ソニーエリクソンの挑戦(32)~3GSM World Congress 2007レポート 『トップ3をめざす』
スペインのバルセロナで開催された“3GSM World Congress 2007”では、開幕前日の11日夜に、ソニーエリクソンが、プレス/アナリスト向けの説明会を行った。 (会場は、バルセロナ中心部にある“メトロノーム”というイベント・ホールでした)
(説明会は、まず、アルド・リグオリ広報部長によるスペイン語の挨拶から。リグオリ広報部長は、ご出身がイタリアということで、イタリア語に近いため、スペイン語も話せるそうです。そして、スペシャル・ゲストとして、ソニーエリクソンの2つの親会社、ソニーからは、ハワード・ストリンガー会長兼CEO、エリクソンからは、カール・ヘンリク・スヴァンバーグ社長兼CEOが紹介されました。この2人の登場は、事前の予告の無い「サプライズ」でした)
そして、壇上に上がったのが2004年7月からソニーエリクソンの社長兼CEOをつとめるマイルス・フリント氏。フリント社長は、まず2006年12月期の業績について説明した。
売上高は前年比50%増の109億5900万ユーロ(1兆7315億円)、携帯電話機の総出荷台数は、同46%増の7480万台、そして純利益は2.8倍増の9億9700万ユーロ(157億円)となった。
また、過去5年間の決算も振り返った。最初の2年間は赤字だったが、2003年半ばにブレーク・イーブンとなり、2004年以降は、順調に業績が拡大している。 そして、フリント社長は、「2007年の3GSMを迎えるにあたり、すでに我々は3つの重要な発表を行っています」と述べた。1つ目は新製品の発表、2つ目はUIQテクノロジーの買収完了、3つ目はインドにおける工場の設立である。
1つ目の新製品の発表は、2月6日に行われたもので、「5年前、我々は2、3機種の携帯電話しか見せることができなかった。昨年(2006年)の3GSMで約束したように、いまや製品のラインナップが低価格機から高級機にまで広がった」ことで、以下の製品の紹介を行った。 まず『K220』、『J120』、『K200』、『J110』は、エマージング・マーケットをターゲットにした製品である。
続いて、『サイバーショット携帯』に2機種『K810』、『K550』が追加された。2006年7月に発売された1機種目の『K800』は、累計で450万台を超え、ソニーエリクソンとして、もっともヒットした携帯電話の1つとなった。
また、『ウォークマン携帯』にも、3機種が追加された。100ユーロ(1万6000円)以下の価格帯のエントリー・レベルの『W200』、ミッドレンジの『W610』、そして厚さ9.4mmのスリムさが特徴の『W880』。『W880』について、フリント社長は、「2月中には店頭に並ぶ」ことを明言した。
2つめのUIQテクノロジーの買収については、「UIQを搭載したスマートフォンについては、今日は発表はありません。重要な新製品の発表は、今年後半に予定されています」と語った。そして、14日の午前にUIQについて改めて発表を行うことを明らかにした。
(この発表は、UIQへの資本参加を他社にも呼びかける、というものでした。私は出席できなかったので、末岡洋子さんの記事をご覧ください)
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/mobile/articles/0702/14/news102.html
3つ目のインドにおける工場の設立は、アウトソーシングのパートナーであるFlextronicsとFoxconnによって運営されるものだが、ソニーエリクソンにとっては、中国に続く重要な製造拠点となる。左のスライドでは 、ソニーエリクソンの世界各国にある拠点が紹介された。
フリント社長は、ウォークマン携帯『W880』を取り出し、「これは、日本でデザイン・設計されたものです。そして、チップセットや、プラットフォーム、アプリケーションはスウェーデンで開発されたものです。これは、ソニーとエリクソンのベストな部分がくみ合わさったものです。エリクソンの通信技術と、ソニーのマーケティングの知識。この2つの世界レベルの製品を作れるのは、ソニーエリクソンだけです」と強調した。
そして、フリント社長は、「ソニーエリクソンは、ジョイント・ベンチャーではなく、ジョイント・アドベンチャーです」と講演を締めくくった。
■質疑応答
---続いて質疑応答の時間がもたれ、ハワード・ストリンガー会長兼CEOと、カール・ヘンリク・スヴァンバーグ社長兼CEOも壇上に上がった。そして、リグオリ広報部長から「なぜ、ソニーエリクソンは、うまく成功したのか」という質問が出された。
■ストリンガー会長(ソニーCEO)
このジョイント・ベンチャーが、成功したのは、なぜかというと、それぞれの強さをコンビネーションできたからで、それぞれの強さの競争(コンペティション)ではなかったからです。このジョイント・ベンチャーに参加した人で、相手のことを「負け組」だと見なした人は、一人もいませんでした。少し前のことですが、ある人に質問されました。『ハワード! 日本人の役員とスウェーデン人の役員が、共存できるのか?』と。もっともな質問だったと思います。しかし、ソニーエリクソンは、親会社から独立した存在で、両社のベスト&ブライテストが集まっていました。ソニーについて言えば、ソニーは大企業で、官僚的な部分があります。しかし、ソニーエリクソンには若い技術者が集まり、ソニー創業時のような起業家精神が発揮できたと思います。年功序列(Seniority System)を気にしなくて良かったからです。また、ソニーの強みであるコンシューマー・マーケティング、エリクソンの強みである通信技術。双方が相手の強みを理解していたことも成功の要因としてあげられます
---また、リグオリ広報部長から、「ソニーエリクソンの将来」について質問が出された。
■スヴァンバーグ社長(エリクソンCEO)
フリント社長が紹介したスライドは、とても興味深いものだった。今後もネットワーク化が進み、さまざまなコンテンツが携帯電話にダウンロードできるようになる。ソニーの持つ、さまざまなデジタル器機が、携帯電話のネットワークに組み込まれていくだろう。
---続いて記者・アナリストからの質問に移った。「新興市場については、どのような戦略をとりますか?」
■フリント社長(ソニーエリクソンCEO)
インドにおける我々のビジネスは、2006年に3倍に成長しました。急成長している市場であり、2007年には4億台の買い換え市場があるとの予測もあります。彼らが携帯電話を買うには、収入のかなりの部分をつぎこまなければなりません。しかし、彼らは、ただ安い携帯電話が欲しいのではなく、良い携帯電話が欲しいのです。ソニーエリクソンは、超低価格機を発売する予定はありません。カメラや音楽プレーヤーが搭載され、デザインが良く、なおかつ低い価格帯の機種を、こうした市場に投入していきます。
---どうやって製造コストを下げますか?
■フリント社長コスト削減は、常に行われていることです。過去2、3年の間に、常に、目標とするコスト削減を実現してきました。Symbia OSを含め、さまざまな製品に適用できる柔軟なブラットホームを採用しています。ですから、ある機種が発売されたら、その機種の子供に当たる機種も作ることができます。こうすることでコスト削減を実現しています。
---ノキアやモトローラに追いつけますか?
■フリント社長
ソニーエリクソンの携帯電話は、ナンバー1だと思っています。設立から5周年を迎えて、そうした力を蓄えてきました。携帯電話市場が成熟期を迎えつつある時は、世界の携帯電話メーカーのトップ3の一角に食い込む。それが、我々の野心であり、目的です。ただし、それがいつになるかは、わかりません。ただ、我々が、2006年に打ち立てた勢いは、この目標を実現可能なもとしています。もちろん、これからも激しい競争を続けなければなりませんが。
■ハワード会長
ソニーエリクソンは、とてもうまくいっています。『ウォークマン』のブランドは、ソニーエリクソンとの提携により、蘇ったと言えます。『サイバーショット』という資産も、携帯電話の販売を押し上げました。これらの携帯電話には、ソニーBMGの楽曲がプレインストールされたものもあります。このコンテンツとハードの関係は、ソニーの戦略にとって、とても重要なものです。
---アップル『iPhone』についてどう思いますか?
■フリント社長
正直なところ、あまり他社のことについては話したくありません。ソニーエリクソンについて絞りたいのですが・・・。ただ、私は、他社の技術革新を批判したことはありません。我々の産業は、絶え間ない、終わりのない技術革新の上に成立しています。それが、私が言いたいことです。2年前、携帯電話に『ウォークマン』ブランドをつけることに、懐疑的な意見は多くありました。しかし、いまや携帯電話に音楽プレイヤーがつくのは、当たり前のことになりました。専用のMP3プレイヤーである必要は、なくなりました。また、いくつかのコンバージェンス・デバイス(スマートフォン)は、コンピューターと携帯電話を融合したものです。この傾向は、今後2、3年は、注目し続ける必要があります。
---CDMAに再参入する予定はありますか?
■フリント社長
我々は、日本のKDDI向けに、ハイエンドの携帯電話を販売し、大きな成功を収めています。その他の市場でCDMAに進出する予定はありません。
---「グローバル・マーケットにおけるトップ3」という場合、もっとも重視するのは、マーケット・シェア、売り上げ、利益のどれですか。
■フリント社長
記者やアナリストは、グローバル・マーケットにおける販売台数を重視することは知っています。(フリント社長の肩を、ハワード会長、スヴァンバーグ社長が揉んで、会場から笑いが起こる)両脇のジェントルマンがボディ・ランゲージで示してくれましたが、やはり利益を重視します。我々は、利益をあげることにフォーカスを絞ります。シェアは重視しません。ソニーエリクソンは、利益をあげながら、マーケット・シェアをあげられるポジションにいると思います。たとえば、インドの工場ですが、インドの携帯電話市場は急速に成長しており、我々にビジネス・チャンスをもたらします。インドに工場をつくるという判断は、2年前なら早過ぎるものとなったでしょうし、2年後なら遅すぎるでしょう。我々は利益、つまり利益のシェアを重視しています。販売台数が減りましたが、日本以外のCDMAから撤退したのは、そのためです。我々は、マーケット・シェアだけを狙いにはいきません。マーケット・シェアを得る際にも、利益を含む他の要素も考慮します。