オルタナティブ・ブログ > 現状を維持するだけのIT投資には価値はない >

プロジェクト管理・ポートフォリオ管理ツールの活用方法を中心に、IT投資管理の考え方をご紹介して行きます。

IT投資を武器にするには

»

日本経済はいまだに先行きが極めて厳しい状況が続いています。日本は1憶3千万もの人口を抱え、内需だけでもある程度ビジネスを回していく事が可能な国です。そのためこの小さな国に、自動車メーカーや家電メーカーが何社もひしめいており、国内向けのに高機能な製品競争を繰り広げてきました。しかしグローバル化の流れの中で、いまや日本市場は新興国の低価格な製品の草刈り場になりつつあります。どうすれば、企業の収益性を高め新興国企業と戦っていけるのでしょうか?

ITは、日本企業が新興国と戦っていくための大きな武器です。しかし現状の日本企業のIT投資は残念ながら間違った方向に使われている気がしています。

IT投資は往々にして、手段ではなく、その存続自体が目的となってしまいがちです。
例えていうならば、車のある楽しい車を生活を夢見て車を買ってみたら、車検や駐車場に多大なお金がかかりすぎて、どこにも出かかられなくなってしまった。車を維持するために、食費を削って残業を増やし、ますます車に乗る時間がなくなった。目的地まで早くつく事が重要だと、ナビを購入し、万が一雪道に備えてスタッドレスを準備し、コストはかさむ一方。そんな本末転倒な生活がIT投資かもしれません。目的と手段の不一致です。車なんて、レンタカーやタクシーを使っていれば十分です。ましてや専属の運転手などは必要ないでしょう。

日本企業と欧米企業のIT投資配分の調査資料が、NRIのWebページから公開されています。興味深い内容ですので引用してみます。この調査によると日本企業の平均的なIT投資ポートフォリオは、業務効率化投資が26%と欧米諸国の2倍のIT投資を行っている事が判ります。

欧米企業と日本企業のIT投資配分(野村総合研究所 2009年11月)
http://www.nri.co.jp/opinion/it_solution/2009/pdf/ITSF091106.pdf

業務効率化投資とはどんなものでしょうか? 各種業務のIT化であったり、既存システムの機能拡張であったり、最新バージョンへのアップグレード、あるいはポータルなどのコラボレーション系製品への投資などが思いつきます。主として定型業務への投資です。対して欧米企業のIT投資のポートフォリオの特長としては、情報活用投資の比率が日本の3倍と高い事が挙げられます。いわゆるBI(ビジネス・インテリジェンス)などの非定型業務への投資になります。このように、日本と欧米ではIT投資のポートフォリオは大きく異なっています。では、日本がこのように業務効率化に大きな投資をおこなってきた結果はどうでしょうか?

もう一つの調査を引用させて頂きたいと思います。この調査は、日本生産性本部がWebに掲載している労働生産性の国際比較です。こちらの調査によると、日本はOECD加盟34か国の20位になります。いわゆる先進国の中では最下位です。

労働生産性の国際比較
http://www.jpc-net.jp/intl_comparison/

日本企業の特長は、製造業の現場は極めて生産性が高いにも関わらず、ホワイトカラーの生産性が低い事が挙げられと思います。企業の業務効率化投資の比率が圧倒的に高いにも関わらず、ホワイトカラーの生産性は先進国最低という、とても矛盾した結果がこれらの調査からはうかがえると思います。無論このような調査を鵜呑みにするのはどうかとは思いますが・・ただ現実問題として、業務生産性の低さや活用されていない膨大なIT資産を目のあたりにすると、この調査結果がある程度正しいような気がしてきます。つまり、日本のIT投資対効果ROIは先進国で最低なのだという事です。

なぜこれほどまでに、無駄なIT投資がなされているのでしょうか。おそらく日本のIT投資ポートフォリオが戦略的に決められたものではなく、結果として決まってしまっているものだからではないでしょうか。トップダウンで企業の戦略を明確にし、戦略に基づきIT投資の枠組みを確定し、企業の今度の成長を担う戦略的な投資分野に集中して投資を行うのではなく、部門からのボトムアップでのIT投資リクエストや、ユーザー満足度調査に基づき社員が欲しがるものに投資を行う、極めて民主的でしかし非効率な方法でポートフォリオが組まれているように思います。つまり多くの日本企業のIT投資ポートフォリオは「手段」ではなく「結果」なのではないでしょうか。

そしてさらにITベンダー各社は、現状のホワイトカラーの低い生産性を打開するためには、さらなるIT投資が必要と企業にアプローチをおこなっています。生産性の向上には、オフィス改革が必要だ。生産性の向上にはテレワークが必要だ。生産性の向上には情報共有の推進だ。そのような、膨大なベンダーからのメッセージがお客様のもとには日々届けられている事でしょう。もちろんこれらの投資は決して無駄ではありません。しかしこのようなIT投資が、現場の生産性向上や企業の収益性への寄与が低い事は、日本の現状を考えるとご理解頂けると思います。

今求められているのは、強力なトップダウンによる戦略的なIT投資ポートフォリオの策定です。企業はIT投資への考え方を大幅に変えるべき時代が来ていると思います。「ITによるワークスタイルの変革」などといった、甘い言葉に耳を貸している暇はもう我々にはありません。大切な事はトップダウンで企業の収益に貢献するプロジェクトへの投資を増やし、いわゆる選択と集中をIT投資に対しても行う事です。ITという強力な武器をもっと有効に使いこなす事がグローバル競争に勝ち残るためのに必須条件です。

■セミナーのお知らせ
セミナーを開催致しますので、是非ご参加下さい。
失敗プロジェクトをいかに撲滅するか
CA Clarity PPMセミナー
2012年10月12日(金)
詳細:https://i-entry.jp/form/caj/ppm_20121012/input1.php

Comment(0)