「事業を立ち上げる」とは?
下請け的な仕事とは違い、独自の製品やサービスの開発では、「自社が製品に対して責任を持たなければならない」という点が大きくのしかかります。もちろん、下請けでも瑕疵責任などは問われますが、基本的には指示通りに仕事をするので、より大きな責任を持つのは依頼する側という感じでしょう。
製品開発販売を事業として行う際に難しいのは、製品として世に問うようなテーマが見つかるか、という根本的なところもありますが、むしろその先の気がしています。
製品開発販売事業では、完成させて、販売しなければ利益が生まれません。下請けなら言われる通りに進め、余程ひどい仕事のしかたをしていなければ、期日が来れば収入の目処が立ちます。製品開発販売には、「完成できるのか?」「完成したものは売れるのか?」「販売した後にサポートできるか?」と、様々なリスクがあります。
中小企業では多くの企業で人材不足が深刻で、そもそも日銭を稼ぐだけでも精一杯、製品開発事業などのような投資が必要なものには手が出せない、という企業も多いことでしょう。それでも、競争に勝つためには他社との差別化を考えていかねばならず、下請け仕事だけではなかなか厳しいもの事実です。そこで、「自社製品」なり、「独自サービス」を持ちたくなるわけです。ところが、まず「誰がやるのか?」というより「誰ができるのか?」という課題に直面します。
「私ならできる」「私がやりたい」「私にやらせて」という社員がいれば幸せなのですが、本当に幸せだったかどうかは、事業が成功してからでないとわかりません。「できる」「やりたい」と言ったからといって、本当にできるかどうかはわかりませんし、途中で当人が抜けてしまう可能性もあります。うまくいかなくても、個人を責めることはもちろんできません。結局、その方向で行こうと判断した会社が何とかするしかない状態になります。一番辛いのは、「できたと思って売れてしまってから、問題だらけでサポートが対応しきれない」状態でしょう。それに比べれば完成(?)しない方がまだマシとも言えます。
これらのリスクがあるために、多くの中小企業では、自社製品の開発は「トップがやるしかない」という状態になってしまっている気がします。トップは全てを失う覚悟がなければ途中で逃げるわけにもいきません。トップ自身が全てやるかどうかということではなく、トップの管理下で進める以外は怖くてできない、というのが実情でしょう。実際にそれが一番うまくいくことが多い気もします。
しかし、トップ以外は自社製品やサービスを生み出せない、というのは、やる気の面でも、事業の幅の面でももったいない話しです。やる気も能力もある人はトップ以外でもたくさんいます。将来のトップを育てるためにも、事業を立ち上げる経験は大切です。私は自分がそうであったように、自分がやりたい仕事で成功したいという思いを大事にしたいとずっと考えてきました。しかし、そのやり方で痛い目にあったものもかなりあります。メンバーに任せるということは本当に難しいことなのです。
メンバーとしては首を突っ込まれたくないものです。自分たちの力でやり遂げたいのです。その気持ちはよくわかりますし、それがモチベーションになるものです。しかし、経営側としては心配でたまらない状態になることがほとんどです。新しいことを立ち上げるのはそれほど簡単ではありませんから、予定通りにはなかなかいかないものです。そこでヤキモキして、首を突っ込めば、メンバーのやる気が削がれ、放置しておくとうまくいかない可能性も高まる・・・実に悩ましいものです。私は自分がとにかく首を突っ込まれたくないタイプですので、基本的に放置します。それでうまく結果につながればなんの問題もないのですが。。
任せた側として一番辛いのは、「やっぱり駄目です。どうしましょう?」となったときでしょう。任せていたので、どうしましょうと言われても、どうしようもないのです。こんなことなら任せるべきではなかった・・・と考えない人はいないでしょう。まあ、それでも何とかするしかないので、相談しながら考えるしかないのですが。。
「トップ以外のチャレンジは駄目だ」と書きたいのではありません。そうではなく、「やると言うからには、こういう事態にならないように取り組んで欲しい」ということです。そして、こうやって、「チャレンジしたことがきちんと結果に結びつく」ということを繰り返すことこそが、自らトップ、あるいはトップに準ずる立場になるための、唯一の道でもあるのです。事業の舵を取るというのはそういうことです。個人的な趣味やプライドでやるようなものではありません。事業は多くの関係者を巻き込んで進めることですから、きちんと結果に結びつけることを繰り返せる人でなければ誰もついていきません。
事業の舵取りをすることが皆の人生のゴールではありません。人それぞれ、やりたいことは違います。様々な人が力を合わせて大きなことができるのですから、皆がトップではうまくいきませんし、トップになりたい人ばかりでもありませんし、トップに向いていない人もいます。何となく「事業を立ち上げると格好良さそうだ」とか「トップになればおいしい思いができるだろう」という程度の考えで事業を立ち上げるのはやめた方が良い、ということですね。やってみなければ分からないという面もあるとは思いますが、まず一つ簡単に判断できるのが、「周りの人が自分を慕ってくれるか、応援してくれるか」というあたりかもしれません。仕事は人と人のつながりから生まれますから、事業を成功させるには、人望がとても大切なのです。研究開発は一匹狼でもできるかもしれませんが、事業は周りの応援がなければ無理です。