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いま香港で起きていることのまとめ ~香港人および香港在住者の目線から~

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「一国二制度」に基づき、中国本土とは異なる政治、経済が保障されている香港

英国の植民地だった香港は1997年に中国に返還された。 返還に際して中国共産党の一党独裁体制下に置かれた香港特別行政区には、外交と国防を除く高度な自治を認める「一国二制度」が適用され50年間保障されることとなった。

香港トップである行政長官の選挙

香港特別行政区のトップである行政長官は、現在は業界団体などから選ばれた1200人の選挙委員会による間接選挙で選ばれているが、2017年からは一人一票の普通選挙に移行する予定である。これは香港の憲法にあたる「香港基本法」に基づくものである。

骨抜きにされた2017年から開始される一人一票の普通選挙

中国の全国人民代表大会(国会)常務委員会は2014年8月31日に、民主派を事実上排除する立候補資格制度の導入を決定した。これは、18歳以上の住民に選挙権を与える一方で、候補者については事前に中国側の意向が働く業界団体等から選ばれた「指名委員会」によって、候補者を2~3名に絞る制度となっており、民主派は事実上立候補ができないものであった。

嫌中:香港人が持つ中国化に対する嫌悪感

香港の人々は自分達のことを「香港人」と呼ぶ。一国二制度で中国本土と香港が政治、経済が異なるのと同様に、人々も香港人と中国人では全く異なるのである。 

英国統治下にあった香港では、中学以上では英語によって全授業が行われていた学校も多く、内容も西洋のものであった。返還以降、急速に英語による授業から中国普通話(北京語)による授業に切り替えれ、内容も中国本土のものが増えていたようである。また、中国の愛国教育等も一部で実施されたようだ。 (注:香港で使われている言葉(中国語)は広東語であり、中国標準語(北京語)とは相互に会話できないほどの違いがある。また、漢字も「繁体字」と「簡体字」では全く異なる。従い、日常会話は広東語、学校では英語だったものが、今では日常会話は広東語、学校では中国標準語に切り替わっているということである。)

近年、中国本土からの観光客が急増し、中国本土から押し寄せる人々による日用品の買い占めによって香港人が日用品を買えなくなるなどの不便が生じていたり、中国富裕層による不動産の投機的買いあさりによって不動産価格や物価が高騰し、香港人の生活は苦しさを増している状態となっている。更に、英国統治時代から続く比較的マナーの良い香港人にたいして、中国本土からの観光客のマナーは目を覆うばかりである。(香港ディズニーランド開業時の中国人観光客のマナーの悪さについては海外でも報道され覚えている人も少なくないだろう。)

そのような背景の中、2012年に当選した現在の親中派の行政長官である梁振英(Leung Chun-ying / CY Leung)は、香港市民の意見を聞かず、香港のあらゆる事項に対して北京の介入を許す政治を行っているため、支持率は低く、辞任要求も絶えない状況であった。 香港人の CY Leungの香港の中国化政策に危機感と嫌悪感が強まっている中で、今回の行政長官選挙の問題が持ち上がり、今回の大規模デモに繋がっている。

ある香港人の主張

「真・普通選挙」を求める理由

  • 行政長官が普通選挙によって選出することは「基本法」に定めてる。選挙の詳細や実施時期は香港の状況見ながら一歩一歩進めると決まってる。
  • 今までは、その1,200の委員会によって行政長官選出してる。今回政府の提案は、その1,200人によって「候補者」(MAX3名、しかも愛国者などの条件が前提)を選んで、普通選挙によって市民がその候補者たちの中から選出。
  • 今までの通りであれば、選出された行政長官は市民が選んでた人ではなく、数百人によって選べられたので、「私たちの代表ではない」とよく市民から反発される。
  • 今回政府の案を飲み込んでしまうと、実の選択肢はないのに、市民の投票によって決まった人なので、将来その人がどんなことしても文句は言いにくいでしょ。
  • もちろん真・普通選挙ができたとしても、中国政府の飼い犬が選ばれる可能性もあるが、最初から選べる権利さえ取られるのはおかしいでしょ。

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香港在住のある日本人による今回の香港でのデモについての説明

今日の朝、日本のニュース映像をいくつか見たのですが、日本の報道ではかなり勘違い、誤解のある情報がありましたので、皆さんには本当のことを知っていただきたく思います。簡単に説明させてください。

  • 今回のデモは公平で民主的な選挙制度を実施してほしいというアピールです。学生が中心となってスタートしましたが 、市民の多くの方が参加しております。不満が爆発したとか曖昧な政治不安に対するものではなくはっきりと一つの目的 があってのものです。市民にはいろいろな不満や不安はあるのかもしれませんが、デモ参加者や活動家は非常にスマートでこの問題以外のことを出して話をややこしくするようなことはしていません。日頃の鬱憤が貯まったわけでもなんでも ありませんので誤解無いようにお願いします。
  • 画像を見ていただければわかると思いますが、デモ参加者はデモをおこないつつも非常に冷静でモラルをもって行動しています。別のところでも紹介しましたが、しっかりと非暴力を訴えて乱暴に警察から扱われても反撃もせずに冷静にア ピールしています。日本の報道では道路を占拠して政府や警察の手を焼いているということがクローズアップされていま すが、ちょっと状況は違います。彼らのほとんどはちゃんとモラルを持って行動しています。雨が降れば対立しているは ずの警察にも傘を差し出すほどです。日本の報道している人も詳しい情報がわからないのかもしれませんが、デモといえ ば暴徒化した市民が起こし政府が冷静に対応するというようなデモをイメージすることが多いのだとは思いますが、先入 観的な勝手な思い込みで報道するのはやめてほしいです。香港市民は平和的、紳士的に対応しようとつとめています。
  • 日本の報道ではほとんど政府、警察側からの攻撃は報道されていませんが、現在まで政府側から武器を持たない、なん の攻撃もしていない市民に対して、ペッパーガス(胡椒スプレー)や催涙弾、催涙ガスが撃たれ、銃の威嚇射撃もありまし た。催涙弾はグレネードランチャーを使って撃たれたりもしています。(グレネードランチャーは発射後空中で約5方向に 散弾するもので、立ち入り制限をしていないところにも飛んでしまう可能性があります。)どちらかというと政府サイドの ほうが冷静さを欠いた動きをしています。実際に怪我人も出ています。 これでもデモ参加者は非暴力を徹底して抗議してます。彼らは非常に冷静です。
  • 傘は日よけではありません。ペッパースプレーや催涙弾から身を守るために持っています。日傘ではなく雨傘です。日本のニュースでははっきりと日よけのためにみんな傘を持っていると報道していましたが、防御のためにみんな持ってい ます。そりゃ暑いときは日よけに使う人もいますけど、目的は違います。
  • もちろんこのデモを良しとしない人もたくさんいます。このデモのせいでお店の営業ができなかったり、中国人観光客 を相手に商売している人もいますので商売にならず困ってる人もいます。でも日本の報道で言われているような「人を困 らせてアピール」している的なことではありません。 結果的に困る人はいますが、迷惑をかけて嫌がらせをしてアピールしようということではありません。器物損壊や略奪な どはないのではないかと思います。これは暴動ではありません。
  • 香港の人たちはみんな賢いです。これだけの大規模なアピールをおこないながら目の前で戦う警察が本当の敵ではない ことはわかってます。 彼らも職務でやっていて政府からの指示、もとをたどれば中国政府からの指示でやらざるおえないことを理解しています 。中にはもめたり口論したりしている場面も見かけますが、憎悪を持って戦ってる戦いではないということを皆さんには 知っていただきたいです。
  • 彼ら自身が中国政府を動かすことはできないかもしれないけど、国際社会へのアピールはしっかりできています。 現実に他国が公式声明でこの問題についての発言をしだしました。中国政府も他国が内政干渉するなとアピールしていま したが、これが世界にこの問題を伝えた彼らの成果です。 香港は海外からの資金がいっぱい集まっているところです。外資の会社も非常に多く外国人居住者も非常に多いところで す。 国際社会で簡単に見過ごせる地域ではないことは事実です。 世界各国の今後の対応に望みを託せる状況は作れてるという意味ではこのデモは成功の方向に進んでると私は思ってます 。 ダメ元でやっていると思っている人も多いかもしれませんが、一党独裁の中国共産党を市民がこれで本当に動かせたらと てつもない大金星です。 1パーセントにも満たない可能性だったかもしれないけど諦めないで可能性を拡げた彼らは本当にすごいです。 もちろん中国内の民主化運動が拡がるのを怖がる中国共産党が簡単に折れるはずはありませんが、こんなに小さな希望か らここまで大きな可能性を世界に見せた彼らは本当に凄いです。 少し私見が入ってしまいましたが日本の報道よりはわかりやすく伝えられるのではないかなと私は思ってます。

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ある香港人会社社長のコメント

The protest caused by the self centre of both BJ n HK since CY Leung became our Chief Executive. They did not listen to our need n allow China to interfere HK in all matters. The decision of Election of Chief Executive in 2017 is a trap not a reall democratic vote. BJ n CY Leung destroy the original idea of One Country n 2 systems...so HK people stand up to fight for our right. Although we cannot change the decision of BJ today, we will continue our fight. As long as BJ does not use military force, the economic impact is only short term. Hopefully, it will resume to normal soon.

ある中立的知識人香港女性へのFBインタビュー

1)今回のデモに対する香港人の賛成・反対の比率は? また、反対の理由は?

今回のデモに賛成する人は、少なくとも80万人がいるといえるでしょう。

(http://www.sankeibiz.jp/・・・/140701/exd1407011015002-n1.htm 、  http://www.alucia.com.hk/blog/2014/06/30/760/ をご参照ください)。

賛成も反対も、両方も動き出していてるけど、香港全体を見ますと、このデモに関して立場がはっきりとしているのが多 数ではない気がします。デモの主張に賛成しているけど、セントラル封鎖に賛成しない人や、セントラル封鎖自体を反対 している人もたくさんいても、輿論を気にして大声で自分の意見を言えない人がきっといるはず。デモを支持する人の方 が多い気がしますが、賛成・反対の比率っていうのがはっきりとわからないものだと考えております。 そして反対の理由に関しては、金融や商売に直接に影響があるからと考えている人と、デモがどんなに大きくなっても、 中央政府の決断は変わらないだろう、と考える人と、デモ=香港のイメージダウンだと考える人、そしてたくさんの学生 さんが関わってるから、天安門事件みたいな事態になりかねない、という心配があって反対する人などいろいろいます。

そして、蛇足ですが、お金をもらってデモに反対するような行動を起こす暴力団体があるといううわさが…(学生さんへ 挑発的なこと言ったりとか、喧嘩をうったりとか)

2)今回のデモが、今後の香港と中国の関係に与える影響は?

これから香港と中国の間の不信感が深まるでしょう。そして、経済的な面でも影響が出るはず。たとえば、今この中 国の大型連休(国慶節)のあいだに、香港へのツアーの数を中央政府がだいぶ減らしました。従って、大陸からの観光客 を狙ったビジネスに直接に影響が与えました。自由行(大陸から香港への観光ビザみたいなもの)の数も、もしかしてこ れからは減ってくるかもしれないですね。そしたら、繁華街で宝石や薬品などを売っている、多くの自由行だけで商売や っているビジネスには、一番早く影響が出るでしょう。

3)既に香港に多くの中国人が移住しており、また香港経済にとっても中国大陸とのビジネスは不可欠となっているが、デモの結果にかかわらず今後の香港の予想される変化は?

香港で中国への不満が膨らむ一方だけど、意外に大きい変化はないじゃないかな、と私は思っております。仰るとお り、香港にとって中国大陸とのビジネスが不可欠ですし、中国大陸にとって香港も不可欠な存在なので、この依存関係を 打破することは難しいでしょう。ただ、中国大陸より、香港と海外の関係がどう変化するか気になるところですね。海外 から見ますと、やはり香港と中国はいかに one country, two systems を徹底できるのが注目なポイントですし、このポ イントで海外からの投資意欲にもかなり影響を与えるはずなので、香港の経済に大きく関係あると思っておりますね。

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