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日本企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を正しく進めるために必要なキーワードについて考えます。

年間1.4兆円の購買の7割をカバー、さらなる高みを目指すドイツ銀行

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ドイツ銀行 Deutsche Bank は、フランクフルトに本社を置く、ドイツ最大の銀行である。

Db ドイツ銀行のホームページ(日本語版)

創業は1870年、従業員は98,250人。世界70ヵ国以上2,900支店を構える、世界最大級の金融機関のひとつである。

たとえば世界の金融機関を「総資産」でランキングすると、ドイツ銀行は2011年末には2兆8027億ドル(約280兆円)で世界トップであった。

ただし総資産ランキングでも、 2012年末は2兆6654億ドル(約266兆円)で3位2103年末は2兆2253億ドル(約223兆円)で10位

一方「時価総額」ランキングでも、 2011年度は360億ドル(約3.6兆円)で32位2012年度は392億ドル(約3.9兆円)で33位2013年度は458億ドル(約4.6兆円)で36位 と、どちらかというと後退気味である。

当記事のような、購買改革による本質的なコスト削減に注力している背景にはこうした事情もあるのかもしれない。

ドイツ銀行は2004年からアリバの購買ソリューションのユーザーであり、さまざまな施策を実施してきたが、さらに2013年からは第三段階として包括的なコストマネジメントSource to Pay の取り組みを開始している。

■Source to Pay (S2P) とは

ベンダー発掘・管理、契約、発注、請求、支払に至る、一連の購買活動全体を通じてシステム化・自動化し、購買プロセス全体を高度化・効率化するという取り組み。

その過程では購買金額の7割を占めるというサービス購買の取り込み、過度に複雑化していた発注プロセスを取り払ってシンプルにするNo Budget No Pay原則の徹底、などさまざまな施策を実施している。

Ariba Live 2014における、マーク・ローリング氏(ドイツ銀行購買部ディレクター、Source to Payオペレーション責任者)の講演からご紹介する。

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http://www.youtube.com/watch?v=y3-eVOV1QcU

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■巨大かつ複雑なグローバルバンク

これが「数字で見るドイツ銀行」です。

01

  • 営業地域:74ヵ国
  • 支店数:3,000
  • 従業員:10万人
  • 顧客数:3,000万人
  • 収益:300億ユーロ(約4.2兆円) -----
  • 購買額:年100億ユーロ(約1.4兆円)
  • 登録ベンダー:5万社
  • 購買トランザクション:年100万件

これだけでも規模の大きさと複雑さを感じていただけると思いますが、これに、過去に行ってきた大型M&Aが拍車をかけています。ドイツのポスト・バンク、アメリカのバンカーズ・トラスト、オランダのABNアムロ、イギリスのモルガン・グレンフェルなどです。

それぞれが幅広い業容を持っており、その業務モデル、社風、ポリシー、プロセスなども異なっています

こうした多様性のある組織において、グローバルに統一されたSource to Payプロセスを適用しよう、ということ自体が大きなチャレンジなのです。

■購買改革の歩み

どの多国籍企業でもそうだと思いますが、当社も、国ごとにバラバラな、レガシーなAP(Account Payable:買掛債権管理)システムからスタートしました。

02 2004年に最初の大きな一歩として、購買を含めたシェアードサービスをあるパートナーにBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)しました。3つのオフショア・センターに処理を集約したことで効率が飛躍的に改善し、またコストと人的リソースを節減でき、それが次に取り組んだ、戦略的ソーシングのための原資になりました。

ただしこの第一段階では、さきほど申し上げたような(旧)各行のプロセスに合わせて業務を設計しており、無理にプロセスを標準化させようとはしなかったため、結果として複雑で重たいシステムになってしまいました。

2008年からの第二段階では、BPOの基盤をより強化・シンプル化するため、アリバのオンプレミス・ソリューションを選択し、プラットフォームをすっかり再構築しました

また購買分野に関するアプローチをがらりと変え、社員を巻き込みながら進めることで、社員が改革を押しつけられるのでなく改革の一部になるようにしました。このアプローチは大きな成功を収め、それまで発注書・請求書のシステム把握率が10%以下だったものが、70%近くにまで達しました。この割合は金融業界はもちろん、全業種を通じても高いほうではないかと思います。

今振り返ってみても、この第二段階が、われわれの現在の姿の基礎を作ったと言えます。なぜならソーシングにしてもAPにしても、われわれ購買部門が事業部門へのコミットを守れるということを証明できたからです。

標準化された購買プロセスを主要10か国に展開し、自動処理や期限どおりの支払など事業部門と約束したすべてのSLAを達成したことで、彼らからの信頼を獲得し、戦略的に重要な次のステップに進むための信認を得ることができました。

そして2013年からの第三段階では、初めてクラウド・プラットフォームの利用を始めました。eソーシングなどです。それは同時に、オンプレミスとクラウドをどうハイブリッドにするか、という話でもありました。オンプレミスの購買ソリューションと、クラウドによって新たに提供されるP2Pなどの機能をどう組み合わせてベストな結果を出すか?

結果として、この第三段階は大きな成功をおさめつつあります機能強化もそうですし、クラウドに関してはデリバリーのスピードも大きなポイントです。

現在も、いくつもの大きなプロジェクトが進行中です。とくにアリバのサービス購買については、後で詳しく述べますが、非常に重要なコンポーネントです。なぜなら、われわれが目指している購買システムの中核となるものだからです。

契約管理も行っています。ドイツ銀行グループ全体が取引のあるベンダーとの契約情報を一元的に集約し、メタデータレベルで分析できるようにして、コスト競争力を強化します。

最初のSource to Pay機能は、イタリアの拠点で稼働させました。ここでの様子を見て、これをさらにスケーラブルに他の拠点に広げていくにはどうしたらいいか、を考えていきます。

私が入社するすっと前から、ドイツ銀行にはしっかりとした購買組織があり、カテゴリ管理者が大勢いて、数億円単位の大型のサービス契約なども扱っていました。一方で伝統的なAP(買掛債権処理)組織もありました。この両者をいかにして円滑に連携させ、"協調的な購買機能"に仕上げていくか、という組織論の側面もおもしろいチャレンジでした。

つまりモノやサービスを必要とする事業部門のニーズ、彼らが購買先や戦略的パートナーとどのように付き合っていきたいのか、を理解し、それがやりやすくなると同時に、一定のレベルの統制とコンプライアンスを適用できるようにする、この両立が求められたのです。 

■経営レベルの戦略的優先事項と結びつける

さて、われわれの現在の姿は?

03 「ベンダー発掘から支払いまで(Source to Pay)」の購買活動改革は、実は経営レベルでの戦略的優先事項の多くと関わりがあります。また購買部門としては、ユーザー部門にあらたな購買ルールを導入していくためには、それらが企業戦略と密接に結び付いたものであると示すことが重要です。

たとえばここ12-18か月、ドイツ銀行は大きな変革の時期にあります。企業文化や価値基準、たとえば一貫性、サステナビリティ、お客様中心、規律、パートナーシップ、といったものをより重視するようにシフトしていますが、S2Pはこれらとも関係があります。

たとえばコストに関する規律を徹底しようと思えば、われわれ購買組織は、支出に関する適切なレベルのコントロール・ガバナンスが行われていることを目に見えるカタチで社内に示し、また模範的な行動の例を示すことによって、コスト規律を広めていくことができます。

またわれわれは世界中のすべてのマーケットで活動しており、それらすべての規制当局が要求してくる、恐ろしく複雑な規制のすべてに従わなくてはなりません。実はこれが「ベンダー発掘から基本契約まで」(Source to Contract)部分と「発注から支払いまで」(Procure to Pay)部分をひとつのシステムとして統合することの、主要なドライバーにもなっているのです。

つまりできる限りすべての「発注」をベンダーとの「基本契約」に基づいたものにしていくこと、そしてそれをシステムで管理し一元的にチェックできるようにしておくことで、規制への対応が容易になるのです。

とくにサービス購買のベンダーリスク管理については注意を払っていますが、発注や請求の1本1本がどの基本契約と結びついているか、を見ることができれば、リスク管理や透明性は大幅に向上します。

といっても、世界の70以上のマーケットで活動しているグローバルな金融機関にとっては、そのすべての購買をシステム管理するというのは容易な話ではありませんが。

またオペレーショナル・エクセレンスの面でいうと、ドイツ銀行は現在45億ユーロ(6300億円)規模のコスト削減に取り組んでいます。コスト削減の話となると購買部門はスポットライトを浴びますが(笑)、われわれがキーワードとして掲げているのは「サステイナブル」つまり永続的なコスト削減です。

購買した部門や費目をきちんと管理することで、個々の削減がP/Lのどこにインパクトを与えているのか?を計測することができ、そうすれば翌年はその部分の予算そのものを削って、コスト削減を恒久的なものにできます

またどの活動や支出が実のところどの部門に属しているのか?が明確になるため、コスト効率が甚だしく悪い部門はないか?複数部門が重複した支出をしていないか?などをチェックでき、一層の標準化を進めることができます。 

■「実コスト管理」のための組織再編

購買組織を再編するにあたっては、われわれのそもそもの使命である、「実コスト管理」を実現するにはどうしたよいか?から考えました。予算プロセスを通じて各部門に"割り当てた"コストの削減ではなく、実際のキャッシュアウトを削減するにはどうしたらよいか?

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この目的に沿って、購買組織は5つの部門に分けられています。左から、

①フィナンシャル・プランニング。つまり支出計画や予測、ルール作りなど。

②従来からある購買。カテゴリ管理、契約管理、ベンダー管理。

③「Source to Pay」、つまりベンダー発掘から支払いに至るまでのプロセス全体にガバナンスを効かせる部門。

④レポーティング。各部門がそれぞれに(バラバラの)数値を振りかざす替わりに、1つの部署が正確な数値を提供する。

⑤ビジネス部門とのパートナーシップ。社内外のステークホルダーとの関係を保ち、コスト削減の実績を見える化し、また要望を吸い上げる。

です。この5部門が連携しつつ、⑤から①に戻ってまたサイクルを回す、という形にすることで、継続的・恒久的なキャッシュアウトの削減を効率的に行っていきます。 

■「正しいプロセスは簡単に、悪いプロセスは難しく」

冒頭申し上げたように、現在は請求額ベースでざっと7割くらいをカバーしており、金融機関としてはよいほうだと思っていますが、ドイツ銀行全体での「実支出」は100億ユーロほどあるので、あと残り20~30億ユーロもカバーしなくてはいけません。

また「発注書がある」イコール「発注ポリシー上OKである」というわけではありません。実際、すべての購買はその費用を支払う「部門」および「カテゴリ」に紐づけ、それぞれでチェックをかけるようにしたところ、適合率は40%-45%に落ちてしまいました。まだまだやれることがある、ということです。

われわれのCFOの信条は、「自分のカネのようにトレースしろ」です。自分のお金なら、物を買う前にカネが残っているかを確認しますよね。つまり「使うまえに予算を確保しろ」、「予算がないなら発注書は出せない、発注書がないなら支払もできない(No budget No PO, No PO No Pay」というシンプルな原則を徹底する、ということです。

このやり方を始めたころのカバー率は40~45%でしたが、現在は75%くらいまで来ています。そして今年末までに95%を達成する、というのが現在のストレッチ・ゴールです。

05 これを進める上でカギを握るのが、事業部門との連携です。というのは、われわれの「購買」のざっと7割は、複雑な「サービス」です。ITサービスビジネスコンサルティングだけでなく、アドバイザリー、ファンドマネジメント、コミッション、保険、など、旧来の「発注」のイメージとは合わないものが大量にあります。従って事業部門とよく話をして、こうした購買がどういう性質のものなのか?をよく理解することが重要なのです。

幸いアリバの「サービス購買」テンプレートはこうした複雑なサービスにも適用できるので、その機能を利用しています。

もうひとつのカギは、「正しいプロセスをもっと簡単に、悪いプロセスはもっと難しく」です。購買プロセスのコンプライアンスを強化しようとすると、結果として購買申請に承認をする人が大幅に増えてしまい、正しいプロセスを通すこと自体がものすごく面倒になったりします。そうなると、それならいっそ、この購買申請承認を全部すっ飛ばしてしまい、請求書が来たら支払だけしてしまえ、という悪いプロセスを助長することになってしまう。

ここでも、アリバのテンプレート機能を使い、正しいプロセスについては徹底的にシンプルに、容易になるようにしました。

たとえば、IT部門は独自ツールを作ってしまうことで悪名高いですが(笑)、独自に13段階もある「事前承認」ワークフローを作り、それを通さないと購買申請すらできないという形になっていました。しかしこの事前承認は、実はダブっていたり、承認者が正しく意思決定するのに必要な情報がなかったりしていたので、これは全部やめさせて正規のプロセスに取り込み、4~5段階で済むように変え、最小限の正しい承認者が正しい情報に基づいて正しく承認するようにしました。 

■今後の発展

さて、次は?06 事業部門からの要求、また規制当局からの要求はますます厳しく複雑さを増していくでしょう。そうした中、われわれが現在持っている、アリバのオンプレミスとクラウドのハイブリッド・プラットフォームに関する戦略を見極めていかねばなりません。

イタリアへの導入はわずか5か月で完了しています。もちろん非常にタイトなプロジェクトではありましたが、5か月という早さは大きな成果であり、これを今後どのように生かしていけるか、検討します。

サプライヤー・マスター管理は、ささいな話に聞こえるかもしれませんが、契約段階から支払いに至るまで、しかも複数国に跨る複雑な契約を適正に処理するには、実は重要な機能なのです。

そしてやはり、複雑なサービス購買への対応です。コンサルティング、アドバイザリー、契約社員、成功報酬コミッション、支払処理ごとのコスト割り当て、などをさらに対応していきます。

こうしたコスト管理とコンプライアンスをさらに推進していくため、アリバとのパートナーシップも今後ますます重要になっていくと考えています。

ありがとうございました。

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この事例でまず目を引くのは、購買規模の大きさである。年間100億ユーロ、約1.4兆円というのは、(製造業ではなく直接材の仕入れがない)金融機関としては驚くほど大きいと言わざるをえない。(従業員10万人として単純に割り算すると、1人あたり10万ユーロ、つまりテラー窓口のお姉さんまで含めて全員が年1,400万円ほど買っていることになる。)

いったい何をそんなに買っているのだろう?と思ったが、そのほぼ7割が「サービス購買」であると聞くと、まあ多少は理解できる。サービス購買には派遣社員の人件費も含まれるので、要は正社員でないスタッフへの給料やボーナス、コミッションなどがすべてここに含まれる。しかもその多くが、コンサルタントや弁護士、ファンドマネージャーなど、超高給で知られる特殊な人々への支払となれば...(それにしても、年1.4兆円とはすごい額だが。)

一方で、ドイツ銀行の取組みには圧倒される。規模(ワールドワイド10万人)、多様性(合併した相手がそれぞれにメガ級の金融機関だ)、歴史(10年以上かけて地道な取り組み)、どれを取ってもなかなか例をみない。それだけ着実にコスト管理の努力をしてきているということだ。

日本企業にとっても、金融機関に限らず、参考になる取組みである。

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、ドイツ銀行のレビューを受けたものではありません。

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