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新しい時代の勤勉さ(後編)生成AI以降の勤勉・知識から実践へ

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前編では、コロナ禍によって勤勉の指標が「時間」から「資産」へと書き換えられたことを見ました。個人的資産、すなわち知識やスキル。社会的資産、すなわち名指しで知られること。後編では、生成AIがこの資産の中身をどう書き換えたかを考えます。

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AI以前──知識とスキルが資産だった

AI以前、個人的資産の中核は「知っていること」と「できること」でした。それらは時間をかけて身につけるものであり、身につけた者と身につけていない者の差は、そのまま市場価値の差でした。だからこそ、それを積み上げる努力が勤勉と呼ばれたのです。

生成AIは、この前提を根底から揺るがしています。

AI以降──知識は資産ではなく、前提になった

生成AIが得意とするのは、移転可能な「普遍」です。整理された知識、定型化されたスキル、蓄積された事例。かつて個人的資産の中核だったものの多くが、いまや月額数千円で誰の手元にもあります。知識やスキルは、資産ではなく前提になりました。

ここで、勤勉の落とし穴が生まれます。与えられた仕事をAIに入力し、出力をそのまま渡す。一日中AIを使い倒し、大量のアウトプットを出す。忙しく、手は動いています。しかし、そこに自分の問いも判断もなければ、それは「AI係」に過ぎません。AI係に高い給与を払う経営的合理性はありません。AIエージェントに任せれば足りるからです。AI以降、量をこなすことは、もはや勤勉ではないのです。

では、何が残るのでしょうか。人間の仕事を「問い・答え・引き受け」の三つに分けるなら、AIが担うのは真ん中の「答え」です。人間に残るのは両端、すなわち何を問うかと、出てきた答えを自分の名で引き受けるかです。

問いは、普遍からは生まれません。目の前の顧客、この現場、いまこの状況という「個別」に身を置き、違和感を殺さず、そこから立ち上げるものです。引き受けとは、AIが出した答えの結果に責任を負うことです。AIは責任を取りません。責任を取る覚悟のない者が使うAIは、ただの言い訳製造機になってしまいます。

AI以降の個人的資産とは、この「問いを立てる力」と「引き受ける覚悟」です。そして、それは知識のように読んで身につくものではありません。使い、試し、失敗し、結果から考える。実践を通じてしか蓄積されません。実践知(フロネシス)こそが、AIの知性と人間の知性を分ける境界線です。

社会的資産についても、同じことが言えます。「名指しで知られる」ことの意味が変わりました。AI以前は「あの人は詳しい」で足りました。AI以降、詳しいだけならAIに聞けばいいのです。名指しで呼ばれるのは、「あの人が引き受けてくれるなら安心だ」と言われる人です。知っている人ではなく、引き受けた実績のある人。人脈とは、責任を引き受けた記憶の集積なのです。

SIerにとっての勤勉

システム・インテグレーターにとって、この問いはいっそう切実です。売り物が「工数」であった時代、勤勉とは人月を積み上げることでした。コロナ禍で場所と時間の前提が崩れ、いまAIによって、コードを書く、資料を作る、設計を起こすという工数そのものが急速に安くなっています。

工数を積み上げる勤勉は、AIに代替される勤勉です。残るのは、顧客がまだ言葉にできていない課題を見出し、あるべき姿を描いて提言し、その実現に責任を負うことです。これは工数の対極にある働き方であり、多重下請けの構造のなかで最も育てられてこなかった能力でもあります。

勤勉の指標は、加速度である

コロナ前、勤勉の指標は時間でした。コロナ以降、それは資産の大きさになりました。AI以降、その資産の中身が、知識とスキルから、問いと引き受けの実践へと入れ替わりました。

変わらないものもあります。勤勉の指標が、資産の大きさそのものではなく、それを積み上げる加速度だということです。AIは、この加速度を桁違いに上げる道具です。答えを得るまでの時間が消えた分だけ、問いを立て、試し、引き受ける回数を増やせます。それを増やす者と、AI係にとどまる者。両者の差は、これから急速に開いてゆくでしょう。

勤勉は美徳です。ただし、何を積み上げているのかを、問い直さなければなりません。

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第2回 「事業変革推進室長」として生成AIで新規事業を企画する
第3回 AIの「魔法」をメール作成と悩みの「壁打ち」で体感
第4回 新規事業の「3段階の自立シナリオ」をAIで描く
第5回 AIにいきなり「斬新なアイデア」を求めるのは避けよ

本書は、これまでのAI本とは毛色が異なり、新規事業開発やマーケティングの実践ノウハウを、AIを使いながら体験的に学べる「ドリル」です。AIの使い方を解説するのではなく、実際のビジネスの現場でどう使いこなし、新しい価値を生み出せばいいのかを、手を動かしながら身につけていただけます。

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