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リアルから見るリアル×ネットの可能性(メモ)

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今ネットの世界で起きている面白い動きの一つに「リアルとの融合」がある。いわば

リアル×ネット (リアルのネット化)

である。これはこれからの新ビジネスを考える上でとても重要なファクターになってきている。反対側から見ても、つまりリアルから見ても大きな可能性がある。しかしリアルという言葉は巷で聞き慣れすぎているので意味が上滑りしないようにしたい。リアルとは実世界(real world)のことでアナログなままの世界が広く広がっている。

ここではどんなリアルのものがネットに引き寄せられつつあるのか思いつくままに観点を示したい。一つ一つは何ら新味はないのだが、リアル起点でものを見直すと新しい可能性が見えてくるかもしれないので列挙してみた。挙げたデータは何らか傍証になるかもしれないとネットから拾ってきたものばかりなので、あくまで仮説メモとして捉えて頂ければ嬉しい。

例1.社会×ネット (社会のネット化)

リアル=実世界のまさに一例だと思うのは「社会(ソーシャル)」。上の公式に当てはめると社会×ネット。何のことはない、ご存じのとおり人と人をつなぐソーシャルネットワークがめざましく普及してきたということだ。日本でも、フェイスブックのアクティブユーザーは800万人になった。実名性だから文字通り、仮想社会ではなく実社会を築いているというのは大きい。──リンデンラボ社が築こうとした仮想社会「セカンドライフ」が盛り上がりきれなかったことや、ミクシィが匿名を許してきたのとは対照的にフェイスブックが実名を強いても会員を急拡大できたことの意味を捉え直したいところだ。

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図 日本におけるフェイスブックのアクティブ・ユーザー数の推移 (socialbakers.com から)

人は社会的動物なので、この観点で可能性を拡張してみると、人間以外の社会的動物もSNSのユーザーになる可能性を潜在的に持っている。例えば犬や猿など。ソフトバンクの「お父さん」の出てくるコマーシャルはいつ見ても面白い。

例2.場所×ネット (場所のネット化)

それから場所もリアルの立派な一例だ。具体的な現象としては、GPSがついている端末が既にかなり普及している。これは少し前のデータだが、2011年末には携帯電話におけるGPS装着率が80%を超えるだろうという予測がなされていた。

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図 携帯電話におけるGPSの装着率(世界データ) (IHS iSuppli Market Researchから)

GPSとは地球上の絶対的位置を知らせるセンサー。センサーなら他にも温度計、体重計、距離計などもあるが、GPSは特別だ。緯度・経度で表される(35.587239 , 139.728577 )という数字は、体重70kgという数字とは、意味の質が大きく違っている。数字自体が何を指しているのか明確なのだ。今後もいろんなセンサー情報が増えてくると思うが、GPS情報とセットになった情報とそうでない情報の重みは大きく違うはずだ。

例3.インフラ×ネット (インフラのネット化)

リアルの選び方をちょっと変えてみるとインフラもリアルの一つだと想起される。インフラとは水道や道路など、人間が作った生活や仕事の基盤になるものだ。実はこうしたインフラは過去の蓄積があるので、リスクも累積している。40年とか50年といった寿命があるからだ。高度成長期に作ったインフラはそろそろ強度がやばくなってきているので、更新しなければいけない。今の時期はまだ更新投資が5兆円程度で済んでいるが、10年後にはいっきに倍の10兆円ぐらいになる。

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図 今後の維持・更新費の予測「社会資本15分野」 ( (財)建設経済研究所から)

インフラはこれこそカネの塊みたいなもので、パソコンやサーバーなんかよりも遙かにカネをかけて作っている。維持するにしても、建て替えするにしても、今後投資する対象はライフサイクルに渡ってのリスクを低減することが大きな課題になる。かつそれを限られた予算でやらないといけないというジレンマもある。だから管理の仕方を変えないといけない。インフラに、管理のためのネットワークを装備するのはもはや必然の方向になるだろう。

例4.ビジネス×ネット (ビジネスのネット化)

リアルの選び方としては拡大解釈かもしれないが、ビジネス活動もリアルの例といっていい。

現状ネット化が進んでいるのは、サプライチェーンの垂直な流れにそった一部の商取引がほとんどで、基本的には供給側から商材を押し流す流路を効率化しているに過ぎない。これを消費者都合に立って描き直してみれば、それと同じ流路を遡るような絵には絶対ならない。求められるのは、端的にいえば利用シーンに沿った商材の組合せを実現することで、必然的に同業者間のコラボ、異業種間のコラボが求められる。ようは競合する商材を集約せよ、補完関係にある商材をセットにせよ、という要求だ。

事業者間のコラボは大局的にはとても有意義なことだが、実際に進めようとすると一つ一つの事業者が利害を気にしすぎてコラボがなかなか進まない。だから現状は、賢い消費者が頭の中で同業者の商材を比較対照し、異業種の商材を掛け合わせて自分の買い物を果たすようにしている。事業者間の摩擦や交渉ごとなどの代償が大きすぎると分かっているので連携して供給してくれとまでは言ってこない。

しかし事業者間コラボは潜在需要を発掘する試みとして始まってきている。なんと言っても付加価値が大きいからだ。下の調査にもあるように、 事業連携を行う動機として、「新商品開発力・製品企画力・技術開発力の向上」「販路の拡大、市場開拓能力の拡大」「売上・付加価値の拡大」などが上位に来ている。

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図 事業連携に期待する効果 ~事業連携により高付加価値化を期待している企業は多い~ (中小企業庁から)

少し話を飛躍させるが、現状は事業者側が自分らの都合で商材をコーディネートしているレベルにしか見えないが、消費者側のイニシアチブでコーディネートすることが普通になったら付加価値の厚みはさらに大きくなるのではないか。競争が事業者間から消費者間に移るからだ。良い物を作っても売れない時代は終わり、良い物しか作れない時代になる。

実世界の有限性を知覚するための「リアルのネット化」

さてさて、昨年あたりは「シェア」がキーワードになった。経済の不調や度重なる悲劇もあって、限られた資源を分かち合う精神としてシェアが台頭してきたのは言うまでもない。

だが他方でシェアをやりすぎると経済が「シュリンク」するじゃないかという心配も出てきた。私自身はシュリンクは現に起きているように避けられないし、避けるべきではないと思っている。恐らく「短期的にはシュリンクするけど長期的にはまた大きくなる」が正解じゃないだろうか。苦し紛れに幸福度のような指数を混ぜなくても、純粋に経済指数だけでもそれは言えるのではないか。

そう思う大きな理由がリアルの有限性にある。実世界では資源が限られているということや、同じ人間は一人しかいないということだ。有限であることが知覚できるためには、実世界における全ての部分を特定できることが必要で、これから起きる「リアルのネット化」がまさにそれを助けてくれるだろう。

同時にここが大切なところだが、全ての部分を特定できるようになることは、価値の組合せを飛躍的に増やすことにつながるだろう。同じ過程で当然効率化も進むが、それ以上に付加価値の厚みが増すはずだ。私たちが知っている価値の組合せより知らない価値の組合せのほうが明らかに多いからだ。これが「(経済が)長期的には大きくなる」理由だ。

再び成長するためには一度縮まないといけない。よく聞くフレーズで、ジャンプするには一度屈まないといけないという理屈と同じだ。何だか当たり前な話になってきたが、こんなことをいちいち考えてしまうのも、私たちが屈むことを恐れすぎているからだ。確かに屈む行為は実に心情に反している。周囲からの圧力で押しつぶされてしまうかもしれないからだ。恐らく屈むのは一瞬にまとめたほうがいいのだろう。──経済の舵取りは、人が良いだけの人にはできないものだとつくづく思う。

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