オルタナティブ・ブログ > 読むBizワクチン ~一読すれば身に付く体験、防げる危険~ >

商社マンの営業として33年間(うち海外生活21年間)、国内外で様々な体験をした。更に、アイデアマラソンのノートには、思いつきを書き続けて27年間、読者の参考になるエピソードや体験がたくさんある。今まで3年半、ITmediaのビジネスコラム「樋口健夫の笑うアイデア動かす発想」で毎週コラムを書き続けてきたが、私の体験や発想をさらに広く提供することが読者の参考になるはずと思い、ブログを開設することにした。一読されれば「読むワクチン」として、効果があるだろう。

そこの飛行機待ってくれ

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飛行機珍体験集 その7
     
そこの飛行機待ってくれ
 サウジアラビアの首都リヤドに駐在していた時のことだ。
 私は日本に休暇で帰国予定をしていたが、その前に、西海岸のジェッダの事務所での社内会議に参加した。
 会議は白熱して、夜まで継続予定だったが、私はその日の午後3時に出発する

 MEA(ミッドイーストエアー)で、バハレーン経由、日本に一時帰国する予定をしていた。私たちの事務所から、ジェッダの国際空港は約30分だったが、当時は国際線では出発時間の3時間前にチェックインをすることを必要とされていた。
 
 午前中に私はジェッダの国際空港に行き、切符を切って、大きなバッグを2個預け入れて、チェックインを無事に終わらせた。それから出発まで3時間、何もすることはない。
 まだ運転手が傍にいたので、私は事務所に戻ることにした。会議に参加する方が空港で3時間待たされるよりよほど良い。事務所に戻って、会議に加わって喧々諤々(けんけんがくがく)と話していたら、どんどん時間が過ぎているのを勘違いした。とにかく一時間ほど勘違いしてしまった。
「樋口君、君、今日帰国の予定じゃないのか、飛行機は何時出発なんだ?」と、言われて、時計を見たら何と、出発時間の20分前になっていた。
「こりゃ、いかん」
「そりゃ、間に合わないよ。ここから車で半時間かかるんだよ」
「大変だ。空港にすぐに行きます」と、トイレに行きたくなる気分で事務所を出て、運転手を急かせて、空港に急いだ。
 空港に到着したのが、出発時間の"5分後"だった。

空港の出発ロビーには、誰も人影がなかった。航空会社のカウンターも無人。パスポートコントロールも、係官がいなかった。
 私はパスポートコントロールの事務所に行って、パスポートを見せて、
「日本に帰国するのです。助けてください。両親に会いたい」と叫んだ。
「だめだよ。もう飛行機は出発したよ。ほら」と、係官は指差した。

 本当だった。ゲートから離れて、MEAの飛行機が、ゆっくりと滑走路へ向かうのが見えた。
(ああ、もう駄目だ)と、思った時、一人のサウジ人の係官が、「チェックインは済ませているのか?バッグは?」
「飛行機に乗っています」
「そうか。よし、パスポートを渡せ」と、言われて、一体どうするのだろうかと思ったら、まず彼は、パスポートコントロールのブースへ行って、私のパスポートに出国の判を押した。
「よし、ついてこい」と、私を連れて、階段を下りて、彼はジープに乗り、私が助手席に乗り込んだ。

 ジープは、急発進して、飛行機を追いかけ始めた。飛行機は滑走路の端に向かって進んでいた。ほとんど滑走路の離陸側の端に到着し、右回りしようとしていたが、ジープは、その後ろから追いつき、左側から飛行機の前に進み出て、サウジ人の係官が、操縦席の機長に手を振って、
「止まれ」と指示したのだった。

(こ、こんなことが許されるのか。夢ではないか)と、私が呆れていたら、何と飛行機が止まったではないか。そして、最後尾からタラップが降りてきた。

 私は、
「ショクラン、ジッダン、ジャジーラン(心からありがとう)」と、係官に叫んで、握手をして、自分のショルダーバッグを抱えて、飛行機の後ろに走って行き、階段を上った。

 そこにはスチュワーデスが2名両側に立っていて、
「アハランワサハラン(ようこそ)」と、笑顔を掛けて、挨拶してくれた。ほぼ満員の乗客も、乗務員たちも、その顔つきは、私が途方もないVIPで、飛行機を停止させても乗ってくるほどのパワーを持っている人だと、勘違いしたようだった。

私は息を飲みこみながら、全乗客の視線を浴びながら、席に座りこんだ。
 飛行機がすぐに滑走に入った。

教訓 昔は優雅なことがあった。今じゃ、考えられない。私が乗り込んでいなければ、飛行機の出発は2時間ほど遅れるだろう。チェックインした後、搭乗しない客があれば、コンテナーに入っている荷物を全部、取り出して、お客は自分の荷物を自分で探して、再度チェックするのではないだろうか。
そうして、搭乗しない客の荷物だけ分離する。爆弾を避けるためだ。

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