動すればいいわけです。しかし、ITシステムは全社の仕組みとして生きています。仕組みとして生きているということは、情報システム部門単独では勝手にそのライフサイクルを決められないということです。
例えば、M&A(企業買収)があったり、規制の変更があったり、予見も突然も含めて、環境の大きな変化があるとしましょう。その変化に対応する力もシステムの価値評価の基準として入れておかないといけません。一切対応が不能な硬直化したITシステムでは、環境の大きな変化に対応できず、一瞬にしてその価値が落ちてしまうからです。
最近のITベンダーは、こぞって「柔軟性」を売り言葉にしていますが、柔軟性という言葉をもう少し詳しく説明する必要があるでしょう。「拡張性」や「オープンシステム」という言葉もそうですね。顧客企業が多大な投資をしているわけですから、ITベンダーはもっと説明責任を果たすような努力をしないといけません。
同じように、企業においては、ITの専門家が叩き台を交えた試行錯誤をし、まずそれらの評価を自分たちで行う必要があるでしょう。経営者は高い見識を持って判断をしていかなければなりませんが、ITに関する事細かな取り組みまでを経営者にすべて任せてしまうと、最も大事にすべき大局観を見失ってしまうのです。ITの専門家は経営者をサポートすることで、経営の重要な判断に大きな貢献ができるのだといえます。
明日は、経営者が納得できるIT投資の重要性について書きたいと思います。