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「ネット法」について

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あの角川歴彦氏も参加されている「デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム」という団体が「ネット法(仮称)」の制定を求める政策提言を発表したそうです(ソース1 ソース2)。

ちょっと調べてみようかと思っていたら、詳しい資料が某法律事務所より送られてきました。普段お付き合いがあるところではないので、どういういきさつで送られたのかはわかりません(知財系のブロガーに軒並み送っているのかもしれません)が、せっかくなのでちょっとコメントしてみます(先に私としての結論を言っておくと、総論賛成、各論やや大いに異議ありというところです。)

まず、「ネット法(仮)」のポイントですが、以下のような感じかと思います。

  1. インターネット上でのデジタルコンテンツ流通に特化した法律を現行著作権法とは別に作り、ネットでの著作物利用を管理するための「ネット権」を創設する
  2. さまざまな権利者(作曲家、作詞家、実演家等々)の権利を特定の「ネット権者」に集約する(各権利者は許諾権は失うが報酬請求権を維持する)
  3. フェアユース的な考え方を導入する

まず、1.についてですが、これについては異論はありません。現行著作権を無理矢理いじるよりも別途ネットに特化した法律を作った方がよいと思います(これは、いわゆる「二階建て制度」と呼ばれるもので以前からあった話です)

2.についてですが、何らかの形で複数の権利を集約して著作権管理組織を作らなければいけないのは確かです。しかし、今回の提案では、映画製作者、放送事業者、レコード製作者を「ネット権者」と定めるとしています。しかも、ここでいう「ネット権」とは報酬請求権ではなく、許諾権(=禁止権)です。

これで公正な著作物の利用が担保されるのか非常に懸念があります。小倉秀夫先生も同じような懸念を表明されています。

一見、JASRACに似ていますが、JASRACが音楽の利用者に対して行使できる権利は、実態は従来の著作権による許諾権なのですが、禁止権というよりは報酬請求権に似ています。つまり、規定の料金さえ払えば誰も著作物を利用できます。権利者あるいはJASRACの都合で特定の人だけに対して著作物の利用を禁止することはできません。提案された「ネット権」では何か適当に理由を付けて特定の人や企業に対して著作物の利用を許さないということが可能になってしまいます。

また、3のフェアユースですが、その必要性については激しく同意しますが、判例重視の米国の制度とは違う日本の法制度でどう実装していくかという根本的な問題があります。

ということで、私としては、「ネット法」の趣旨には賛成しますが、実装としては、1.「ネット権」を禁止権ではなく報酬請求権として構成する、あるいは、公正な許諾が行なわれることを何らかの形で担保する、および、2.「ネット権者」として中立的な団体を複数設けて(*)、公正な競争を行なわせるという2点がない限り現状としては賛成しかねるというのが正直なところです。

と言いつつ、これをたたき台に建設的な議論が進んでいけばよいとも思っています。

*: なお、著作権管理団体を複数設けるのは事務手続きの煩雑性や著作物の利用可能性の点で弊害が多いという説もありますが、生演奏のようにフィジカルな世界はともかく、ネット上のデジタルの世界であれば、複数の著作権管理団体があっても、しかるべきシステムがあれば効率的に運用できるのではないかと思っています。

注: 上記ソース1のITmediaの記事タイトル「映像・音楽配信を許諾不要に~」は微妙にミスリーディングだと思います。たとえば、ある映画作品をネット配信したい場合に、従来だと使用されている音楽の作曲家、出演者等々にすべて許諾を得なければならなっかたのを、「ネット権」者たる映画製作者の許諾だけでOKにしましょうというお話しです(その後、映画製作者が利用料を作曲家、出演者に配分)。従来よりはましですが、依然として映画製作者の許諾が必要であるという点は変わりありません。

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