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経営コンサルタント 中津山 恒の日常ーいつの間にやらガジェットがいっぱい

【書評】ひとりでできる!ITエンジニアのキャリアデザイン術

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 今回は、@ITエンジニアライフの先輩コラムニストであるキャリア・コンサルタント高橋さん(高橋雅明氏)の著作「ひとりでできる!ITエンジニアのキャリアデザイン術」の書評です。

高橋さんは、「5分間キャリア・コンサルティング」というコラムを連載しておられます。高橋さんはコラムで何回か出版に触れておられますが、ひとつご紹介しておきます。

 実は同書が販売されて間もなく購入して読ませていただいていたのですが、筆者のキャリアチェンジがすでに決まっていた時期で、いろいろとそれに関連して書きたかったこともあり、見送っていました。しかし、書評が遅れに遅れたのは、筆者の遅筆のせいです。

■若いITエンジニアにお勧めの一冊

 私見ですが、ITエンジニアの多くは、狭い専門領域を深掘りしたがる傾向があるように感じられます。とくにV字モデルの下端を極めたい人が多いように見えて、自らを危険な領域に閉じ込める恐れがあると思います。

 同書では第1章から「ITエンジニアがこのまま働き続けるリスク」を取り上げていて、筆者の問題意識とも一致しています。

 筆者は、会社員時代に、若い人たちに「自分の市場価値を考えるように」と言い続けてきました。V字モデルの下端は、グローバルに競争のある領域です。海外のエンジニアと比較した場合、国内の正社員は「日本語で、しかも『阿吽の呼吸』で意思疎通ができる」という点の評価次第で、かなり危険な立場にあります。

 ITエンジニア、それもとくに若い方には、同書を一読することを強く勧めたいと思います。

■キャリアチェンジにあたって

 筆者の場合、同書で紹介する職種としてはITコンサルタント、業態としてはフリーランス、キャリアプランは複線型ということになると思います。同書のように定型化されていてば、筆者がキャリアを考えるのが楽になったかもしれません。

 「『シニア起業』で成功する人・しない人 定年後は、社会と繋がり、経験を活かす」 (片桐実央、講談社プラスアルファ新書) では、やりたいこと、得意なこと、おカネになること、の3つの円の重なりで事業を行うことが重要だと説いています。継続性の観点からは、おカネになることは必須です。残る2つについては、理念先行であってはならず、実行可能である必要があると述べているというのが、筆者の理解です。

 ITエンジニアのキャリアプランやシニア起業に限らず、キャリアを考えるには前記3つの円を考える必要があると思っています。

 前職では社内教育が充実しており、カリキュラムの1つにキャリアデザインがあります。筆者は40歳になるときに受講し、大いに影響されました。ライフプランニングや投資方針の検討で最初に聞かれることですが、価値観を問われて面食らい、きちんと答えられなかったのです。自分のことは実は分かっていない、と思い知った経験でもありました。

■「富士ゼロックス株式会社マネジャーの中津山恒」と「ただの中津山恒」の違い

 独立にあたっては、日本教育大学院大学客員教授 北川達夫氏の「わかりあえない時代の『対話力』入門 第60回【対話の手法】 対話において「虎の威」を借りる方法」(週刊東洋経済 2010/7/24号)を念頭においていました。外務省官僚だった北川氏の独立に際して、周囲の反応が日本と欧米でまったく違っていたということです。

 私が外務省を辞めたときのこと、日本の親戚・友人・知人からは一様に「なぜ?」との声が上がった。「せっかく入ったのにもったいない」というのである。さらに、私が今後は組織に属することなく、フリーで仕事をするつもりだと言ったら、「やめたほうがよい」という忠告の大合唱となった。やはり「寄らば大樹の陰」ということか。

 一方、ヨーロッパの友人・知人からは、私が外務省を辞めると言っても、一様に「ふうん」という反応しか返ってこなかった。彼らにとって、転職は珍しくも何ともないからである。だが、私がフリーになると言ったら、「それはおめでとう」という祝福の大合唱となった。起業精神の強い彼らにとって、どのような形にせよ「人に使われる立場」からの脱出は祝福すべきことなのだ。

 このように日本型の反応とヨーロッパ型の反応を対比すると、日本人であっても、ヨーロッパ型の反応を好ましいと思う人が少なくない。地位や肩書きにとらわれない、人間らしい対応のように見えるからだ。

 だが、現実は甘くない。日本であろうが、ヨーロッパであろうが、「外務省の事務官の北川達夫」や「日本国大使館の書記官の北川達夫」の扱いと、「ただの北川達夫」の扱いには大きな違いがある。この点に関しては、どこでも同じなのだ。

 退職時の挨拶に対して数多くの返信をいただいたことは、「富士ゼロックス、最終出勤!」と題してブログに書きましたが、同年代の方からは「うらやましい」と言っていただいたことが多くて驚きました。「なんてバカなことを」と口に出すほど愚かしい人はいないでしょうが、「うらやましい」と言っていただけるとは思っていなかったからです。

 「富士ゼロックス株式会社のマネジャーである中津山恒」(「マネジャー」は同社での正式表記)と、個人事業主という名の「ただの中津山恒」では信用力がまったく違います。このことは、北川氏の記事を読む前からよく考えていました。そのために、意識して取得したのが資格です。

■資格は門前払いを防ぐ手段

 資格不要論をぶつ人がしばしば見られますが、筆者はまったく与しません。資格はもちろん完全ではないのですが、仕事を依頼する、あるいは雇用する側としては、候補者を粗ぶるいするフィルターとして機能します。職歴を聞いてもらえるのは、そのフィルターを通過したあとのことです。話を聞いていただければアピールできることは少なからずあると思っていますが、門前払いでは、その機会がありません。

 キャリアチェンジを考えるならば、戦略的に資格を取得することも一案だと思います。なお、筆者の場合は、資格試験に時間を使っていません。というのは、ストレッチして資格を取ろうという意識ではなくて、地力を証明するために資格を取るという意識でいたからです。

■改善へのコメント

 同書を拝読して、少し中だるみしたような印象がありました。第4章「キャリアをつくる第2ステップ『仕事を知る』」で、業態(働き方)に関連する仕事が5種類、職種(内容)に関連する仕事が20種類、職位(会社組織)に関連する仕事が5種類、その他(上記以外)が3種類挙げられていて、かなり長く感じたのです。巻末に回すなど、構成上の工夫だけでも、かなりよくなりそうに思いました。

 また、開発プロセスや情報システムのライフサイクルは、一般的な話なので簡単に済ませた方が話の流れがよいように感じました。

■終わりに

 書評と言いつつ、自分の話が多くなってしまいました。発行されたタイミングがタイミングだっただけに、同書に関してはどうしても第三者的に淡々と書くということができなかったのです。

<余談>
 筆者が購入したときには同書の価格は1,500円でしたが、本稿執筆時点では1,050円になっていました!

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