バイラルビデオ広告部門のトップに君臨する「Will it Blend ?」シリース全109作品を分析しみてみた(109本全リスト付き)
【1】 今度の「Will It Blend?」のターゲットはジャスティン・ビーバー
ブレンドテック社の新作バイラルビデオが面白い。タイトルは、「ブレンドできるの?ジャスティン・ビーバー」。そう、今度はとうとうあのジャスティン・ビーバーが粉々にされてしまう。
■ Will It Blend? - Justin Bieber
今回の新作、「Will It Blend?」シリーズを毎回首を長くして待ちわびている私のような熱狂的なファンの期待を裏切らない、非常に完成度の高い作品になっている。まず目についたのが、回を増すごとに磨きがかかっていく細かい演出。今回は、ブレンドおじさんがジャスティン・ビーバー風のカツラをかぶって最後まで演技をするのだが、こういう細かい演出は回を重ねるごとに上達しているのがよくわかる。極めつけは、粉々になったジャスティン・ビーバーのフィギアが、ロックバンドのキッスに変身してしまうラスト・シーン。こういう演出は今まであまりなかったので、見ていてとても新鮮に感じた。
この「Will It Blend?」シリーズ、最初から今のような凝った演出が加えられていたのかと言えば、決してそんなことはない。初期の作品は、何の演出も加えられていない平凡な作品が多い。最近のようなレベルになるまでに、かなりの試行錯誤がくり返されていたことは意外と知られていない。では、いつ頃から今のような演出が加えられるようになったのか、どのようにして変化していったのかについて、「Will It Blend?」シリーズ全109作品を振り返りながら分析してみることにする。
【2】 「Will It Blend?」シリーズはどこが凄いのか
本題に入る前に、「Will It Blend?」シリーズの凄さについて簡単におさらいしておきたい。下の図は、Visible Measuresが発表した、バイラルビデオ広告の視聴率ランキングのキャプチャー画面である。
このブログで再三言及しているように、1億6千4百万回でTOPを走っている。実は、「Will It Blend?」シリーズの凄さを表す数字は、視聴回数だけではない。視聴回数の右隣に、”COMMENTS””RATINGS””DISTRIBUTION”とあるが、これはコメントされた回数と評価された回数を指している。つまり、口コミされた回数が他のバイラルビデオ広告とは比べ物にならないくらい多いのである。下に、TOP10の”COMMENTS””RATINGS””DISTRIBUTION”の合計を集計した表を用意しているので参照してみてほしい。
インターネット上で口コミされた回数が、2位のオールドスパイに2倍以上の差をつけている点に是非注目してほしい。「Will It Blend?」シリーズが、動画を視聴したユーザに何らかのインパクトを与え、口コミしたくなる魅力に溢れたバイラルビデオ広告だということを証明している。
もう一点だけ注目したいことがある。最初に紹介したVisible Measuresのキャプチャー画面をもう一度参照してみてほしい。左から3番目に”AGENCY”という項目がある。これは、広告代理店のことを指しているのだが、「Will It Blend?」シリーズは”In-House”となっている。”In-House”というのは、広告代理店を使わずに自社で対応したことを意味している。視聴回数と口コミ回数部門で1位にランキングされているNO1バイラルビデオ広告が、広告代理店の手を借りずに自社で制作されたという点が、このシリーズの価値を高めている一つの要因になっている。
参考までに、Visible Measuresでは全部で319作品のバイラルビデオ広告が登録されているが、”In-House”となっているのはわずか12作品しかない。この数字だけを見ても、いかに「Will It Blend?」シリーズが突出しているバイラルビデオ広告かということがわかる。
【3】 2009年をきっかけに大量生産から品質重視へ転換
まず最初に全体を俯瞰してみたいと思う。YouTubeに公開されている「Will It Blend?」シリーズ全109本の公開日と視聴回数を集計し、年表形式にして全体の流れが追えるようにしてみた。まず注目したいのは、2006年から2008年迄の前期と2009年から現在までの後期とで、「Will It Blend?」シリーズの戦略が全く変わってきている点である。
2006年から2008年迄の3年間は、大量生産の戦略を実行していることがよくわかる。2006年25本、2007年36本、2008年20本と、この3年間で全体の74%にあたる81本ものバイラルビデオを生み出している。その反対に、2009年から現在に至るまでの3年間は、大量生産をやめ、品質重視の戦略に大きく切り換えている。表を見てほしいのだが、2009年11社、2010年12社、2011年も6月時点で5社と、1ヶ月に1本確実に公開するペースに変化してきているのがわかるはずだ。2006年から2008年までの3年間で試行錯誤を繰り返した結果、1ヶ月に1本のペースで公開して行くことがベストな方法であるという結論に至ったと想像できる。
「Will It Blend?」シリーズの名を一躍有名にしたアップル社の製品を扱った作品も、2006年のiPodから始まり、全部で9作品ある。2007年の「Will It Blend? - iPhone」と2008年の「Will It Blend? - iPhone3G」は、その年公開された全作品の中でNO1の視聴回数を記録するヒットとなっている。また、2010年の「Will It Blend? - iPad」は、視聴回数11,551,343回で、「Will It Blend?」シリーズ全作品中NO1の視聴回数を誇っている。「Will It Blend?」シリーズにとって、アップル社の製品がいかに重要かということも今回明らかになった。
2009年から品質重視に切り替えたことを証明する興味深いデータがある。下の図は、年度別に動画の公開本数、公開された動画の合計再生時間、合計の再生時間を公開本数で割った1本あたりの再生時間を集計したものである。
ここで注目してほしいのは、1本当たりの再生時間だ。毎年少しづつではあるものの、再生時間が長くなっているのがわかる。2009年は、1分52秒と前年よりも17秒も増えている。一人でも多くのユーザに視聴してもらうために少しづつ演出が加えられ、それに伴い再生時間も長くなっていったと考えることができる。最近の作品は、平均すると2分前後が多いことから、いろいろ試してみた結果、最終的に辿り着いたベストな再生時間が2分前後だったのかもしれない。参考までに、新作「Will It Blend? - Justin Bieber」の再生時間は2分35秒だ。
【4】 この6年間で変わったものと変わらなかったもの
最初の作品は、2006年10月30日に公開された「Will It Blend? - Marbles」で、これが「Will It Blend?」シリーズの記念すべき最初のバイラルビデオ広告ということになる。見てもらえればわかるのだが、今のような凝った演出がまったくない、シンプルな内容になっている。
■ Will It Blend? - Marbles
この1本目の作品をきっかけに、「Will It Blend?」シリーズは立て続けに公開が続くことになる。10月5本、11月9本、12月に11本と、2006年に公開された25本は、実はたった3ヶ月間で実現されたことになる。これには少し驚かされた。最初の頃は、ほとんど演出のようなものもなく、ありとあらゆるものをブレンドしてしまうという内容の作品を毎回繰り返し続けて行くことになる。
最近の作品に見られる、少しコミカルな表情や演出らしきものを感じることができる最初の作品は、2007年1月30日に公開された34本目の作品「Will It Blend? - S***r B**l Smoothie」ではないだろうか。メキシコ料理のようなものをブレンドしてしまうのだが、明らかに今までの作品とは違った雰囲気を感じさせるバイラルビデオになっている。
■ Will It Blend? - S***r B**l Smoothie
2007年2月21日に公開された「Will It Blend? - Glow Sticks 」も、最後骸骨になってしまう演出が面白い。全109作品中3番目に視聴回数の多いバイラルビデオだ。
■ Will It Blend? - Glow Sticks
これ以降、いろんな演出が試みられることになる。実演販売、ロケ、合成など、結構手間と時間をかけて作られたと思われる作品もいくつか登場してくる。最近のヒットは、スティーブ・ジョブスのそっくりさん(あんまり似ていないという評判だが)が登場して来る作品だろう。最新作に通じる演出が、このあたりから確立されはじめているのがわかる。
■ Will It Blend? - iPhone 4
演出が加わっても、この6年間まったく変わっていないものもたくさんある。
①オープニングの演出(トム・ディクソン氏の登場とテーマ音楽)
②「家では真似しないでね」「子供は真似しないでね」のキャッチコピー
③「YES, IT BLENDS!(ブレンド出来たよ!)」という最後の決め台詞
④最後、必ず対象物をブレンドして終わる演出
⑤ミキサー以外の商品を宣伝しない
細かい演出はこの6年間でいろいろ変わっても、当初から全く変わっていない部分もたくさんあることが、「Will It Blend?」シリーズが6年経った現在でも多くのユーザに支持されている理由な気がしてならない。
【5】 まとめ
①バイラルビデオ広告部門でトップに君臨する作品は、広告代理店を介さず自社で考えられたものである
②1本の大ヒットを狙うのではなく、109本の少・中ヒットを狙う戦略を採用している
③全てがヒットしているわけではなく、ヒットしない時期が続く冬の時代を経験している
④現在は1ヶ月に1本のペースで公開している
⑤基本的な部分は6年間変わっていない
最後に、109作品を公開日順に整理した全リストを用意したので、気になるバイラルビデオがあったら是非チェックしてみてほしい。