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IoT活用で渋滞解消と処理能力アップを狙うハンブルグ港湾局

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ハンブルグ港(Port of Hamburg)は、ドイツ最大の貿易港である。

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ハンブルグ港の夜景。手前は観光客でにぎわう旧市街地。Source

ドイツ北部、北海に注ぐエルベ川の河口に位置し、2011年から世界最大の貿易黒字国となっているドイツの輸出入を支える大動脈だ。コンテナ貨物取扱量は約930万TEU*(2013年)で、欧州全体でもロッテルダム港に次ぐ第2位。

*TEUは貨物取扱量を示す単位。「20フィートコンテナ換算」(Twenty-feet Equivalent Unit)のことで、20フィートコンテナを1、40フィートコンテナを2として計算する。

ちなみに日本全体の取扱量が2,123万TEUなので、ハンブルグは一港でその42%に相当する。また日本のトップ3は東京港(486万TEU)、横浜港(289万TEU)、名古屋港(271万TEU)なので、その合計にほぼ匹敵する。

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ハンブルグはドイツ北部に位置する Source

■港湾は基幹産業

ハンブルグ市の人口は170万人で、ベルリン市の330万人に次ぐドイツ第二位の大都市でもある。ベルリン特別市と同様に、一市単独で連邦州(ラント)を構成する特別市(都市州)なので、ハンブルク特別市とも呼ばれる。

貿易はその昔から、まさに都市国家ハンブルグのアイデンティティであり、 基幹産業であった。

ハンブルグ港の「開港」は1189年、神聖ローマ帝国フリードリッヒ1世から船舶航行の特許状を受け、関税特権・商業特権を得たことに始まるとされ、1989年には「開港800年」を祝った。中世都市の自由貿易連合体であるハンザ同盟に1321年に加盟。以後も自由都市としての地位を守った。1871年のドイツ帝国成立の際にも、ハンブルクはどこの州にも属さず独立を維持した。それゆえ王侯貴族の支配なき自由都市としての気風が形成され、それがハンブルク市民の誇りでもある。(出典:Wikipedia「ハンブルグ」)

現在もハンブルグ港はハンブルグ市の面積の約10%を占めており、また港湾で働く労働者の数はおよそ15万1千人と市の人口の1割近い。まさに市の基幹産業といえる。

しかし近年、ハンブルグ港は「処理能力の拡大」「交通渋滞の解消」という2つの大きな課題に直面している。

■拡張なしに、処理効率を拡大しなければならない

貿易港の競争力とは、まず第一に「貨物扱いの効率性」にある。荷主にとっては、荷物がどの港を経由するかは関係ない。単に早く、安く、確実に届くルートでさえあればよいのだから。

germany_ports02.pngドイツではトップの規模を誇るハンブルグ港だが、ヨーロッパは陸続きであり、たとえばデュッセルドルフ、ケルン、フランクフルト、シュトゥットガルトなどドイツの西側の都市からは、ハンブルグ港よりロッテルダム港(オランダ、1,186万TEU=欧州1位)やアントワープ港(ベルギー、863万TEU=欧州3位)のほうが近い

実際、ドイツ全体の輸出入貨物の約36%がドイツ国外の港を経由しているという統計もある。EU統合で国境の壁が低くなっていることも相まって、ハンブルグ港は厳しい競争にさらされているのである。(そのかわり、ポーランド、チェコ、スロバキア、オーストリア、スイスなど"ドイツの奥"に位置し鉄道でつながっている国々の貨物もハンブルグを経由するのであるが。)

cityofHamberg.jpgいっぽう、ハンブルグ港はハンブルグ市の中心部に位置している。

港が市の中心部にあるとはどういうことか?と思われるだろうが、地図をご覧いただきたい。

ハンブルグ港の「海」とは、実際にはエルベ川であり、ハンブルグは北海から100kmも内陸にあるのだ。したがって海に面している他の港湾と違い、ハンブルグ港は面積としてはこれ以上拡張の余地がない。(大型船を回頭させるスペースの確保にすら苦労している。)

ハンブルグ港の2014年現在の取扱量は900万TEUだが、2025年にはこれが2,500万TEUまで増えるだろうと予測されている。しかし拡張ができない以上、処理効率を高める以外の方法はない。つまりハンブルグ港にとっては、既存設備の拡張なしに、処理効率だけを2.5倍に引き上げなければならない、という喫緊の課題があるわけだ。

■なぜ交通渋滞が発生するのか?

いっぽう、ハンブルグ港周辺の幹線道路はコンテナ輸送トラックなどによる交通渋滞が慢性化している。たとえば下記の写真は、左は深夜右は昼間のトラフィック状況を重ね合わせたものだ。昼間のほうは、都心部(地図でいう上側)に向かう左右の幹線がいずれも混み合っているのがわかる。

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ハンブルグ市中心部の交通状況を航空写真に重ね合わせた図。左が深夜、右が昼間

そして前述のとおり、ハンブルグ港はハンブルグ市の中心部に位置しているため、渋滞はそのまま市民生活に悪影響を及ぼすのである。これで、コンテナの流通量が2.5倍になったらどうなるか... おそらく幹線道路は完全にマヒしてしまうだろう。

そもそも、なぜ渋滞が発生するのか?

トラックに限らず、業務用車両のドライバーは、必ず、指定刻限より早く現地に到着しようとする。早く着いて文句を言われることはないが、遅れればペナルティを取られるのだから、当然の行動原理だ。

ところがハンブルグ港では、早く着いても、早く荷を下ろせるわけではない。ステドラルキャリア(コンテナをトラックから降ろすための機器)の数には限りがあるし、コンテナは降ろす場所と順番も重要だからだ。

したがってトラックは早く着いても待たなくてはいけないが、ハンブルグ港では駐車スペースも限られているから、もし空きがなければ、引き返すしかない。そして引き返したトラックは、指定刻限が近づくと、ふたたび同じ道を戻ってヤードに向かうことになる。必然的に交通量は増える。

ところが、コンテナ船の側も、遅れることがある。しかしある船が遅れるからといって、ではその間、別の船の荷上げ・荷下ろしができるわけではない。上げるコンテナが岸壁に整列していなければ、そもそも上げることはできないのだから。逆もまたしかり。

というわけで、ハンブルグ港の全体最適をはかるためには、

  • コンテナ船の入港時刻にしっかりとタイミングを合わせ、その船に積み込むコンテナ(を載せているトラック)だけを港湾地区へ誘導し、それ以外のトラックは港湾地区の外で待たせる
  • もしコンテナ船が遅れる場合には、それをリアルタイムにトラックに伝えて到着のタイミングをずらし、かわりに先に入ってくるコンテナ船に積み込むコンテナ(を載せているトラック)を誘導する。

という状態を実現したいわけだ。

実はこれは、製造業でいうジャスト・イン・タイム(JIT)、ジャスト・イン・シーケンス(JIS)と同じ原理だ。自動車製造では車体がラインを流れてくるのに合わせて組み付ける部品が到着するように(そしてそれ以外の部品在庫は工場内に滞留しないように)JIT・JISをはかる。同じように、コンテナ船の入港に合わせて積み込むコンテナが到着する(そしてそれ以外のコンテナは港湾外で待たせる)という仕組みが必要とされているのである。

■ハンブルグ港湾局(HPA)が取り組むスマート・ポート・ロジスティクス

ハンブルグ港湾局(Hamburg Port Authority、HPA)は、ハンブルグ港全体の運営を取り仕切る公的機関である。2005年にハンブルグ市政府から分離・独立したが、現在も政府が全額を出資している。従業員はおよそ1800人。ハンブルグ港内の線路300km道路137km可動橋(跳ね上げ橋)8本も管理している。

ハンブルグ港湾局は上述のような課題に対応すべく、SAPおよびTシステムズ(ドイツテレコム子会社)と共同で、スマート・ポート・ロジスティクス(Smart Port Logistics)と名付けた施策に着手した。

港湾にかかわる約950もの民間企業(荷の積み降ろし、トラック、鉄道、海運、内航、駐車場など)をテレマティクスでつなぎ、リアルタイムに交通の流れを把握することで、上述のような課題を解決していこうという取組である。

具体的には以下のような施策を含む。

  • トラックの車載機やドライバーが持つスマートフォンの位置情報をもとに、ドイツテレコムの位置情報サービスを介してトラックの位置をリアルタイムに把握
  • 鉄道および船舶の運航管理システムから得られる情報、駐車場の空き状況も重ね合わせ、それぞれの状況を見える化
  • 船舶の入港時刻に合わせてトラックの進入順序をつけ、直近のトラック以外は市街地に入る手前の郊外にある駐車スペースで待たせる
  • (これに、8つある跳ね上げ橋のスケジューリングも加味する。跳ね上げないと船が通れないが、上げてしまうと20~30分間はクルマや鉄道が通れなくなるので)

こうすることでトラックは渋滞による遅刻の心配がなくなるため、HPAからのナビゲーションに従って順次ヤードに入ってきて、迅速に荷下ろしし、迅速に出ていけるようになる。

スマート・ポート・ロジスティクスの様子については、いくつかの動画で紹介されているのでご覧いただきたい。

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■T-Systems and Hamburg Port Authority: Building Smarter Port Logistics with SAP HANA Cloud Platform(2013/5)(3分52秒、英語:字幕作業中) Source

まるでマッチ箱かのように多数のコンテナが並んでいるが、実際にはひと箱が長さ12メートル、重さ数トンもある、大きな鉄の箱なのだ。しかもこれらは、グローバルな流通ネットワークに組み込まれていて、早々に「流れて」行ってもらわなくてはならない箱なのだ。

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■Reality Beats Guesswork(2014/11/13) (2分52秒、英語版、字幕作成中) Source

この画面にあるように、船が「あと5分で着くよ」と伝え、岸壁側は「荷下ろしの準備はOKだよ」と伝える。スマート・ポート・ロジスティクスでは、ひとつひとつのやりとりがこうして進む状態を目指している。

ビジョンは壮大であり、かつその効果は非常に大きそうだ。渋滞の本質は「自分自身が渋滞の一部になってしまう」ところにあるのだから、渋滞が起こらないようにしようと思えば、必要のないトラックが道路上に乗ってこないようにするしかない。したがってこの施策はきわめて本質的なものだ。

とはいえ、数百社からなる、一日33,000台ものトラックをリアルタイムにコントロールしようというのだから、実現までには多くの困難が出現しそうであることは想像に難くない。

しかしハンブルグ港にとっては、なにもしないという選択肢はない。2025年の2500万TEUは必達目標なのだから。

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The Port Road Management Center in Hamburg [ENG] (2014/7/4)(英語版、2分57秒) 交通マネジメントの様子。下記写真もこちらから。Source
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■汎用的な都市問題の解決に向けて

都市人口が39億人を超えたとされ、世界中で大きな社会問題となっている交通渋滞。この課題を「ハンブルグ港」に集散する「コンテナトラック」に着目して、具体的な解決を図ろうとするハンブルグ港湾局の取組は、実は幅広い示唆がある。

SAPではこのパイロットをベースとしたIoTアプリケーション「SAP Connected Logistics」を開発・出荷しているが、これに注目し興味を寄せているのは、ある化学品大手だという。製品の入出荷に数千台のトラックとタンクローリーをやりくりしており、リーンになる一方の顧客の要求に応えるためにサプライチェーンのリアルタイム把握を必要としている、という点では、化学業界も同じなのだ。運輸会社や鉄道会社はいうまでもない。

むろん、世界の流通大手企業ではテレマティクスデータのある程度の把握は進んでいる。「彼氏アプリ」が人の現在位置すら把握している昨今(笑)、トラックの位置の把握は難しくない。次の課題は、把握した情報をもとにして、渋滞の解消あるいは渋滞につかまらず、スムーズな(定時の)運行を実現するための制御(管理)であろう。

スマート・ポート・ロジスティクスは1年以上におよぶパイロットを終え、この2月から本番運用のフェーズ1に入っている。ハンブルグ港湾局の取組の成果に今後も注目していきたい。

 

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、ハンブルグ港湾局のレビューを受けたものではありません。


■追記: ハンブルグ港について

HPAは実にさまざまな条件を(しかもドイツ語だけでなく、英語をはじめとする各国語でも)発信している。そのサービス精神たるや、とても公的機関とは思えないほどで、これも厳しい国際競争にさらされているからこそなのであろう。要は「港としての魅力を高めようと必死」なのだ。

以下、そのいくつかを紹介する。(言語は基本的にすべて英語)

■Hamburg Port Authority
http://www.hamburg-port-authority.de/en/Seiten/Startseite.aspx
ハンブルグ港湾局の公式サイト。

 ●Facts and figures
 http://www.hamburg-port-authority.de/en/the-port-of-hamburg/facts-and-figures/Seiten/default.aspx
 数値で見るハンブルグ港。

■Smart Port TV - Hamburg Port Authority (YouTube) 英語版
https://www.youtube.com/playlist?list=PLOxAwds171bePtDRwUBv0-izcOidE2YSm
HPAの広報チャンネル「Smart Port TV」の英語版。さまざまなトピックがあり楽しい。

 ●The 2014 National IT Summit in Hamburg [ENG]
 https://www.youtube.com/watch?v=mWqZrNw_SN4
 ドイツITサミットにて、Smart Port Logisticsをメルケル首相に説明。
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■ハンブルグ港
http://www.hafen-hamburg.de/en
HPAではなくハンブルグ港そのもののサイト。9言語をカバー(ただし日本語は含まれず...)

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以下は、日本語のハンブルグ港関連情報。

■ハンブルグ港(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%AB%E3%82%AF%E6%B8%AF

■ハンブルグ港におけるコンテナ戦略(2013年度国際港湾経営研修~海外研修報告) http://www.kokusaikouwan.jp/zaidan/pdf/2013_2.pdf
神戸市みなと総局の方による"研修報告書"。非常にビジュアルでわかりやすいまとめ。

■コンテナ輸送における鉄道利用と情報化:ハンブルク港の事例 OCDI QUARTERLY 78 http://www.ocdi.or.jp/pdf/78_butsuryu04.pdf

■ハンブルグ市
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%AB%E3%82%AF

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