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AIとの共闘が始まった!Microsoft Copilotが、香害啓発をサポート。(前) ~日用品公害・香害(n)~

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Microsoft Edgeからの簡単操作

「Microsoft Bing Image Creator」は、画像生成エンジン「DALL-E」を使って、AI画像を生成することができる、Microsoft Copilotの一機能だ。
本稿執筆時点での動作環境は、Windows 10、Windows 11。Microsoftアカウントでログインして、Microsoft Edgeのサイドバーからテキストプロンプトを指定すると、画像が生成される。
(使い方および「よくある質問」は、「Microsoft Edge / Designer の Image Creator」を参照。)

たとえば、「ピンクの煙が充満するオフィスで、ガスマスクを付けてラップトップに向かい、頭痛に苦しんでいる男性社員のイラスト」この1行だけで、次のような4枚の画像が瞬時に生成される。

U_ImageCreator2.jpg

煤けたピンクの霧は、いまや不吉と恐怖のシンボルになりつつある。「シャボン玉石けん」による意見広告や、(筆者は見ていないが)映画「ピンク・クラウド」を、彷彿とさせる色だ。

この「ImageCreator」が、香害の啓発活動に一役買っている。

ポスター制作をサポートする、Image Creator

香害による健康被害者のひとり、ベテランの看護師は、毎月1回第一土曜日に行われる「X」香害啓発デモに参加してきた。毎回、若い親族にポスターの制作を依頼、ポストしている。
その作風が、先々月、突然変わった。「ImageCreator」を使い始めたのだ。

以前は、イメージを伝えて依頼、打ち合わせながら練り上げていた。
この工程が変わった。伝えたイメージをもとに、親族が複数点数を作成、その中からて選ぶようになった。
「Image Creator」の処理は速い。11月のデモ用には、24枚のポスターを制作した。
プロンプトは公表しておらず、著作権は放棄していないが、香害啓発目的にのみ使用できるとしている。

その作風は、モノクロのドローイングから、けばけばしい色彩のペイントまで、さまざまだ。
隣家が洗濯ものをベランダに干し、そこから襲来する香害に気付き、移香を避けるべく、干していた洗濯ものを取り込む―――時間の流れを盛り込んだ、物語性のある画像もある(掲載画像は部分)。

U_ImageCreator1.png

U_ImageCreator_sentaku.jpg

現時点では、プロンプトの指定を一度で決められる人はいないだろう。試行錯誤しているはずだ。プロンプトありきで得られた結果を利用するなら、前掲のサンプル画像のように単純な一行で済む。しかし、これらのポスターのように依頼主のイメージが先行する場合は、それを具現化するテキストを考えなければならない。
この親族は、依頼主の意図を実に的確に汲み取り、期待する結果を引き出している。

なお、この看護師は、気力体力ともに充実しているにもかかわらず、職場に蔓延する香害が原因で、働くことが叶わない状況にある。
ただでさえ人手不足のこの国で、貴重な人材が、香害によって職場を追われ始めている。筆者が知るだけでも今月、数名が同様の事態に直面している。その数は、増える一方だ。こうした強烈な画像を使って訴求する、その背景を察してほしい。

制作チームの一員として、前工程を効率化。

業務でのポスターの制作の場合は、通常、次のような工程を踏む(デザイン事務所の方針や、クライアントの業態や取扱い商品などによって、異なる場合がある)。

企画 > 大ラフ(複数) > 概算見積 > ラフデザイン(複数) > プラン決定(コンペのケースあり) > 正式見積 > 受注 > デザイン > 撮影、イラスト、コピー > デザイン落とし込み(DTP、レイアウト調整) > 文字校 > カラーカンプ > 色校 > 刷り出し最終確認

「Image Creator」は、タタキ台となる「大ラフ」や「ラフ」制作に威力を発揮すると考えられる。この段階では、多くのアイデアを視覚化して、テーブルに乗せる必要があるため、速度がもとめられる。画像のクオリティも、プロンプト次第ではあるが、ラフとしては及第点といっていい。

AIの生成する画像はーーー画像に限らず文や詩や音楽もだが、説明的だ。抽象的であるよりも、具体的である方が、わかりやすい。万人に伝わりやすいという点では、デザインの意味を成している。
ただし、1枚のポスターとしての完成度を高めるには、要素を絞り込み、メリハリをつける必要がある。フォントやそのサイズ、空間お使い方など、課題は多い。そこは、人間のデザイナーの腕の見せどころだろう。

そして、デザイナー以上にAIの恩恵を受けやすいのが、アートディレクターである。
デザイナーやイラストレーターやフォトグラファに作業を依頼する立場では、「誰が作業をするか」以上に「どのような成果を得られるか」が重要になる場合もあるからだ。
「ヒトに依頼するのか、AIに依頼するのか、棲み分けるのか、協業するのか」あれこれ悩むよりも、「クライアントのもとめる期待効果を効率よく得られる方法」を選択したら、それがAIだったという可能性はある。
圧倒的な作業速度と、突拍子もない要素の組み合わせは、AIならでは。頼れるスタッフとなるかもしれない。

筆者がデザイン事務所に勤務していた時は、企図を理解して、確実なラフを制作するデザイナーがいた。これまた、確実な照明とアングルで、イメージ通りの撮影をするフォトグラファもいた。チームで動き、完成度を高めていくには、円滑なコミュニケーションが欠かせない。われわれのチームは風通しがよく、問題が発生したことは一度もなかった。

だが、そうしたチームばかりではない。言葉やコードよりも、イメージを扱う職種では、コミュニケーションの問題が発生しやすいものだ。
しばしば見聞きするのが、デザインとアート(芸術作品)が別物であることを理解していないスタッフとの軋轢だ。意図が伝わらず、時間ばかり過ぎて、チーム内の人間関係が悪化していくようであれば、人間よりも「ImageCreator」の方がよいと考えるディレクターが出てきても不思議ではない。
制作スタッフにとっては、人間力と抽象化能力が、サバイバルの鍵となるかもしれない。

「X」での香害啓発デモには、多様な属性の人たちが参加している。インパクト重視の多種類のポスターは、使い勝手がよく、効果も期待できる。
AIは、ラフデザイナーとして、良い仕事をしている。

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