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プログラミングでメシが食えるか!?

請負型ビジネスから提案型ビジネスへの過程

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先日、「業績好調!」で最近の業績のことを書いてみましたが、2018年度の業績が経費までしっかり把握できたので、あらためてこれまでの「請負型ビジネスから提案型ビジネスへの過程」を自分自身の備忘録としてもまとめてみました。

2008年10月にメンバー向けに書いた資料をたまたま見つけたので、一部をそのまま張り付けてみました。


2010年4月までに解決すべき課題

収益の確保

PLASMA事業部時代は良いお客と運を味方に付け、毎期結果的にはプラスの成績を出してきた。しかし、IT事業部での2008年上期は不景気のあおりを受け、受託開発は不振に終わった。

受託開発の実績や経験は今後も活かせるので収益の軸とするが、仕事の確保には十分な余裕を見込んだ動きをせねばならない。従来のように、この先によい話がありそうと言うことに頼ることはできない。取りすぎて困るくらいの状況を作る、相手から依頼が集中するような戦略を練るなど、従来通りのやり方以外の動きもしなければならない。また、他でもできる仕事では価格競争に巻き込まれるので、得意分野を活かす仕事で高い利益を得ることが重要である。
受託開発以外で収益を得る手段の一つとして製品開発販売の立ち上げも重要なポイントである。2008年上期にかなりの下準備を行えたので、下期は確実に収穫する。販売店などとの連携も重視し、良好な関係を築く。地盤を整えながらより付加価値の高い製品開発へと進む。

※PLASMA事業部というのはCADシステムを開発販売していた私が入社後3年目に作った事業部の名前で、その後IT事業部となり、現在の製品開発事業部となった部署の昔の名前です。

当時の状況がよくわかります。ちょうどオフショア開発が盛んになってきた時代だったと思います。

現在でもIT関連製品の中心を担っているProDHCPIntraGuardianが以下のような時期にスタートしていました。上の文章を書いた時点ではまだほとんど製品は売れていない状況でした。

ProDHCP
・2005年8月:プロトタイプ作成
・2005年12月:命名
・2008年3月:OEMの相談開始〜約1年後にOEM出荷開始
・2009年3月:ProDHCPとして初出荷

IntraGuardian
・2006年2月:プロトタイプ作成
・2006年6月:命名
・2008年8月:プレスリリース・初出荷

実はオルタナティブ・ブロガーになったのも2008年で、当時「不正接続検知」「自作DHCPサーバ」という感じにブログで書いていました。

ちょうど2010年からのデータをまとめていた資料がありましたので、それに最近のデータを追加してみました。なお、私の会社ではゴルフ練習場向け製品も大きな売上になりますが、今回の話題ではIT関連のみにしてあります。

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青の受託関連荒利と赤の製品関連荒利と、さらに、全体の荒利を見ながら振り返ることができます。

2010年の下期には1:1くらいになっていますが、2012年くらいまではまだまだ受託に頼っていた感じでしょう。

2013年からは製品関連の割合が大きくなり、請負型から提案型へのシフトがほぼ達成できた感じですが、その後も2014年・2015年と上期に業績が悪くなるなど不安定でした。

2013年から製品関連の割合が増えたのは、直販から販売店経由と商流を変えたことが大きなポイントです。ProDHCPは今でも直販の割合が高いのですが、薄利多売のIntraGuardianは直販では数々の問題が出ました。

「販売関連の雑務やサポート対応に追われ、開発メンバーが開発の時間を取れない」

売れてみなければ想像もできなかったのは、薄利多売タイプの製品開発販売事業の経験がなかったからとはいえ、自分たちでも呆れたものでした。運良く販売・サポートを任せて欲しいという会社から声がかかり、双方の利害関係が一致したことで商流を変えて、それから安定して販売も開発もサポートもできるようになったのでした。

IT業界では受託開発から製品・サービス型、大きく言えば提案型を目指したいという会社がたくさんあります。我々は実際にそれを経験しましたので、何が大事だったのかを自分たちなりに理解しています。もちろんいろいろなやり方があると思いますが、私なりのポイントをまとめておくと・・・

提案型への移行には自社内でも反対が強い
・製品やサービスでいつになったらどのくらい稼げるのか?
・それまで自分たちの待遇はどうなるのか?
・そもそも作って立ち上げても本当に売れるのか?
・せっかく築いてきた受託関連の既存客への対応はどうするのか?

これに対して私が・・・というより、製品をやりたいというメンバーたちと取った方法は、今ではブラックだと言われると思いますが、「受託仕事で稼ぎを維持しながら、効率を上げて作った時間や個人の時間に開発を進めた」です。「個人の時間に開発!?」と言われそうですが、私が指示したわけではありません。受託仕事ではなく製品をやりたいというメンバーたちの熱い思いで自主的にやってくれていたのです。それでも今ならブラックだと言われるのでしょうけれど。でも、お金に余裕がある状態で提案型ビジネスに取り組むならよいですが、中小企業でそんな余裕がある会社などほとんどないと思います。とくに受託開発は仕事さえ確保できれば安定した収入は得られますが、大きな儲けはなかなか得られませんから、受託から提案型に移行したい会社ではほとんどお金に余裕がある状態などないでしょう。

方法はともあれ、反対勢力に対して、「稼ぎは下げず、よって待遇も悪化しない」という状態で取り組んだわけです。売れなくても「趣味でやっていたようなものだから」というイメージで反対されにくい状態だったとも言えるでしょう。受託もこなしていたのでいきなり受託の既存客への対応を打ち切るわけでもなく、問題も起きませんでした。

もちろん、社長である私が全面的にバックアップ・・・どころか、自分自身も製品のソースコードを書いていましたので、製品に取り組むメンバーたちも安心して?取り組めたと思います。

何をやればいいのか?
・製品・サービスを、と言っても何をやるのか?
・それは本当に売れるのか?

請負型ビジネスから提案型ビジネスに移行したいと考えている人は多いのですが、「何をやればいいのか?」の答えがない状態で考えている人が多いと感じています。知り合いに「何をやればいいと思う?」と聞いて教えてくれるはずはありません。絶対に当たると思うネタを持っていれば自分でやるでしょうから。

ProDHCPは元々DHCPサーバに困っている現場があり、それを救うために開発したのがきっかけです。このパターンでは、「すぐに現場実績がある状態になる」「ニーズがある程度わかる」というメリットがあり、製品として売れる可能性は高い状態に最初からなります。受託では権利関係で難しいことが多いのですが、案件によっては予算がないからなどの理由で、利用権だけでかまわないというケースもあります。それでもProDHCPは最初に売れるまで3年もかかっていますから、作る苦労より売る苦労の方がはるかに多いということと、3年売れなくてもその後の主力製品になる可能性はまだまだある、ということがわかります。

IntraGuardianは同業者の集まりで、「すでに競合製品もあるけれど、こんな製品ができるのなら売りたいのだけど」という話しから、翌日にはプロトタイプができたと知らせて、製品化がスタートしました。これも売りたい会社があるということは、売る苦労が多少は少ないかも知れない?という背景が得られます。こちらも売れるまで2年以上かかってますから、技術的にできても、製品として仕上げることや、売ることの難しさがよくわかります。

実は「製品企画ミーティング」のような取り組みも社内で一時期していました。ところが、出てくる案は「既に自分たちができる技術を使うもの」「自分が作ってみたいもの」などばかりで、作ったところで売れるの?どうやって売るの?という感じでした。自分たちが販売やサポートを通じてニーズをしっかり知った上で企画するならともかく、普段自社でプログラミングをしているメンバーが世の中のニーズなどそう簡単にわかるものではありません。

作ることより売ることの難しさ
・実績がないという事実
・製品販売をしたこともない
・サポートも経験がほとんどない

受託開発をしていたので、当然プログラミングはプロですから、できるのは当たり前です。多少は技術的に難しいポイントもありますが、ほとんどはユーザインターフェースや品質などへの対応の方が苦労するくらいで、それでも作ること自体は何とかなるものです。ところが、できたところで売れません。売れないどころか、存在を知ってもらえません。知ってもらえても、実績がない製品は使いたくないと言われます。販促活動などやったこともない状態でしたから、電話での売り込みもやりましたし、量販店に交渉しにいったりもしてみました。それでもそう簡単に売れません。売れていないという足元を見られて、とんでもない条件を出されたりします。なにをやるのも最初は苦しいものです。

ProDHCPはOEM提供が決まり、大手さんの製品で使われているということを公開させてもらえたきっかけで問い合わせが来るようになりました。IntraGuardianはブロガー仲間に相談してプレスリリースを正式に流したことがきっかけで問い合わせが来ました。

売れるかどうかのポイント
・機能・性能?
・値段?
・競合との比較?
・世の中にないもの?

知ってもらっても売れるとは限りません。世の中にないものなら売れると考えるかも知れませんが、世の中にないものは理解してもらうのが大変なのです。ほとんどの製品・サービスは競合があるとおもいますので、機能や性能で選んでもらえることもあるでしょうけれど、やっぱり最初は価格だと私は感じています。

ProDHCPは競合製品の1/10以下の価格でした。ほとんどが海外製品でしたし、回線事業者などプロ向けの製品ですので、基本的に数が出ませんし、価格が高いのです。それを、良くわからずに値付けしたら1/10だった・・・という感じでしたが、安くても性能が高く、しかも国産で国内サポートが受けられると、とても喜んでもらえました。逆に安すぎて信用できないと言われるくらいでしたが。今でも安すぎるのですが、ソフトウェア製品なので仕入れはありませんし、プロ向けの製品で立派なマニュアルもいりませんし、サポートもプロを相手にするのでシンプルに対応でき、困ってはいません。

IntraGuardianは価格破壊をしようと、アプライアンスなのでハードの仕入れもあるにもかかわらず、直販しか考えずにあり得ない価格設定をしました。当然、大量に導入する必要がある大手組織さんから熱い問い合わせが得られましたが、数が出ると出荷対応で大忙しになり、これでは開発ができなくなるということで販売店と手を組みましたが、価格が安すぎて利幅がない!と大問題になりました。

いつになったら儲かるのか?
・リリースしてすぐに売れるとは限らない
・ほとんど売れる見込みがないなら、1つも売れる前にやめること

販売開始してからどのくらいで売れるかは難しい問題で、製品の種類によっても大きく異なると思います。価格が安いものほど、とりあえず実績がなくても・・・となりやすい傾向があると思いますので、ちらほらと売れはじめるのは早いと思います。単価が高いものはどうしても実績を見られがちです。

売れると信じているものであれば、すぐに諦めずにしっかり販促活動を続けるべきですが、市場の反応を見て、これはあまり売れないかも?と感じたら、とっととやめるべきです。1つでも売れてしまうとサポートしなければならなくなり、儲からないのにいつまでもズルズル引っ張られます。

そろそろ書き疲れてきましたが、当時を振り返ると呆れることばかりです。それでも、当時の思い切りがなければ今頃どうなっていたことか・・・

ビジネスには正解などありません。人・物・金全てが不確定要素ばかりで、「我が社はこうなる!」などと心から断言できる社長はほとんどいないと思います。それでも一歩踏み出してみることができるかどうかが運命の分かれ道なわけです。踏み出してみれば想像すらできなかった困難に呆れるほどぶち当たります。困難をひとつずつ乗り越えながら経験・知識が身につき、また次への舵が切れるものです。「受託から製品へのシフトはもくろみ通りでしたね」と言われることもありましたが、全然もくろみ通りではありませんでした。今の状態になる確率を当時の私は1%も予想できていませんでした。それでも、熱い思いのメンバーたちともがき苦しみながら立ち向かっていると、それを知った仲間から様々な情報・支援をいただけ、目の前のチャンスをひとつ逃さずつかむくらいの気持ちでやってみて、必死でもがいていたらこの位置に立てた、という印象です。一緒にもがいてくれたメンバーたちには言葉では言い表せないほどの感謝の気持ちを持っています。まあ、その一方で、何度も怒鳴りたくなることもありましたけどね〜 また、パートナー様との出会いがなければ途中でたち消えていたでしょう。

新しいビジネスへの移行を計画的にできる人がいたら私は尊敬します。でも、おそらく一度やったことがあるパターンでないとまず無理ではないかと思いますが。私からすれば「どうせ初めてでわからないことだらけだから、計画など立てている暇があったらとっととやってみろ!」と思っています。

現状もまだまだ手放しで安泰という状態ではありません。ITに限らず、ゴルフ練習場向け製品も勝負をかけている真っ最中です。どうせやるからには堂々と胸を張って誇れるような仕事をしたいものです。数年後にこのブログを読んで、まだまだ甘かったな〜と思える自分になるよう、しっかり成長したいものです。

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