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日本企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を正しく進めるために必要なキーワードについて考えます。

走るトラックの「すべて」を24時間見える化、ビッグデータで運輸コストを抑制するARI

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※2013年6月追記: 下記の動画がリリースされました。ARIのビジネスに対するHANAの貢献がより分かりやすく説明されています。英語オンリーですがご参考まで。

■ARI: Driving Forward with SAP (3:20)
http://www.youtube.com/watch?v=xtFTaLWv8Is

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ARI(Automotive Resources International)は、おもに北米で事業を展開する、フリートマネジメント(車両管理)最大手企業のひとつである。

そのARIのCIOであるスティーブ・ヘンドル Steve Haindl 氏が、コンステレーションリサーチの2012年スーパーノヴァ(超新星)賞(Data to Decision部門)を受賞した。

■2012 SuperNova Award (Data to Decision) Winner (英語) Steve Haindle
 Steve Haindl, SVP&CIO, ARI
 http://www.constellationrg.com/steve-haindl-ari

トラック野郎(笑)を束ねる、どちらかというとガテン系なイメージのフリートマネジメント会社が、HANAを使って何を実現したのか?見ていこう。

Ari
ARIのWebサイト。「3600倍速いってどんな感じ?」と。

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フリートマネジメントとは、企業が使う業務用車両(大型のトレーラートラックから清掃車や工事用の特殊車両、フォークリフトまで)を、実際のユーザー企業に代わって維持管理するビジネスだ。

日本でもカーリース最大手のオリックス自動車などが手掛けている(ちなみにARIはオリックス自動車とも提携している)。

オリックス自動車のWebサイトを見ると、フリートマネジメント業務の広さ・包括さが伺い知れる。
http://www.orix.co.jp/auto/hojin/jigyou/autolease/fleet/index.htm

車両管理、メンテナンス、緊急対応、燃料管理、環境レポート・自治体への報告、保険代理店、リスクマネジメント、など。

たしかに、車両を使うビジネスを営んでいる企業であれば考慮しなければならない(しかし明らかにコアではない)業務ばかりである。専門業者にアウトソーシングするニーズが高いことは容易に想像できる。

ARIは1948年の創業で、年間売上は26億ドル(約2,100億円)、総資産は45億ドル(約3,600億円)、従業員はおよそ2,800人。自社資産車両として約92万台を管理している。フリートマネジメント業界で唯一、2008年のリーマンショック後も業績を伸ばしている優良企業である。

ちなみに、あっさりと「92万台」と書いたが、これは大変な数である。
国土交通省の2011年3月末の統計(
http://www.mlit.go.jp/common/000225846.pdf)によれば、日本国内で「貨物自動車」として陸運局に届けられている車両数の合計は130万台余。ARIは1社で、国内のトラックの7割に相当する台数を管理していることになる。

一方、国土の広いアメリカでは、ある統計によれば1,500万台ものトラックが運用されているそうだが、それでもARIはその6%ほどを占めていることになる。

ARIは顧客企業向けのポータルサイト「ARI Insight」を提供しており、顧客企業は自社のトラックに関するさまざまな手続きや管理を一元的に行うことができる。これに加えて、2012年からは「ARI Analytics」を開始した。自社が運用しているトラック輸送のありとあらゆる側面をデータ化し見える化してくれるサイトだ。

しかし、トラックをどうやって見える化するのか?もちろん、センサーである。ARIが管理するトラックは、GPSと多数のセンサーを積み、それをリアルタイムに送信してくる、いわゆるテレマティクスとよばれる技術を搭載している。その意味ではハイテクマシンなのである。

なぜそんなことをするのかといえば、それはただ一つ、運用効率を改善して、コストを下げるためである。

テレマティクスについては、オリックス自動車のサイトが、イメージを掴みやすい。
http://www.orix.co.jp/auto/hojin/jigyou/autolease/option/telema/screen.htm
この画像のメニューにあるように、燃費管理、安全運行(危険挙動情報)、車両走行情報(走行距離、運転日報)、などが可視化され、管理できる。

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ARIによれば、1台のトラックには、14,000ものデータポイントがあるという。ざっと頭の中だけで考えてみても、まあそれはそうだろう。

たとえば、あるトラックのある1日だけを取り出してみたとしても、まずは走行記録が発生する。何時に動き始め、何トンの荷物を積んで、どのルートを通り、どんなスピードで走り、何度ブレーキを踏み、アクセルをふかし、どこで給油して、どこで休憩し、どこで荷を降ろし、また積み、、、。

1日あたり少なくとも数十のデータポイントが発生するだろう。これが年365日分だけで、1万は軽く超えそうだ。

これに加えて、車両(整備)記録がある。前回タイヤを交換したのはいつか、オイルは、整備は、車検は?などなど。

これらのデータが92万台分集まるとなると、もちろんこれはいわゆるビッグデータになるが、同時にこれだけの情報を分析できると、さまざまな示唆が発見できることも想像がつく。

まずは、どのような走り方をさせれば、燃費が改善できるのか?はトラック輸送業界における最大の関心事だ。

加えて事故の防止の観点も大きなポイント(事故は多大なコストに直結する)。事故が起きるのはどんな走行パターンのときか?事故が起きやすい場所、ルート、時間帯は?事故を起こさないために適切な休憩や運行のパターンは?適切な点検・交換の頻度は?

トラック単体の車両管理では見えなかったことが、92万台を包括的に扱うことで見えてくるのである。

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ARI Analyticsの構築にあたり、ARIでは、SAP HANA、Oracle Exadata、IBM Netezzaという3つの製品を用いて実機検証を行ったが、結果はインメモリであるHANAの圧勝。

たとえば、「1年分の運行状況レポート」というクエリを投げると、ディスクベースのシステムでは24時間待っても処理が終わらずタイムアウトしていたが、HANAではわずか3秒弱で完了。

また別のテストでは、過去15年分の請求および整備データ1TB弱を対象としたところ、既存のオラクル環境ではタイムアウトしてしまい結果が返ってこなかったが、HANAでは1秒弱で返ってきたという。

さらにHANAの導入はわずか3週間で終了した。


YouTube: ARI (Automotive Resources International): Customer Testimonial Video

ARIのシニアバイスプレジデント、ボブ・ホワイト氏(上記YouTube)によれば、こうした情報が得られるようになった結果、運行コストは少なくとも5%削減できる見込みであるという。運行コストは会社全体の支出の約5割を占めているため、全体で2.5%のコスト削減が見込める。

売上2100億円の企業において、2.5%のコスト削減となると... 40~50億円の利益改善というところか。IT投資のROIとしては相当なものだ。

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ARIの企業Webサイトを見ると、一瞬、ここはIT企業か?と思ってしまうような、ハイテク風だ。

Arivideocenterたとえば、このVideo Centerというページ。きっと、トラックの運ちゃんたちが肩を組んで笑っているとか(笑)、そういう映像が流れるのかと思いきや...

6本のビデオのうち4本は、いかにしてITつまりビッグデータを活用して、運用コストを下げることができるか、という話に終始している。

Technology Lab(右上)

ARI Data Integration Stategy(左中)

ARI Analytics(右中)

ARI Insight(左下)

ARIの実際のサービスは、早い話が「トラック全般」であり、その実体は排気ガスと振動と騒音の中にあると考えておよそ間違いではなかろう。

しかし彼らの差別化要因は、もはやトラックそのものではなく、ITを通じて、トラックの状態を24時間見える化し、次にそこから取得されたデータを使って運用を効率化することにあるのである。

その意味では、ARIは今や「IT企業」なのである、と言ってよいのかもしれない。

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日本のコマツが、建機にセンサーとGPSと通信機能を組み合わせた「コムトラックス」を積み込み、建機の運用状況の監視管理とタイムリーなメンテナンスで大きな成果を挙げているのはよく知られている。

コムトラックスはさらに、GPSとリモートロック機能によって盗まれた建機の発見を容易にした(ことでさらに評判を高めた)のみならず、多数のコムトラックス搭載建機の稼働状況を見ることによって、その国や地域の建設業の景気動向を察知することまでできるようになった、と言われている。

ARIのサービスは、本質的にはコムトラックスのトラック版そのものだ。ARI Analyticsを使えば、たとえば荷動きが以前より活発になっている州はどこか?といった景気動向も「見えてくる」だろう。

センサーから得られるビッグデータで成果を出す、というHANAの利用パターンは、まだまだ他にも応用ができそうだ。

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※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、ARI社のレビューを受けたものではありません。

【参考情報】

■ARI: Driving Forward with SAP (3:20)
http://www.youtube.com/watch?v=xtFTaLWv8Is

 

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