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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

他社(者)事例に「自社(分)と違う点ばかりを見つける人」と「自社(分)でも使える点を考える人」

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先日、ITproの「木村岳史の極言暴論!」を読んでいたら、「A社だからできる」と他社事例に向き合わないITエンジニアの話が出てきて、「うぉ、これ、ITの現場だけじゃないぞ」と思ったので、ちょっと書いてみたい。 (※ITproの記事はログインしないと読めない・・かも)

たとえば、研修で、「他社事例をたくさん紹介してください」と言われたとする。
そこで、これまでに見聞きしてきた事例を研修のそこここに散りばめる。

「ある企業では、社長の想いからトップダウンでOJTの施策が進み、それが全社員に浸透し・・・」という話をすると、「ああ、うちは社長から・・・ってのは難しいからなぁ」と言う方と「社長は無理としても、どうやって全員に浸透させていけばいいかなぁ」と考える方がいる。

「部下に対してこんな風に動機付けしたマネージャがいましたよ」とあちこちで見聞きしてきた事例を紹介すると、「ああ、ボクの部下にはそんなタイプいないしな」「それ、メンバが少ないチームですよね、ボクには部下50人いますから」と拒絶する方と、「なるほど。そういうやり方があるのかぁ・・、うちのチームだとどういう風に使えるかな、その方法・・」となんとか消化しようとする方がいる。

私も時々社外のセミナーや勉強会に参加することがあるのだが、そういう時も参加者仲間の発言を聴いていると、だいたい2つに分かれる。

「それさあ、メーカーだからできるけど」
「それって、外資だからできる話だよね」
「ああ、企業規模が違うからね」

こういう反応をする人は、自社(自分)と事例との違いばかりを見つけようとする。だから、いつまでたっても満足しない。仮にその人が所属する業界の事例が紹介されても、今度は企業規模を話題にし、企業規模が同じような例が示されれば、文化の違いを問題にする。文化まで似ていたとしても、最後の最後は、個々人の違いを挙げて、「うちでは使えない」「うちとは違う」と言い、「事例が役立たなかった」とアンケートに書いて終わりだ。「違うところ」ばかり探すのだから、役立つ面を見つけられない。

一方で、

「業界は違うけど、イメージはわく」
「企業規模は異なれど、学べる点は多い」
「面白いなぁ、どういう風にうちに落とし込めばよいかなぁ」

と捉える人は、他社(者)事例の中から、エッセンスを抽出し、自社(分)の状況になんとか当てはめてみようと考える。だから、どんな事例を聴いても「勉強になった」「そのままは使えないが、自分なりに消化したい!」といった感想を述べる。

一般に「学び上手な人」というのは、ある具体的事例を一旦抽象化してその中のエッセンスを取り出し、言語化し、今度は、逆に自分の事例の中にそのエッセンスを注入できる人じゃないかと思う。

具体的事例を具体的事例のまま受け止めて、「それはうちと違う」「それはオレの部下と違う」「それって私の組織とは異なる」と考えてしまえばなんだって突っ込みようはあるわけで、そんなこと言っていたら、自分自身の経験ですら、「それは、寒い1月の頃の話であって、桜が咲いてる今とは違う」ということになってしまうかも知れない。

Kolb(コルブ)の「経験学習サイクル」という考え方がある。

具体的経験→省察的観察→抽象的概念化→適用

【手書きしてみた! 「コルブの経験学習サイクル」】

kolb.jpg

経験したことをふりかえり、自分なりの教訓や持論に変換して、何かに応用してみるということをぐるぐる繰り返すことで、経験から学び、成長できる、というモデルだ。このモデル自体は、「自分自身の経験」から学ぶモデルとして使われることが多いが、他社(者)の経験を自分に適用しようという時も同じようなことが言えるだろう。

木村さんが言う「A社だからできる」思考は、このサイクルが回っていない状態とも考えられる。

世の中に自分の置かれた状況と完全にぴたりと一致する事例などあるわけがない。
大切なのは、どんな事例からもどんな経験からもエッセンスを取り出して、「じぶんごと」に落とし込み、次に活かすことじゃないかと思うのだ。


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