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私が考える「ネット法」(仮)(その1)

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前々回に「ネット法」に総論賛成各論反対と書いたので対案なき反対はどうなのよということもありますし、本日夜にクリプトン伊藤社長との会食もあったりするので、その前に自分の考え方をまとめておきたいということもあって、まだ完全に調べ切れていない、かつ、まとめてきれていないのですが、(仮)ということで、私が考えるネット上でのあるべき著作権制度について思うところを書いてみたいと思います。

大前提1: ネット上で流通するデジタル・コンテンツに特化した制度を考える
 現在の著作権法は一品ものの美術品から、(文化財というよりは)工業製品であるプログラムに至るまで何から何までをカバーしようとして崩壊しかけています。以前に経団連が発表していた著作権制度の複線化の方向性で、ネット上で流通するデジタル・コンテンツに特化した制度を考えるべきだと思います。なお、現状の著作権法をいじらないで完全に二階建て方式で実現できれば楽ですが、ある程度は著作権法本体に手を入れざるを得ないかもしれません。

大前提2: 主役はユーザーとクリエイター
 もちろん「製作」や流通の機能は大事ですが、クリエイター(「制作」)や利用者に比べれば従属的な存在と考えるべきです。著作権管理団体もあくまでもお客様であるクリエイターと利用者(一般消費者)に奉仕する存在であるべきです。特に、デジタル・コンテンツの世界では、クリエイターと利用者を直接的につなぐこと、および、利用者自身がクリエイターになることが容易になっているので、両者の間をできるだけ低オーバーヘッドでつなぐことが必要です。

たとえて言えば、流通が効率化して問屋の機能の重要性が低下しつつあるのに、問屋に価格決定権を持たせるとか、流通には必ず問屋を通すことを義務づけるというような制度設計をするべきではありません

大前提3..デジタル・テクノロジーを前提とした制度設計をすべき
 たとえば、音楽の著作物の利用について言えば、ライブハウスでの生演奏のようなアナログ的な利用形態であれば、全国各地に担当者を配置してライブハウスから集金するための人的資源が必要です。また、ライブハウス側もどんな曲を演奏するかを事前にコントロールすることは難しいので、報告事務の繁雑性を考えれば、ある程度著作権管理団体を一本化する必要性が生じます。

一方、デジタルの世界であれば、再生されたコンテンツ・ファイルのメタデータから自動的に課金情報を集計するというようなことが技術的に可能です。そうなれば、複数の著作権管理団体に公正な競走を行なわせて市場原理で効率を良くしていくということが可能です。

また、たとえば、二次著作物にしても、現状のように元の著作物の権利者がすべてをコントロールするのではなく、メタデータに元の著作物の権利者の情報を埋め込んでおき、二次著作物の利用に応じて報酬が還元されるような仕組みを作ることが可能です。

これらの例のようにテクノロジーを活用すれば物理的な世界では不可能だった制度が実現できる可能性が充分にありますので、テクノロジーの活用機会を可能な限り追求すべきです。

こういう3つの大前提に基づき、公平性・透明性・妥当性を担保された料金体系で、著作物をできるだけ簡単な手続きで、できるだけ自由に利用できるようにし、かつクリエイターには適切なインセンティブが届くようにするための「リーンなJASRAC」を作る必要があると思います。

(続く)

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