ソニーエリクソンの挑戦(33)~ヨハン・サンドバーグUIQテクノロジーCEOに聞く
ソニーエリクソンは、2月9日に、UIQテクノロジー(UIQ Technology)という会社を買収しました。このUIQというのは、スマートフォン向けのSymbian OSのユーザー・インターフェースを開発する会社で、英Symbian社の子会社として設立されたものです。英Symbian社は、携帯電話メーカーによる共同出資の会社で、Symbian OSを中立的な立場で、開発・ライセンスすることを目的に設立されました。また、その子会社であるUIQも、同様に「UIQ」というユーザー・インターフェースを中立的に開発・ライセンスする会社でした。
Symbian OS搭載のスマートフォンというのは、OSとユーザー・インターフェースの部分がわかれていて、同じSymbianというOSを搭載しながら、ユーザー・インターフェースは、メーカーによって異なるものが採用されています。
これまでもソニーエリクソンでは、UIQが開発するユーザー・インターフェース「UIQ」を採用しており、現在、そのラインナップは左の写真のように、ハイエンドのウォークマン携帯電話『W950』、ビジネス向けの『P990』、映画『007/カジノロワイヤル』でボンド・ガールのエヴァ・グリーンが使用していた『M600』の3つがあります。『P990』のテスト・レポートについては下記をご覧ください。
【テストレポート】英ソニー・エリクソンのスマートフォン『P990』
http://blogs.itmedia.co.jp/london/2006/11/p990_25a6.html
このUIQの特徴は、タッチスクリーン式であることです。ソニーエリクソン以外にも、米モトローラの『M1000』(日本ではNTTドコモより発売)などでも採用されています。そして、UIQ以外のユーザー・インターフェースとしては、Nokiaが開発した「S60」が、もっともシェアが高く、ノキアのスマートフォン以外にも、多くの携帯電話メーカーの製品で採用されています。また、日本では、スマートフォンとしては開発・販売されていませんが、日本独自のMOAPというユーザー・インターフェースを採用したSymbian OS搭載の携帯電話が、2007年2月時点で、すでに40機種発売されています。
話を整理すると、携帯電話メーカーが共同出資をして英Symbian社を設立。その子会社としてユーザー・インターフェースを開発するUIQという会社がありました。UIQは、ユーザー・インターフェースの分野では、ノキアのS60と、日本のMOAPと競争関係にあります。ソニーエリクソンは、そのUIQを、英Symbian社から買い取って傘下におさめ、さらに2月14日に、ソニーエリクソン以外のメーカーにも出資を呼びかけたわけです。
そして、私は3GSM World Congress 2007の会場において、13日にUIQ Technology社のヨハン・サンドバーグ(Johan Sandberg)CEOにインタビューをさせていただきました。14日の発表内容は、知らない状態でしたが、いろいろと興味深い話を聞くことができました。実は、私は、サンドバーグCEOが、2005年2月にロンドンにいらっしゃった時にもインタビューをしております。その時の内容は、下記のブログに簡単にまとめてあります。
http://symbian.txt-nifty.com/news/2005/02/uiqimode.html
そして、この時、私が、サンドバーグCEOに「UIQとノキアは、ライバルではないのか?」という質問をしたところ、「UIQの親会社は、英Symbian社で、ノキアは、その出資会社なのだから、必ずしもライバルとは言えない」という回答でした。しかし、いまやUIQは、ソニーエリクソンの傘下にあります。私の、今回のインタビューも、この質問から始まりました--。
ヨハン・サンドバーグUIQテクノロジーCEOに聞く
(2007年2月13日 スペイン・バルセロナ3GSM World Congress会場にて)
--2年前に私が「UIQにとって、ノキアはライバルか?」と尋ねた際には、「ノキアは、親会社の出資者であり、必ずしもライバルではない」というお答えでした。しかし、いまやUIQは、ソニーエリクソンの傘下となりました。何か違いはありますか?
それは、大きな違いがありますね。ソニーエリクソンは、我々の会社に投資しました。我々を監督する立場にあります。ノキアが開発したユーザー・インターフェースの「S60」は、とてもシェアが高く、我々にとって競争関係にあると言えます。それに、ノキアが我々のUIQを採用する可能性はありませんからね(笑)。もちろん、シンビアン・ファミリー全体で見れば、Windows MobileやLinux、それにプロプライエタリーOS(携帯電話の独自OS)との競争がありますから、完全にノキアと競合するわけではありませんが。特に、プロプライエタリーOSも、いまではかなり進歩しているので、激しい競争があります。
--ノキアの方は、UIQの買収について、「これで英Symbian社は、Symbian OSにだけ集中できるので良いことだ」とおっしゃってましたが。
イエス。その通りだと思います。
--買収以前と以後で、情報の流れに変化はありますか。
ノー。とても厳重な情報の管理、いわゆる「チャイニーズ・ウォール」が存在します。ノキアのS60の開発スタッフは、UIQのスタッフと情報の共有はできませんでした。情報の秘匿は、とてもうまく管理されていました。
--買収以前と以後では、何も変化は無いのですか。
いままで、我々と英Symbian社との関係は2つありました。1つは親会社として、我々のビジネスを監督していましたが、これはソニーエリクソンへと引き継がれました。もう1つは、OSのサプライヤーとしての関係ですが、これはかわりません。
--ソニーエリクソンと他社との関係は?
我々は、顧客との情報を秘匿しなければなりません。たとえば、昨日(12日)に、米モトローラが『MotoRIZR Z8』(モトライザー Z8)というUIQを採用した携帯電話を発表しました。しかし、我々は、これについてソニーエリクソンに知らせることはできませんでした。我々は、顧客の情報を守らなければなりません。そうしなければ、顧客を失ってしまいます。もちろんモトローラは、買収の事実については知っていましたが、情報漏洩のリスクについては、問題ありませんでした。
--なぜソニーエリクソンは、UIQを買収したのでしょうか?
彼らが、我々に語ったことは、彼らはUIQを将来に向けての重要なブラットフォームと見ているから、ということでした。彼らは、また、UIQにもっと投資をすべきである、という認識を持っていました。しかし、UIQの親会社が英Symbianであり、その株主にノキアがいることを考えると、彼ら自身がUIQの親会社になる必要があるとの認識に至ったようです。
--ソニーエリクソンは、もっとも多くUIQを採用しています。この戦略は、今後も続くと。
そう願っています(笑)。他の携帯電話メーカーも、UIQを採用した端末に、大きな関心を寄せていると思います。すでに多数のUIQ端末が販売されています。
我々にとっては、モトローラの『MotoRIZR Z8』は、とても重要な製品です。これは、UIQを採用していますが、タッチ・スクリーン方式ではなく、片手で操作できる企業向けのスマートフォンです。何より、ソニーエリクソン以外の、大手メーカーから発売されたことも重要です。さまざまなメーカーから、さまざまなUIQ端末が発売されることは、UIQのプラットフォームとしての柔軟性を示すことになり、とても重要です。
--英ボーダフォンは、昨年、プラットフォームを絞り込むとして、S60、Windows Mobile、Linuxの3つを採用しました。今後数年間にわたり、この3つに向けてのサービスを増やしていくという方針を示しています。なぜUIQは除外されたのですか?
それは、英ボーダフォンに聞くべきことでしょうが、私の推測では、UIQを採用した端末の数が相対的に少なかったために、主要なブラットフォームとしてみなされなかったのではないかと思います。しかし、我々は、そうした状況を変えたいと思っています。
--英ボーダフォンがUIQを採用しなかったことと、ソニーエリクソンがUIQを買収したことは関係がありますか?
それは難しい質問ですが・・・。我々は、携帯電話キャリアと、直接コンタクトをとることはありません。ただ、携帯電話メーカーにとっては、英ボーダフォンのような大手キャリアが、プラットフォームを採用するかどうかは重要な問題だと思います。
--先ほどは、ノキアの「S60」との競争についてお伺いしましたが、逆に、協力関係はありますか? 特に、Windows MobileやLinuxなどとの競合関係において。
「S60」との協力は、たくさんあります。S60向け、UIQ向けのアプリケーションは、いずれもSymbian OSに基づいたものであり、開発されたアプリケーションの認証制度"Symbian Signed"(シンビアン・サインド)も協力して行っています。また、開発ツールの開発も、S60サイドと、共同で行っています。ソフトウェアの販売も、共通のルートを利用しています。これらは、長期的な戦略に基づいて行われていることであり、シンビアン・ファミリーの一部であることの最大のメリットです。携帯電話メーカーに対し、シンビアン・ファミリー全体として、強力なエコ・システムが存在することを示すことができます。
--マイクロソフトは、Windows Mobileのメリットとして、携帯電話、PC、サーバーの3つのOSを提供しており、これらの連携が可能となる、と主張していますが。
イエス。マイクロソフトのアプローチは、「携帯電話はPCの延長である」というものだと思います。Symbianのアプローチは、「携帯電話は携帯電話である」というものです。もちろん、Symbianでも、PC向けのソフト・メーカーにソフトの開発を依頼することはありますが、マイクロソフトが考えているような、「PCの延長」というようなものではありません。我々とマイクロソフトでは、異なるアプローチをとっています。そして、我々のアプローチの方が、正しいと信じています。
--現状では、携帯電話メーカーは、ユーザーのためにPC向けのソフトを開発しなければなりませんが。
現状ではそうです。しかし、それは将来、かわってくると思います。携帯電話から、ネットワークにアクセスするのが標準になってくると思います。
--ソニーエリクソンは、携帯電話の端末を作るという点では、優れていると思いますが、アプリケーションの開発の点では、リソースが限られていると思いますが。
イエス。UIQとしては、PC向けアプリケーション、携帯電話向けアプリケーションのいずれも、製作する技術はありません。ですから、パートナーにアウトソーシングする必要があります。たとえば、PCとのシンクロナイゼーションでは、ActiveSyncの専門家の力が必要です。我々は小さい会社ですから、パートナーの力を必要とします。我々のような、200人しかいない、スウェーデンの小さい企業が、5万人を超えるマイクロソフトのように、すべてを自前で行うことは、できません。しかし、Symbianのエコ・システムを活用することで、レバレッジ(梃子)をきかせることができるようになり、マイクロソフトにも対抗できると思います。
--各国市場向けへのローカライゼーションは、UIQが行いますか?
ノー。我々は、ローカライゼーションができるだけ簡単に行えるように努力しています。50数カ国の言語、文字を右から読むか、左から読むかの違い、あと、中国では必須の「太陰暦」などには対応していますが、実際のローカライゼーションは、基本的には携帯電話メーカーが行っています。
--日本向けはどうですか?
NTTドコモから発売された『M1000』は、とても高い評価を得たと思います。
--他の製品については?
アイ・ドント・ノー(笑)。日本では、Symbianでは、MOAPのシェアが高いので、まずそちらが優先されているのではないかと思います。
--アップルの『iPhone』については、どう思いますか?
とても興味深く見ています。しかし、私が見たところでは、iPhoneは、オープン・プラットフォームではありません。とてもクローズドなものです。専用のアプリケーション、専用のコンテンツ、特定のネットワーク向けと、とてもクローズドな端末だと思います。これはSymbianの目指す、オープンなプラットフォームとは対極的なものです。たとえば、ソニーエリクソンのウォークマン携帯『W950』やスマートフォン『P990』では、同じような機能を搭載していますが、『iPhone』よりは、ずっとオープンなものです。
たとえば、同じアップルが発売したiPodについて起きたことを考えてみましょう。確かに、iPodはたくさん売れましたが、他のMP3プレイヤーも同じようにたくさん売れました。iPodは、明確なコンセプトや、iTunesストアへの評価が高く、実際の台数シェア以上のブランド価値を確立しました。『iPhone』も、同じようになるかもしれません。数万台で終わるか、あるいは何百万台も売れるのか、それについては、まだわかりません。いずれにしろ、『iPhone』により、スマートフォンというジャンルの認識が高まれば、我々にとっては、良いことだと思います。
--最後に、明日(14日)の記者発表の内容を、少しだけ教えてください(笑)。
ノー。それは、絶対に言えません(笑)。
--長時間、ありがとうございました。
(ソニーエリクソンのマイルス・フリント社長は、11日のプレス・アナリスト向け発表会で、「UIQ搭載のスマートフォンについては、今年後半に重要な新製品を発表する」と予告しています。それがどういうものなのか、期待とともに新製品の待ちたいと思います)