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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

日本政府のパッケージ型インフラ輸出政策のまとめ(上)

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日経ビジネスでインフラ輸出が特集で取り上げられています。周囲の人に聞いてみると、政府が政策として力を入れているパッケージ型インフラ輸出(パッケージ型インフラ海外展開)についてよくわからないという方がけっこういるようなので、このへんで一度まとめてみたいと思います。

■そもそも「パッケージ型インフラ輸出」とは何か?

まず「パッケージ型インフラ輸出」の意味をはっきりさせておきましょう。鉄道、発電所、上下水道施設、空港、港湾など、ハードウェアとして存在するインフラの需要は、新興国の所得水準が急速に上がっていることと、人口増加が続いていることもあって、世界ではものすごい規模になっています。

よく引き合いに出される数字としては、アジア開発銀行が2009年11月に発表した「アジア太平洋地域においては、2005年から2030年の間で7兆〜9.7兆米ドルのエネルギー関連インフラ投資が必要」というものがあります。(同銀による別資料では6兆〜8.3兆ドルとなっている。)

また、モルガン・スタンレーが2009年2月に出したレポートによれば、2030年まで世界においては、上下水道関連22兆6,100億ドル、電力関連9兆ドル、道路・鉄道7兆8,000億ドル、空港・港湾1兆5,900億ドルといった膨大な需要があるとのことです。目安としては、毎年世界ではGDPの2%約1兆ドルのインフラ投資が実施されているそうですが、人口増等を考えるとそれを2倍に増やさないと需要が満たせないそうです(モルガン・スタンレー)。その需要には先進国における老朽化したインフラの改修需要なども含みます。

インフラはとにかく作らなければならない。そうしなければ経済成長はない。このことはどの国の政府もよく理解しています。それがために、まずは、自国の政府予算によるインフラ新設を考えるわけですが、予算には限りがあり、資金を必要としているインフラは多岐にわたる…ということで、どの政府も民間資金の活用を打ち出します。いわゆるPublic-Private Partnership(官民連携)です。この源流は1980年代のイギリスが打ち出した民営化にまで遡りますが、歴史はざっくり端折ります。現在では高度に洗練されたPPPのスキームが開発されており、ファイナンス面でも、リスク緩和面でも、民間企業が受託可能な事業の枠組みができあがっています。

具体的な例では、米国フロリダ州が高速鉄道を実現するにあたって、鉄道の建設から営業に至る包括的な事業を20年間にわたって民間に委託するケース、シンガポール政府が上水の安定的な供給を図るために海水淡水化施設の建設から運営までを20年にわたって委託するケースなどがあります。いずれも外国企業も参画可能な競争入札が行われています。こうした案件が有料道路、高速鉄道、港湾、上下水道、原子力発電所、風力発電所などのインフラ分野において、無数に出現しているのが現在です。いずれも数十億円〜数百億円、大きなものになると1兆円〜2兆円といった規模になります。かつ、事業期間が10年〜30年といった超長期にわたるのがインフラ事業の特性です。インフラは初期投資が膨大な額に上る一方、事業収益はエンドユーザーからの利用料(有料道路の例で言えば通行料)が主であるため、非常に長い期間をかけないと投資回収ができないのです。

そのような超長期にわたる、初期投資が非常に膨大なものになるインフラ事業を、民間企業側の資金で、民間企業側の営業努力によって運営してもらおうというのがPPPです。世界では過去10数年にわたって、このようなPPPによるインフラ案件に世界各国の大企業がコンソーシアムを組んで受注を競うという趨勢ができました。よく耳にする「プロジェクトファイナンス」の大部分も、こうしたインフラ案件に対して行われる融資のスキームです。

インフラの建設だけを請け負う形態を「EPC」(Engineering-Procurement-Construction)と呼び、日本でインフラ輸出と言うと、すぐにこのEPCが思い浮かびますが、現在世界で受注合戦が繰り広げられているインフラ案件は、EPCではなく、20年といった長期にわたって事業運営までも請け負う包括的な形態の方です。この分野に関して、日本企業では特に総合商社が発電事業、造水発電事業、上水道事業において中東、東アジア、南米などで受注し、営業基盤を広げてきています。しかしこれは例外的なものであって、その他の分野ではまだほとんど実績がありません。また、案件獲得に動き始めようとすると、競争入札で競り負けるという事例も出てきていました。

そうしたインフラ輸出の日本の課題を、同政策の策定にも関与している内閣官房国家戦略室の町田史隆政策企画調査官は、経済企画協会が発行する雑誌「ESP」2010年秋号において以下のように記しています。

 このような旺盛なインフラ需要に支えられ、ビジネス機会が拡大する中、「パッケージ型インフラ推進」が求められる背景は何か。第一は、昨今のインフラ商談の潮流である。近年、インフラプロジェクトにおいては、マスタープラン、設計、調達、建設、ファイナンス、管理・運営を含めた事業権全体、またはその一部を複数まとめて発注する入札スタイルが主流になりつつある。商談の入札において、パッケージで提案・受注する能力が必要になってきているのである。第二は、インフラ商談における熾烈な国際競争である。我が国のインフラ分野における産業構造の特性として、同一セクターに複数の有力企業が存在する上、他国競合先と比較し、サプライチェーンが細分化されているため、顧客に対して一貫した提案やサービスを提供しにくいとの指摘がある。インフラ商談における国際競争が熾烈さを増す中、ただ単に優れた技術があれば世界に展開できるものではなく、日本勢として分散する強みを集結して対応する必要性が高まっている。また、各国が官民あげてインフラ商談への取組を強化し、商談の上流や他分野にわたる総合的な支援策を展開する状況下、単なる設備・技術の輸出や、一企業の取組では、ビジネス機会・収益機会の確保は難しい。

日本でこれまで考えられてきたような「輸出」では、膨大に存するインフラ案件の受託はできず、どうしても「パッケージ型の輸出」に切り替えないといけないということです。このパッケージには、上に見た膨大な金額の初期投資に対するファイナンスや、インフラ案件において貿易保険的な機能を発揮する保険なども含みます。すなわち、1つの企業だけでカバーできるものではなく、商社、メーカー、エネルギー企業、公的および民間金融機関などがコンソーシアムを組んで対応すべき世界であり、さらには、国の強力なセールス支援も必要となります。

町田氏によれば、パッケージ型インフラ輸出の定義は「単なる受注・納入者として個々の設備・技術を輸出するビジネスモデルとは異なり、インフラプロジェクトの事業権またはその一部を確保することにより、その事業運営に必要な設備・技術の導入につき、広く商圏(裁量と責任)を確保するビジネスモデルを推進すること」となります。

今日のところはここまでです。

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