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【書評】iPodは何を変えたのか? を振り返る

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スティーブン・レヴィ『iPodは何を変えたのか?』(上浦倫人訳、ソフトバンク クリエイティブ)


iPadの発表で、ふたたびアップルのデジタル・コンテンツ戦略に注目が集まっています。というわけで、iPodの開発からヒットまでが、どのようなものだったかを振り返るという意味で再読してみました。iPodのヒット後に書かれた記事などは、ジョブズCEOの戦略を持ち上げ過ぎのきらいがありますが、2006年に上梓された本書(日本版は2007年)では、そのあたりを過大評価することなく正確に記録されています。以下、ポイントを箇条書きすると

・アップルより前、1998年にDECがHDD搭載の「パーソナル・ジュークボックス」を開発していた
・DECの開発スタッフは、それを韓国メーカーに製造委託して「PJB-100」として発売していた
・1999年に「オーディオン」と「サウンドジャム」という2つのMac用の音楽ソフトがサードパーティーによって開発されていた
・2000年にサウンドジャムが開発者ごとアップルに買収され、iTunesの開発が始まる
・先にiTunesが開発され、後からiPodの構想が浮かんでくる
・iPodという名称は社内のマーケティング担当者や広告代理店との長いディスカッションを経て決定された
・2001年にiPodが発売された当初は、その機能を説明するようなTVCMが流されていた
・iPodの開発を進めていた時点では、アップルが音楽ストアを運営するという構想はまったく存在しなかった
・音楽ストアを開設するにあたって追求されたのは、「知的財産を守りたいと考える音楽レーベルと、金を払って欠陥ファイルをつかまされたくない顧客の両方を満足させる、理想的な落としどころだ。だが、そんな落としどころが本当に存在するのか、当時は誰にもわからなかった」(p.188)
・2002年にWindows向けのiPod用ソフトがミュージックマッチ社によって開発されたが、2003年4月にオープンしたiTunesミュージック・ストアは利用できなかった
・2003年10月にWindows版iTunesが公開され、WindowsユーザーもiTunesミュージック・ストアを利用できるようになった。ここからiPodの売上は急増した

とまあ、こうして振り返ってみると、節目節目で打つべき手を打ってきたのがiPodのヒットの要因であり、必ずしも、初めから壮大な戦略があったわけではないことがわかります。ある役員の、以下のような言葉が印象的です。

《「iPodを発売したときは、ソニーあたりに一年分の差をつけたかな、と思ってたんだ。まさかそれが五年のリードになるなんて、想像もしてなかった。実際僕らは『今年のクリスマスはもらったけど、来年は他の企業も追いついてくるぞ』って言い続けてて、常にそのつもりで開発を進めてきた。でも何年か経ったら『今年もクリスマスが楽しみだね』みたいな感じになっちゃったんだよ」。》(pp.352-353)

[目次]
第1章 パーフェクト
第2章 パーソナル
第3章 オリジン(起源)
第4章 クール
第5章 ダウンロード
第6章 アイデンティティ
第7章 ポッドキャスト
第8章 シャッフル
第9章 アップル
終 章 コーダ

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