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ファシリテーション経営とは何か、あるいはボスザルがいない組織をうまく回す術

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この夏に出版した「社員ファースト経営」は社員を中心とする新しい経営スタイルを紹介した本なのだが、それは同時にファシリテーション経営の本と言っても良い。
というか「社員ファースト経営」と「ファシリテーション経営」はコインの裏表とか、車輪の両輪というべきセット概念なのだ。
だから本のタイトルも「ファシリテーション経営」にしよう、という意見もあった。そちらのほうが売れたかもしれない。

「社員ファースト経営」についてはこれまでもブログに書いてきたし、字面から推測しやすいのだが、「ファシリテーション経営」は分かりにくい。検索結果をさっと見たところ、あまり真剣に論じている人もいなさそう。
ということで、どういうものなのか、このブログで紹介しよう。


★元々は会議の延長
狭義のファシリテーションは「会議をうまく進行し、皆をコンセンサスに導く技術」というような意味だろう。もちろん僕らはこの意味でもファシリテーションという言葉を使う。
ただ、Facilitationは元々「促進する」という意味。対象は会議に限定されていない。
だから僕らはプロジェクトをやりながら、日常的に、
・タスクをファシリテーションする
(行き詰まっている仕事を調整したり人々に意図を説明して、促進させる)
・プロジェクトをファシリテーションする
(混成部隊の言葉や目的意識を揃え、共通の目的に向かうことを促進する)
という言葉を使っている。

会議⇒タスク⇒プロジェクト⇒
と、促進する対象を少しずつ大きくしていった先には、事業そのものの経営がある。

実際に、社員全員がファシリテーターであるウチの会社は、カリスマ的なリーダーが指示を出しまくっているという、中小企業のイメージからは程遠い。
有能なファシリテーターである経営陣が、社員の意欲やアイディアを引き出し、議論しながら経営方針を定め、全員の進む方向を揃えて今までやってきた。この「引き出す」「方針を決める」「ゴールを揃える」というあたりは、完全にファシリテーター仕草と言っていいだろう。

僕らがこの形式で経営をしているのは、アメリカ本社からスピンオフして自分たちで会社をやっていかなければならなくなった際に、ファシリテーションしか頼る武器がなかったからだ。
だがそれを15年以上やってきて、極めて有効な経営スタイルだという確信を持つようになった。特に知的労働者の質と量が決め手となるビジネスにおいては。
(僕らも完璧にやれている訳ではないにしても)


★ファシリテーション経営とは何か?
どんな経営スタイルなのかを一言でいうのは難しい(なので本を書くことになった)。
少しでも伝わるように、要素を列挙していこう。

特徴①議論の生産性が高い
社員全員がファシリテーション技術を身に着けているので、何事においても議論の生産性が高い。
というと、会議の時間が短いの?と思われるだろうが、実はそうなっていない。
そうではなく、議論の生産性が高いので、会議とかカジュアルな相談の頻度が多い。些細なこともさっと相談して、合意して、次に進む、というイメージだ。
これはプロジェクトの現場であっても、経営レベルの方針決定であっても同じ。


特徴②入れ代わり立ち代わりファシリテーター
全員がファシリテーターということは、場にいる全員が速やかな意思決定やアイディア出しに協力する、ということ。良い意思決定、良いアイディアを出せるかは、ファシリテーターだけの責任ではない。
この「仕切る人と仕切られる人の垣根が溶けている」というのは、社員全員が経営に参加することに繋がっている。


特徴③コンセンサス重視
ファシリテーションというのは「コンセンサスを作る技術」のことだ。
(厳密に言うとファシリテーションにもいくつかの流派があって、コンセンサスをあまり重視していない人々もいる。対話派とでもいいましょうか。でも僕らは仕事を進めるための武器としてファシリテーションを使っているので、コンセンサスづくりを極めて重視している)

なので、ファシリテーション経営においてものごとを進める際も、コンセンサスを積み上げる形となる。
ファシリテーション経営ではない会社(世の中のほぼすべての会社)はコンセンサスではなく、①ルールで予め決めておく、②ルールに明記していないことは組織のボスが決める、の2つで組織を運営している。

※この3つの意思決定スタイルについては、少し前にブログに書いた。
組織における3つの意思決定スタイル、あるいはボス型意思決定の弱点



特徴④実行が速い
「何事も、決める際にはコンセンサスを作ります」というと、議論に時間がかかって「やってられるか!」と思う人も多いと思います。

ただビジネスで大事なスピードって、「意思決定するまでのスピード」もさることながら、本当は「意思決定し、実行仕切るまでのスピード」なんですよね。

で、コンセンサスを重視すると、実行が速いんですよ。
誰かに命令されてブータレながら仕事するより、ちゃんと議論して納得したことを実行する方が速い。モチベーションだけでなく、ちゃんと意図を理解しているから、ある程度権限委譲できるのが強い。
これは多くの人が見過ごしているが、結構重要なことだと思う。
(すごく重要なのに誰も言ってないから、ここだけ切り出してブログ書いてもいい)


特徴⑤全員の意見を尊重する
これも完全にファシリテーター仕草ですね。
偉い人の意見が通るのではなく、良い意見が通る。これを続けていると、会議だけでなく、事業全体を通じて、新入りや若者(や馬鹿者)の意見を尊重するようになる。


特徴⑥組織がフラットになっていく
それってつまり、組織がフラットになる、ということなんですよね。良くも悪くも。
全社にファシリテーションを浸透させ、ファシリテーションを経営の土台とするとフラットになる。すぐにはピンとこないかもしれないが、ウチの会社で起きていることだ。


特徴⑦オープンな社風と心理的安全性
フラットな組織と近い話として、言いたいことを言っても怒られない組織になっていく。
これ、当たり前過ぎて僕は重要性を認識していなかったのだが、転職してきた社員がみんな強調するんですよね。何かを主張して怒られるなんて、ホント不思議なんだけど。


特徴⑧理由の言語化と権限委譲
ちょっと抽象的だけど、極めて大事なこと。
ボスの一存でものごとが決まるのではなく、何事も議論してコンセンサスを作るということは、「なぜAではなくBを選択するのか?」をいちいち説明させられるということ。
これは組織の価値観や方針を言語化することと同じだ。
価値観や方針が明確ならば、それを学んだ社員には、どんどん権限委譲できる。「方針の範囲内だったら自分で判断していいよ」と。


以上。最初は「プロジェクトを成功させるために、会議ファシリテーションという技術を使おう」というところから始まったのだが、徐々に適応範囲を広げ、今では「ファシリテーションを使って経営しています」と言っても良い状態になっている。

どれくらい普遍性がある経営スタイルなのか(真似やすいのか)は分からないが、やっている会社はあるよ、ということを大きな声で言っておきたい。


「社員ファースト経営」では上記について、実例をあげながら、もう少し丁寧に説明している。興味がある人はそちらも是非)。

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