先週、1週間ほど東京に行きました。企業セミナーへの出席と新書「クラウド」の発行記念が目的でしたが、ついでに色々な方にお会いできました。おか げで、クラウド・ブームに関する色々なご意見に触れ、様々な点で勉強になりました。そうした議論のなかで、特に気になったこと2点について、以下まとめて みます。

<クラウドは超分散>
僕の本では、クラウド・コンピューティングからクラウド・ディバイスへと発展する過程を書いています。

と ころが、日本ではクラウドというと「クラウド・コンピューティング」と言う議論になり「仮想化データセンターへの一極集中処理」と言う発想(←既成概念) になっているようです。それはクラウドの片面しか見ていないように思えます。確かにサーバはデータセンターに集中してゆきますが、クライアントはパソコン だけでなく家電(テレビ、ラジオ、携帯電話、STB....)なども含めた多様な世界になります。

つまり、クラウドとはパソコン離れが進 み、あらゆる端末が直接データセンタに結びつく時代です。その辺をちゃんと見ていない方は「グリッド・コンピューティング」「ユーティリティー・コン ピューティング」などとクラウドの違いがわからず、議論がごちゃ混ぜになっているようです。グリッドもユーティリティーもクライアント/サーバ時代の産物 で、クラウドは脱パソコン時代の産物です。

<アプリに適したIP網が必要>
クラウド・コンピューティングは十分な信頼性があるのか──は関心の的です。特に最近、グーグルのメールサーバーがトラブルを起こしたこともあり「やっぱり安心できない」との意見を多く聞きました。しかし、私は逆の意味で驚きました。

グー グルのメールにせよアマゾンのEC2にせよ、スリーナイン(99.9%)の動作保証しかしていません。(←しかも通信回線などを含めたエンド・ツー・エン ドの保証でもない) このレベルは現代の情報処理社会ではサービスとして通用しません。実験用とか、学生のお遊び、少々止まっても文句を言われないサービ スなどに限定すれば使えるのが99.9%の世界です。

ですから、クラウド・コンピューティングといえるサービスは「まだこの世には存在しな い」というのが僕の考えです。・・・・もちろん、一部の方はプライベート・クラウド・コンピューティング(IBMなんかの)といったサービスなら大丈夫と 反論される方もあるでしょう。ですが、それは仮想化データセンターを使ったマネージド・サービスであって、クラウドとは言いにくいと感じます。

で、クラウド時代になったら、データセンターの信頼性よりも通信回線の信頼性がもっと大きなボトルネックになると僕は考えています。仮想データセンターがダウンするよりも、通信回線のトラブルの方が遙かに始末に悪いからです。

そ して、このクラウド時代の通信サービスは難問となるでしょう。今のインターネットはファイル転送に最適なIP網です。これではアプリケーションをやり取り するクラウドに高度な信頼性を提供できません。僕の実感としては「アプリケーションに適したIP網の構築が議論になれば、本当にクラウド時代がやってき た」と言えるでしょう。インターネット屋さんも、電話屋(NGN/IMS/SDP)さんも、その辺の議論はまだまだと感じます。

小池良次(www.ryojikoike.com)

小池良次

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コメント
M. HAYASHI 2009/03/17 06:52

私自身、情報通信業界に身を置く立場ですが、当事者としても、クラウドの普及に伴い、もう少しIP網のあり方について議論されるべきだと感じています。「クラウド・ビジネス」入門においても、その辺の部分については、特に意識して書かせていただきました。先週の金曜日の小池様がお話をされるフォーラムのパネルディスカッションに参加してご挨拶できればと思っていたのですが、残念ながら調整がうまくつかず参加できませんでした。いつの機会かご挨拶できればと考えております。よろしくお願いします。

R. Koike 2009/03/20 01:31

林さん


コメントありがとうございます。


おっしゃるとおり、現在のIP網はファイル転送には適しているのですが、アプリケーションには今ひとつですね。ここ数年、企業システム内(LAN)や市街地程度の広域イーサではL4~L7の拡張が進んでいるのですが、WANレベルまでには至っていません。やはり電話のような2重網が必要なのかもしれません。大きな課題と考えます。


小池


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プロフィール

小池 良次

小池 良次

米国のインターネット、通信業界を専門とするジャーナリスト。サンフランシスコ郊外在住。早稲田大学非常勤講師、早大IT戦略研究所客員研究員、国際大学グローコム・フェロー。米国通信インサイト(日本経済新聞社)、ネット時評(日経産業新聞)、映像新聞、オープン・エンタープライズ・マガジン(ソキウス社)などで連載を持つ。

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