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ソフトウェア製品開発現場の視点

コンピュータ技術の進歩を止めた Web 技術を使った社内システム

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1990年代前半から広く普及を始めたインターネット技術は、世界のコンピュータをつなげるという変革をもたらしましたが、同じ Web 技術を使った社内システム(イントラネット)は、技術の進歩を止めてしまいました。言い換えるとすでにあったものを Web 技術で再構築しただけであったように感じています。Lotus Notes を開発していた時も Web 対応が非常に優先度の高い要望になっていましたが、その最大の理由は PC へのソフトウェアのインストールの手間を省くことでした。Web 対応すれば、すでに PC に入っているブラウザだけで使えるので、個別の PC にソフトをインストールする必要がないということです。これは IT 管理者の要望であり、エンドユーザに取ってはどちらでも良い話でしたが、Web 対応をすることの問題についての認識は十分ではありませんでした。特に当時はユーザインタフェースにおいて、Web 技術を使うことでの制限が多く、技術者はいろいろな方法で PC 上のアプリケーション並みのユーザインタフェースを実現する努力をしていましたが、PC 上のアプリケーション並みの品質のものはありませんでした。

初期の Web におけるフォーム入力の機能は、IBM 3270 端末の時代に戻ったかのような印象を受けました。IBM 3270 端末は「画面上での編集結果は一括して送信する」というモデルでした。3270 端末には、次の行にカーソルを移動する "Return" キーとデータをホストコンピュータに送信する "Enter" キーがありましたが、"Enter" キーと同様の役割をするのが Web の "Submit" ボタンです。Web 技術の利用が広まったときには、すでに Windows も発売されていて、インターラクション性の高いアプリケーションが普及していましたが、当時の Web 技術ではそれが不可能で、後になって AJAX の技術が利用されるまでは時代に逆行した技術によって、ユーザの操作性は非常に損なわれていたと言えます。

Web のアプリケーションは、Google Docs のような新しいアプリケーションが対応するまでは、画面に入力途中のデータが操作ミスやシステムのトラブルで失われることがありました。たとえば、今でも間違えてブラウザの「閉じる」ボタンを押してしまうと、非常に悲しいことになります。過去のシステムは、信頼性が高くなかったこともあって、編集途中のデータを保持しておくというバックアップ機能を持っていましたが、Web アプリケーションではこの問題が再び現れてかなり長い間対応されなかったことは残念でした。最近のアプリケーションでは AJAX 技術を使って、ようやく昔の PC 上のアプリケーション並みのデータの安全性を確保できるようになったと言えます。

技術の発展の過程では、時代に逆行しなければならないことも発生します。しかし、その逆行状態を以下に早く回復してさらなる発展につなげることは重要だと思います。たとえば、定期券が磁気化されたことで、改札を通るときに定期入れから定期を出す必要が出てきたことは、技術的には時代に逆行しています。それが PASMO / Suica などの非接触カードによって、ようやく再び定期入れから定期を出さなくてよい時代になりました。Web の技術もようやく過去のレベル到達してきたという印象を受けますが、今後はより発展する方につながっていくことと思います。

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