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MYUTA判決は一審で確定していた

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落合洋司弁護士のブログで知りましたが、MYUTA判決は被告が控訴しなかったため地裁判決が確定してしまっていたようです。経営体力がないベンチャー企業の被告としては、コストをかけてJASRACと法廷で戦い続けるよりは、サービスをやめてしまった方が得と判断したのでしょうね。余計なお世話と言われそうですが、個人的には上級審の判断を知りたかったです。

さて、もう1度整理しておきますが、この事件の争点は、1)サーバへのアップロードの主体は誰か(主体がプロバイダーであれば私的複製でなくなる)、そして、2)著作物のサーバからのダウンロードが(ちゃんと認証処理とアクセス制御をしている場合であっても)公衆送信にあたるのかという2点です。

現実的な妥当性という点で言うと、1)についても問題はありますが、どちらかと言うと重大なのは2)の方だと思います。以前のエントリーで以下のように書いた通りです。

このサービスは(中略)しっかりと認証処理を行 なっているようです。しかし、それでも裁判所の判断では、「本件サーバに蔵置した音源データのファイルには当該ユーザしかアクセスできないとしても,それ 自体,メールアドレス,パスワード等や,アクセスキー,サブスクライバーID(加入者ID)による識別の結果,ユーザのパソコン,本件サーバのストレージ 領域,ユーザの携帯電話が紐付けされ,他の機器からの接続が許可されないように原告が作成した本件サービスのシステム設計の結果であって,送信の主体が原 告であり,受信するのが不特定の者であることに変わりはない。」と結論づけています。これはかなり違和感を感じてしまいます。

これでは、自己が所有するCDをリップして汎用のネット・ストレージにアップしておき、自分だけでダウンロードする行為が、著作権者の公衆送信権を侵害すると解釈されてしまうのではないか、と考える人が出るのは無理からぬことでしょう。

ところで、以前のエントリーで、パテント誌9月号に大滝均弁理士の分析記事が載っていると書きました。そこでも書いたように、パテント誌の記事は2ヶ月遅れくらいで日本弁理士会のサイトに公開されることになっているのですが、現時点ではまだ8月号までしか載っていません。まもなく載るのではと思います。

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