【書評】お客さまはぬいぐるみ
「お客さまはぬいぐるみ」を読みました。著者は東園絵(あずま そのえ)さんと斉藤真紀子さんで、文章を書いた斉藤さんは、筆者をアエラで紹介してくださったライターさんです。
斉藤さんに筆者を取り上げていただいたきっかけは、富士ゼロックス株式会社で同期入社の丸山達哉さんの紹介です。てっきり、お二方はお互いによくご存知なのかと思っていたら、直接話したことはほとんどなく、もっぱらSNSやメールでやりとりしていたのだとか。そのことを伺って「ご時世だな」と思いました。
さて、タイトルの「書評」は大変おこがましく、本稿は読書感想文のようなものですが、筆者が感じたことを書き綴りたいと思います。
■ぬいぐるみに対する限りない愛情
ウナギトラベルは、ぬいぐるみ専門の旅行会社だということです。お客様は人間ではないので旅行業の登録は不要なのだと思いますが、そんなことはさておき、ぬいぐるみはオーナーにとっては人間だということです。
ぬいぐるみに対する東さんの限りない愛情、そして、ぬいぐるみの旅行を依頼するオーナーの深い愛情が、写真と文章を通じて伝わってきます。最初のエピソードから、早くも目がうるうるしてしまいました。
■ペットに対する愛情と同じ感覚かも?
ぬいぐるみに愛情を注ぎこむことには違和感を覚える方もあるかもしれませんが、ペットの飼い主は、ぬいぐるみをペットと思えば理解できるのではないかと思いました。飼い主には「飼っている」という感覚よりも家族の一員だと思っている方が少なくないと思うからです。実際、筆者は「我が家には息子が二人いる」と言っていますが、客観的な表現は「二匹のトイプードル(♂)を飼っている」です。
ふと昔のことを思い出してみたら、小学校入学前には筆者にも特別な思い入れのある「二人のぬいぐるみ」がいました。一人はネコで、もう一人はサルでした。ネコは工業製品で、サルは祖母が作ってくれたものです。ネコは残念ながら世を去りましたが、サルの行方はわかりません。実家のどこかで無事だといいのですが。
■ぬいぐるみが旅をするということ
本書では、人見知りが激しいお子さんや、不幸にして心を病んでしまった女性が、ぬいぐるみを旅に出したエピソードが紹介されています。
心を病んだ方は、東日本大震災によって仕事が忙しくなったことが原因ということです。休職しても会社の業務が支障なく行われているという事実が、さらに彼女の心を傷つけたとのことです。震災から4年近く経過しましたが、一向に復興が進まない東北太平洋沿岸部の現状、そして被災した方々だけでなく被災地域に縁の深い方々の心労を思うと胸が痛みます。
前述のお子さんのぬいぐるみは、いつも一緒にいるパートナーですが、女性の場合は旅に出すために購入したものだそうです。ぬいぐるみとの関係こそ違いますが、旅を通じて得たものは共通だと思いました。旅に出たぬいぐるみの様子をFacebookで見て、いろいろなことを考え、コメントしてくれた方とやり取りをし、自分自身が旅した以上に成長していったことがうかがえました。
■SNSが可能にした体験
ぬいぐるみが旅をする様子が随時わかり、一緒に旅をする他のぬいぐるみのオーナーや、他の人とのやりとりができるのは、SNSだからこそ可能なのだと思います。
人見知りのお子さんは、ぬいぐるみがたくましく成長していく姿を見て、自分自身の人見知りを克服できました。家族や親しい友人が旅で成長したのを見て、感化されたというところでしょう。
心を病んだ女性は、SNSでのコミュニケーションを通じて、回復していったそうです。この方の場合は、ぬいぐるみとご自身を重ね合わせて、旅行を疑似体験したように思われました。ぬいぐるみの旅行を契機に、それまでの負のスパイラルが逆転したようです。
筆者も、例のサルが無事に見つかったら、彼を旅に出してみたいと思いました。
(余談)東さんの記事を探していて、以下の記事を見つけました。
勝屋久さんとは、一度名刺交換させていただいたことがあります。そのときにもお話ししたのですが、お名前をかな書きすると筆者の名前のsubstring(なかつやま ひさし)で、同年代でもありますので、他人とは思えない感じがしました。