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企業内でもアテンションの奪い合いへ、あるいは社長メッセージをスルーする時代

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10年くらい前までは「Contents is King」と言われていたのに、今はすっかりコンテンツが(量的には)過剰な時代になった。
そしてすっかり、「そのコンテンツにどう人々の関心(アテンション)を惹きつけるか?」を競い合う時代になっている。


時計をいきなり小学生の頃に戻すと、「話」というのは無理矢理聞かされるものだった。朝礼でグラウンドに立たされ、校長先生のありがたい(が、つまらない)お話を聞かされる。授業中も、生徒の側に拒否権、選択権はない。
会社に入ってからも、僕の前職では朝礼があった。上司の話をありがたく、神妙に聞いていた。
コンテンツ、特に「訓話」は、上から降ってくるものだったのだ。


それが今ではついに逆転した。
子供の頃からTV番組は選択することが出来たが、そのバリエーションがはるかに広がったのは最近だ。それがネット時代になりコンテンツの選択権は完全に受け手が握っている。「選択している」という意識すらないくらい。
情報があるのは当たり前。問題は自分の知りたい情報をいかに探すか。そして知りたい情報が自動的に配達されるようなルートをどうアレンジするか。

メールだって選択される。
スパムメールはもちろん、企業からの広告メールにイチイチ目を通している人はいないだろう。僕の場合は仕事メールだけでも1日に300くらいくるから、もちろん全部は読まない。いかに効率よく情報収集するか?という感じでメールというツールを使っている。


「ストーリーとしての競争戦略」で有名な経営学者の楠木教授が書いてるのだが、

・今の時代、一番貴重な資源は、人のアテンションである
・情報の多さにお付き合いして、自分のアテンションを分散させてはならない
・アテンションを分散させると、大事な事を考えられなくなる

ということなのだろう。



こうして、「情報は自分の意思で取捨選択するのが当たり前」「それが出来ない人は、効率がイマイチな人」という状況になった。

そしてついに、受け手による情報選別は、会社にも持ち込まれることになった。
今でも、朝礼をやって部長が訓話をたれることはできる。形だけは神妙に聞く。
でも、誰もアテンションを向けていないかもしれない。
社長が全社にメールを投げることは簡単にできる。
でも、誰も真剣には読んでいないかもしれない。

「ケシカラン」とか「真面目に聞くべき」と言っていてもしょうがない。そういう時代になってしまったのだ。対応しなければならない。


業務改革のプロジェクトをやる場合、社員に影響があるような変更はたくさん発生する。仕事のルールや役割分担を変えたり、システムの使い方が変わったり。
10年前は「そういうのは、通達を1本だせば大丈夫です。ウチはやれといったことはやる会社ですから」などと豪語するお客さんもいた。でも、今は流石に無理だろう。

だからプロジェクトでも、「どういう情報を、いつ、誰に、どの様にして届けるか?」というコミュニケーション計画を綿密に立てる。
説明会をひらいたり、eラーニングを使ったり、偉い人からメッセージを出してもらったり、情報の受け手に合わせた作戦を色々と練る。
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なぜ、社長であってもメッセージを読んでもらえない事態になるのか?
普段からつまらないことしか言わないからでしょうね。
「とても自分宛に書かれているようには思えない」かもしれないし、そもそも「内容がないよう」かもしれない。「内容はあるけれど、表現が凡庸でつまらなく思えてしまう」かもしれない。どちらにせよ、結果は同じ。真剣には読んでもらえない。


情報をセレクションする際、僕らは「この人が発信する情報には、読む価値があるかな?」を毎回判断するようになってしまった。
「アテンションを振り向ける価値がある」という信頼残高があれば、聞く耳をもつ。あたかもTwitterでフォローするように。普段からつまらないことしか言わない人は信頼残高がないから、自然と無視される。そこには地位はあまり関係がない。良く言えば民主的、悪く言えば殺伐とした世界である。


では、僕らはどうすればいいのだろうか?

発信する内容と言葉を磨くしかない。
今の日本の学校教育では「自分のメッセージを相手に伝える技術」はほとんど全く重視されていないが、元々、アリストテレスの時代から「弁論術」は教養の中心だった。
リーダーシップって、「人に影響を与えること」なんだから、相手に届く言葉が最大の武器になるのは、考えてみれば当たり前だ。
社長であっても例外ではない時代になっただけの話。

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