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どうしたらネットで力づけられたり、助けられたりするのでしょう?コミュニケーションを観察します。

No.1 匿名性に対するイメージ

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「弁護士の小倉秀夫氏に聞く ネットでの誹謗中傷問題(中)実名を使うのが基本 それがネットをよくしていく」(J-CASTニュース)についての2ちゃんねらーの反応(痛いニュース)を読んでいると、むしろ実名=危険という見方や、名前をウリにする人とそうでない人の違いという見方が読み取れました。また、「誰が匿名なのか」について、驚くほど鋭い指摘もありました。こうした指摘も、匿名だから出てくるともいえますし、せっかくの発言なのだからせめてハンドルでも使ってくれれば、その人をこれからも注目できるのにとも思えてきます。

さて、前回に続いて、匿名性の話を続けます。

◆誰から見た匿名性か?
インターネット上の匿名性について書く前に、「誰からの視点」による匿名性なのかを明らかにしておきたいと思います。

ひとつ例をあげます。
飛行機に乗るときのことを思い浮かべて下さい。パスポートや身分証などで、乗客の身元は確認されます。次に、搭乗券によってどの座席に誰がいるか、航空会社は把握しています。この時点で、航空会社からの視点では、乗客は匿名ではありません。では、乗客同士の視点ではどうでしょうか。隣の人とパスポートを見せ合いませんし、搭乗券すらほとんど見せないでしょう(たまに、席の間違いがあった際には見せますが、名前というよりは座席番号を確認しますね)。つまり、乗客同士はお互いに匿名なわけです。自分が誰なのかを名乗らないまま、「これから帰省するんですよ」「○○ならこれが美味しいですよねえ」と会話が弾み、最後に「よい旅を」と別れる‥時には、初対面の気軽さで家族について詳しく話してくれる人もいるでしょう。

この状況を、インターネットに当てはめてみましょう。
たとえば、私が 「ニックネーム」でYahoo!ブログを書いているとします。ユーザの視点からは、ニックネームしかわかりません。ですが、Yahoo!ブログというサービスでは毎回記事を投稿する「私」はYahoo!IDと結び付けられます。さらに、Yahoo!IDでは、登録したメールアドレスによって、私の連絡先が確認されています。プレミアム会員なら、支払い情報、すなわち責任の取れる実名、クレジットカード情報も確認されています。
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このように、視点をどこにおくかで、匿名性の議論は全く変わってきます。言い方を変えれば、違う視点同士で匿名性の是非を論じても、すれ違いは大きくなるばかりでしょう。

このブログでは、ユーザ同士から見た匿名性という視点で、匿名性について考えていきたいと思います。

◆匿名性に対する悪いイメージ「無責任」
匿名性は犯罪の温床になるということ。これが匿名性がはらんでいる最大の問題ではないでしょうか。警察庁のデータ によれば実際、「サイバー犯罪」の検挙率は3,161件(2005)から4.425件(2006)に増加し、しかもその約80%は詐欺や悪徳商法、誹謗中傷が占めています。

2006年9月に発表された「総務省ユビキタスネット社会の制度問題検討会: ユビキタスネット社会の制度問題検討会報告書-活力と創造性を生かし、「安心」を提供する枠組みづくりを目指して-.」,2006では、情報発信者の匿名性によって有害な情報の摘発がうまくいかないという理由から、「匿名性の種類を見極めた上で」の、「慎重な対応」を求めています。

匿名によるいじめも深刻化しています。被害者は実名、加害者はフリーメールを使って匿名で相手を叩くという、非対称な形のいじめが増加しているといいます。相手は自分を特定している、でも自分からは相手は見えないということは、どれほどの恐怖になることか。Wikipediaにも「ネットいじめ」という項がありました。

内閣府も匿名性とインターネット関連の消費者トラブルというコーナーを設けて、匿名性の問題を指摘しています。

ここまで深刻でなくとも、匿名の情報は信じられない、と漠然と考えておられる方もいらっしゃるかもしれません。

◆匿名性に対するよいイメージ「個人情報を守る」
一方で、いまやほとんどのインターネットユーザは実名以外の名前で情報を発信しています。
最大の理由は、個人情報を守るということでしょう。実際には、実生活での個人情報を最小限にとどめつつも、友人たちには分かる程度のニックネームでブログを開設したり、掲示板に投稿したりする方が多いことと思います。実際、2004年3月に「はてなダイアリー」に対して実施された調査では、実名でブログを開設している割合は12.17%という結果も出ています(*参考1)。

読売新聞社の提供する大手掲示板、発言小町を見ていると、何度もみかけるハンドル(ニックネーム)もあり、一方で「今回は匿名」という名前でシビアな体験談を書き込んでいるのも見かけます。スラッシュドット・ジャパンでも、「‥なのでAC (注:Anonymous Coward (臆病な匿名))」という投稿でぽろりと本音の書き込みが見られることもありますし、逆に2ちゃんねるで固定ハンドルを名乗って込み入った相談をしているというケースもあります。器用に使い分けている人もいますが、中には使い分けに失敗し、個人が特定されるという問題に発展することも‥これについては次回。


◆参考資料
*参考1

ウェブログの心理学
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・警察庁: 平成18年のサイバー犯罪の検挙及び相談状況について. 平成19年2月22日,2007
・総務省ユビキタスネット社会の制度問題検討会: ユビキタスネット社会の制度問題検討会報告書-活力と創造性を生かし、「安心」を提供する枠組みづくりを目指して-. ,2006
・内閣府 消費者の窓:匿名性とインターネット関連の消費者トラブル
・あなたの名前は検索されています――6割以上が身近な人を Web 検索 (japan.internet.com)
http://japan.internet.com/research/20061212/1.html
・Web 上で個人情報を公開しすぎていませんか?(japan.internet.com)
http://japan.internet.com/research/20061017/1.html

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