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「X」と「食べチョク」に見る、消費者意識の変化。変わる、食品選びの基準(前)。 ~日用品公害・香害(n)~

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移り香注意マークを見たことがあるだろうか。一般社団法人 日本即席食品工業協会が作成したもので、食品を、防虫剤・殺虫剤・洗剤・芳香剤・化粧品等、香りの強いもののそばに置かないよう、注意を促している。

食品に、日用品のニオイが移るなどもってのほか。この常識が、2018年頃から、一気に崩壊した。
今では多くの食品が、日用品のニオイを放つ。柔軟剤の香りや合成洗剤の抗菌臭だ。におう物質は、食品包装の表面に重層して蓄積。リスクを知るひとたちは、包装を、洗い、拭き、別の容器に移し替えて保存している。それらの物質が健康に強く影響するひとも急増中だ。その何割かは化学物質過敏症と診断されている。

安全な食品を、安心できる状態で、入手したい。この願いを叶える生産者と販売者の情報が、SNS上で流通している。その中から、筆者が無移香を確認済みの、愛媛県の事業者を紹介する。ただし、移馨は、配送中にも起こりうる。遠路では他の貨物からの2次移香の可能性を排除できない。本稿は、完全無移香での到着を保証するものではない。

2023年食べチョクアワード受賞。先進的農家「鬼北印のさむそん野菜」(愛媛県鬼北町)

愛媛県鬼北町。四万十川の支流、広見川の流れる美しい森の町。
以前、@ITの連載で紹介したように、全国で唯一「鬼」の名が付く自治体だ。
清冽な水で育つ農作物は驚くほど美味い。本ブログでは、これまで何度か、同町の商品を取り上げてきた (1) (2) (3)

その鬼北町で、とびきり上質の野菜を栽培している農家がある。

「鬼北印のさむそん野菜」

41年間農薬・化学肥料不使用。
経営者の高田義勝氏は、Xとインスタで、野菜の生育状況や、ワンポイントアドバイスを発信。SNSの口コミで知った消費者たちが、「食べチョク」のコメントを見て購入する、という流れができている。

野菜本来の味を望む人たち。環境や健康の問題に関心をもつ人たち。そして、かすかに残る農薬のニオイを感知する人たち。農薬や化学肥料に反応するタイプの化学物質過敏症の発症者たち。
できるだけ不要な化学物質を使わない、そんなライフスタイルをもとめる人たちが、恩恵を受けている。

商品が安全で美味しいだけではない。安心できる形で届く。
高田氏は、SNSで、化学物質過敏症者たちの窮状を知り、洗濯洗剤を、ミヨシの石けん洗剤に変更。当然のことながら、届いた野菜に移香はみられない。そのまま冷蔵庫に入れることができる。

その作物は、まさに「命綱」。

旬の野菜が届く。鬼北町の季節感が感じられる楽しみ。無農薬だから、人参や大根や蕪は、栄養価の高い葉も安心して食べられる。
野菜本来の美味しさと生命力にファンが増え、「2023年度 食べチョクアワード」を受賞。「野菜部門21位」という快挙。

高田義勝【有機栽培/有機野菜】41年間農薬・化学肥料不使用 鬼北印のさむそん野菜「X」公式

食べチョク

高田氏の経歴はユニークだ。和太鼓奏者から農家への転身。和太鼓の祭典で、二度、日本一に輝いた、その集中力と気迫と研ぎ澄まされた感性で、野菜作りに取り組んでいる。

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県産はだか麦やじゃこ天を使った製品開発。マエダ和作屋(愛媛県宇和島市)

1927年創業。創業100年を目指す老舗。
あんこ、きなこ、米粉、餅、雑穀、大麦、もち麦、パックご飯など、豆と穀類、その加工品を開発、製造、販売している。

きな粉やはったい粉、国産大麦のホットケーキミックスなど、健康的なお菓子づくりの材料が揃う。話題の「じゃこ天」のロングライフ製品も取り扱っている。じゃこ天入りのパックご飯は、防災用に最適だろう。
厚手の段ボールにキッチリ詰め込んでの発送のため、移香が発生しにくい。
年末に筆者が取り寄せたところでは、完全に無移香だった。

株式会社マエダ和作屋

株式会社マエダ オンラインストア

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無添加たけのこ。ノーワックスレモン。季節の柑橘いっぱい、きなはいや(愛媛県宇和島市吉田町)

愛媛県宇和島市のたけのこ山の恵み。土山さんの水煮たけのこは、無添加。包装は無移香だ。
ホール、スライス、千切りの3種類。千切りを、砂糖醤油で炒り付けた後、油をきったツナ缶を加えてザっと混ぜ合わせ、食卓でレモン果汁を回しかける。ごはんが進む一品になる。
スライスは、たけのこご飯に。ホールは、干ししいたけの出汁で、飛竜頭などと炊き合わせて。

愛媛といえば、みかんのイメージが先行するが、レモンやキーウィの産地でもある。きなはいやでは、ノーワックス・ノー防腐剤の愛媛県産レモンを取り扱っている。蜂蜜もある。みかん蜂蜜は、愛媛ならではだろう。

きなはいやインターネット店

きなはいや楽天市場店

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四万十川支流で育った、特別栽培米を取扱い。宇和海の幸問屋(愛媛県宇和島市/松山市)

愛媛県の海の幸、山の幸が揃う。米や柑橘、宇和海の美味がズラリ。

米は「宇和島十万石 伊達米」。日本最後の清流、四万十川の支流の広見川が流れる、三間町・鬼北町で栽培。節減対象農薬5割以上削減 化学肥料5割以上削減、愛媛県特別栽培農産物認証「エコえひめ」を取得している。
毎年、秋も早くから、新米の取り扱いを開始。つやつやでふっくらとした豊かな味わいだ。ほかにも、愛媛県内の米や餅米を取扱っている。久万高原町の清流米は、透明感のある、スッキリとした味わい。石鎚山系の名水で育てた米もある。料理によって使い分けるのもいいだろう。

紙袋に入った米が、折りたたみの簡単な専用パッケージに、きっちり入って届く。緩衝材が使われていないため、移香した緩衝材からの2次移香が発生しない。何度か購入しているが、米袋が移香していたことは一度もない。本稿公開三日前に届いたものも無移香だった。緩衝材の移香は深刻化しており、この問題については、後編で取り上げる予定だ。

生産者:農業生産法人 有限会社ワールド・ファーマーズ

取扱店:宇和海の幸問屋のストアフロント(amazon)

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麹と塩だけの甘酒、七折小梅、愛媛県の地酒が揃う、ワインと地酒の店かたやま(愛媛県松山市)

愛媛県の地酒を網羅して取り扱うショップだが、県産の米や梅干しやジュース、調味料も取り扱っている。酒はガラス瓶入りが多いため、緩衝材は必須だが、1月10日の時点でも、移香はない。

取扱商品のすべてを試すことはできないが、梅錦の酒粕の袋には一切移香は見られず、そのまま保存できた。協和酒造の初雪盃のシリーズのガラス瓶には、商品名ラベルが貼られているが、これにも移香はない。麹と塩だけの甘酒は、ふっくらとやさしい味(完売)。坂村真民の詩を和紙に印刷してラベルとした商品「今」「一期一会」などは、贈答に喜ばれそうだ。

七折小梅は、愛媛県砥部町の梅園で栽培されている小梅。梅と塩の味がシンプルに楽しめる、爽やかな味。

森文醸造の「生搾り醤油 秘蔵」を取り扱っており、無移香で届く。この醤油、amazon掲載の仕様によれば、「大麦仕込のお醤油です。小麦アレルギーの心配がなく、(グルテンフリー」とのこと。アレルギー対応で購入される場合は、それぞれでご確認ください。

何といっても、店主の仕事に向き合う姿勢によるところ大なのだろう。レスポンスが速く丁寧。「X」の香害健康被害者が、送り状に注意事項を記入できるか問い合わせたところ、「配送時のご要望 柔軟剤などフレグランス類、除菌スプレーの付着厳禁」と印刷、目立つ位置に貼り付けて発送してくれたとのこと。ありがとうございます。

ワインと地酒の店かたやまストアフロント(amazon)

ワインと地酒の店かたやま オンfラインショップ

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「無移香」が宣伝力を持ち始めた。嗅覚と味覚の機能する固定客は離れない。

本稿で紹介したのは、この8カ月間で、筆者が2回以上、あるいは、筆者が1回プラス「X」の香害健康被害者1名以上が、無移香を確認しているものだ。ほかにも、無移香を心掛ける生産者やショップ、無移香を確認できた商品はあるだろう。それらの情報は、ぜひ「X」上で「#無移香商品」というタグを付けて発信してほしい。化学物質過敏症の発症者にとって、食の安全は死活問題だ。検索して利用できるよう、ご協力を。

大量生産、大量消費しながら、大量廃棄。業界内で繰り返される、価格競争。そうしたビジネスは続かない。
コストカットには限界がある。モノあふれで、付加価値にも苦戦。
顧客満足度の向上に邁進すれば、顔の見えないモンスターカスタマーに苦戦する。
グリーンウォッシュ企業が、環境への配慮を堂々と叫ぶ。見抜いている消費者たちが、広告宣伝を訝しむ。タレントの知名度頼みには、陰りが見えるようだ。
そうして、哲学が問われる時代が始まったらしい。といっても、目新しくはない。かつてこの国には、企業哲学を語る創業者たちがいた。半世紀を経て、いくつかの企業では、創業者精神が失われつつある。

産業構造が、きしみ始めている。
どうやら間違った道を歩いているようだ。引き返して、リスタート。気づく人が声をあげ始めている。

これから盤石になるのは、生産者の顔が見え、顧客の笑顔が浮かぶ、スモールビジネスだ。
倫理感と良心を基盤とし、融通の利く、血の通った取引。
人と人、互いの体温が感じられる関係。

「香り」が客足を遠ざけ、「無香」がビジネスを作る。――ー筆者がそう書いたのは、2019年。ようやく「無移香」が宣伝力を持ち始めた。全国の生産者、そして取扱店には、移香の度合いを正確に把握し、日用品のニオイ移りを「できるだけ」防ぐようお願いしたい。

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