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長期視点の経営とバックキャスト型中期経営

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経済のグローバル化とテクノロジーの進化に伴い、企業経営はこれまで以上に複雑かつ予測困難な状況に直面しています。このような時代において、長期視点での経営戦略の構築は、企業の持続的な成長と競争優位の獲得に不可欠です。

経済産業省は2024年1月17日、「第19回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会」を開催しました。

この中から、長期視点の経営とバックキャスト型中期経営計画の重要性についてとりあげたいと思います。

長期視点の経営の必要性
長期視点の経営とは、短期的な利益追求だけでなく、10年単位の時間軸で持続可能な成長を目指す戦略のことです。こうしたアプローチは、新たな事業の創出や技術投資、社会的責任の遂行など、企業の中長期的な目標を実現するために重要です。特に、低迷する将来期待を打開するためには、このような長期視点が求められます。

日本企業における経営者の任期問題
日本企業においては、CEOの在任期間が比較的短いという課題があります。統計によると、日本企業のCEOの平均在任期間は4~6年程度であり、米国企業のそれと比べると短い傾向にあります。この短期的な任期は、長期的な視点での戦略的な経営判断を困難にしている可能性があります。

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出典:経済産業省 第19回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 2024.1.17

長期視点の経営を実現するために

経営者の任期の見直し:
長期的な経営計画を策定し実行するためには、経営者の任期を延長することが有効です。これにより、長期的な視野に立った戦略の策定とその実行が可能になります。

後継者計画の強化:
経営の継続性を確保するために、CEOの人材要件の明示や、育成方針・育成計画の策定が重要です。これにより、よりスムーズな経営者交代が可能となり、長期戦略の継続が実現します。

経営者の就任年齢の若返り:
新しい視点や革新的なアイディアを経営に取り入れるためには、若い世代の経営者の育成が重要です。

中期経営計画とバックキャスト型計画の重要性
日本では多くの企業が3年や5年単位の中期経営計画を策定しています。これらの計画は、企業の中長期の目標や計画を定め、投資家との対話や内部管理に活用されています。しかし、米国などでは中期経営計画を公表しない企業が多いと言われています。

長期視点の経営を実践する上で、中期経営計画は重要な役割を果たします。特に、バックキャスト型の中期経営計画は、長期ビジョンから逆算して具体的な戦略を策定する方法であり、オムロンや味の素の事例がその成功を示しています。

オムロンでは、長期ビジョンShaping The Future 2030 を掲げ、事業を通じて社会価値と経済価値の創出に取り組むことで企業価値の最大化を目指すとしています。長期ビジョンからバックキャストして中期経営計画を策定。中期経営計画(2022~2024年度)を長期ビジョンの1st Stageと位置づけています。

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バックキャスト型中期経営計画の事例(オムロン)
出典:経済産業省 第19回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 2024.1.17

また、味の素は、これまでの精緻に数字を積み上げる中期経営計画策定を見直し、2030年の長期のありたい姿を定め、経営のリーダーシップで挑戦的な「ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)指標」を掲げ、バックキャストする経営へ進化させることを目指しています。

マイルストーンとして2025年度の「ASV指標」の挑戦的目標値を策定・公表しています。

「ASV指標」は、財務パフォーマンスを示す経済価値指標と、提供・共創したい価値に基づく社会価値指標から構成されています。

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バックキャスト型経営に向けた中計の見直しの事例(味の素)
出典:経済産業省 第19回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 2024.1.17

バックキャスト型計画では、長期ビジョンを設定し、そこから逆算して中期目標を設定します。これにより、現実的かつ戦略的な中期計画の策定が可能となり、長期ビジョンの実現に向けた効果的なステップを踏むことができます。

結論
長期視点の経営は、不確実な時代を生き抜く企業にとって不可欠です。経営者の任期の延長、後継者計画の強化、そして革新的なバックキャスト型の中期経営計画の採用が、この目的を達成する鍵です。日本企業がこれらの戦略を積極的に取り入れることで、持続可能な成長と競争力の強化が期待できます。

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