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携帯への音楽ダウンロード:どこまでがOKなのか(2)

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前回の続きです。念のため前提条件を再度書いておきますが「自分で聴くために自己所有のCD(コピー・プロテクトされていないもの)を自分の携帯にコピーするケースで、特に権利者の許諾を得ていない場合」です。

パターン4: MYUTA型

4_3 リップとフォーマット変換は自宅パソコンで実行してパソコンのディスクに保存、プロバイダーのサーバのディスクにいったんアップロード、携帯からプロバイダーのサーバにアクセスしてダウンロードというパターンです。

今回の地裁判決では、このサービスが専用サービスであること、プロバイダー作成の専用ソフトが提供されていること、ユーザーが個人で同等機能を行うことは相当程度に困難であること等々を理由に、複製の主体はユーザーではなく、業者側であると判断されました(図では色分けでプロバイダー側管理とユーザー側管理のものを示してみました)。要するに、このパターンは、前回のエントリーにおけるパターン1ではなくパターン2であると判断されたということです。

ここで、仮に複製の主体がユーザーであると判断されたとしましょう。そうなってくると、今度はサーバは「公衆の利用に供される自動複製機器」ではないのかという論点が出てきます(前回のエントリーのパターン3に当たるのではないかという問題)。今回の地裁判決では、この点は争点になりませんでした(そもそも、複製をしているのはユーザーではなくプロバイダーだという結論なので議論する必要がありません)が、今後の争点となる可能性はあります。

サーバから携帯へのダウンロード部分に対しても、送信機能がプロバイダーの設計であり、ユーザー個人が送信を行うことは相当程度に困難等々の理由により、業者が主体であると判断されました。システム的には、ファイルのアクセス制御が行われて、他人の楽曲ファイルをダウンロードできないようになっているのですが、判決では、この点は、「[このようなアクセス制御を行っているのは、プロバイダーによる]システム設計の結果であって,送信の主体が原告であり,受信するのが不特定の者であることに変わりはない。」とされています。

ちなみに、これと同様のシステムで現実にあり得そうな形態として、ユーザーのiTunesライブラリをサーバ上に置いてiPhoneやノートPC等にストリーミングするというサービスなどがあるでしょう(注:サーバから機器への流れでは複製権ではなく公衆送信権が問題になってますのでストリーミングでもダウンロードでも検討すべきことは同じです)。たとえばAppleがこのようなサービスを提供するとして、気を利かせて専用サービスぽくすると、Apple自身が公衆送信権を侵害するという結果になってしまう可能性がないとも言えないということになります。

追加: 米国では音楽ロッカーサービスとネット・ラジオを組合わせたこんなサービスが始まりました。権利者の権利を不当に害せず、かつ、CDやダウンロード販売の売上増にも結びつきそうなサービスですが、現状の日本で展開するのはちょっと無理そうな気がします。

パターン5: Sound Portal(?)型

5_3 MYUTA式に似てますが、サーバのディスク上に複製を行わず、ユーザーのパソコンがファイル・サーバとして機能し、プロバイダーのサーバはパソコンへの中継のみを行うというパターンです。先日書いたSound Portalはこういう仕組みではと推定されます。

このパターンがOKかどうかは裁判所で争われてませんので何とも言えないですが、検討してみましょう。サーバ上のディスクに複製を行っていないので、複製の主体がプロバイダーであるとするのは難しそうな気がします。ただし、サーバ上のディスクに複製を行わないとしても、メモリや一時ファイルへの一時的複製は行われるでしょう。一時的複製には複製権は及ばないというのは、ある程度学説として固まっているのかと思っていましたが、MYUTA判決文中に「[原告は]一時的であれば複製権が制限される根拠を主張していない」との裁判所の意見があるのでちょっと気になります。

また、携帯へのダウンロードについては複製を要件としていないので、プロバイダーが送信の主体である(ゆえに、公衆送信権を侵害する)というロジックもありなのかもしれません、なしかもしれません。正直、よくわかりません。ご意見をお待ちします。

パターン6:完全自宅サーバ型

6_3 さらに一歩進んでプロバイダー側にサーバがなかったらどうかと考えてみましょう。ユーザーのパソコンをそのままWebサーバとして機能させて直接携帯にダウンロードするというパターンです。ユーザーのパソコン宛に携帯からメールを送ると添付ファイルとして楽曲ファイルを返信してくるという実装も考えられます。

そもそも、プロバイダー所有のサーバがないので、プロバイダーが主体となって複製・送信しているいうのは考えにくいと思います。ということで、複製・送信の主体はユーザーであるとしてよいように思えます。

しかし、仮にユーザーが送信の主体だとしても、同じマシン上で一般向けのWebサーバも実行している場合はどうでしょうか?ユーザーのパソコンは全体としては公衆に対してサービスを提供しており、仮に楽曲ファイルを自分しかアクセスできないような仕組みにしていたとしても、「[このようなアクセス制御を行っているのはユーザーによる]システム設計の結果であって、受信するのが不特定の者であることに変わりはない。」」という理屈でやはり(ユーザーが)公衆送信を行っている、ゆえに著作権侵害みたいな話になってしまわないでしょうか?公衆用Webサーバと自分用サーバを物理的に分ければ大丈夫でしょうか?「ルーターでIPヘッダーを見て各サーバに振り分けているのはシステム設計の結果であって、受信するのが不特定の者であることには変わりはない。」となってしまわないでしょうか?これも、正直よくわかりません。

こういう風にシステムの内部設計に注意するのは他社の特許権回避のためには普通のことですが、著作権回避のためにも同じようなことをしなければならなくなっているわけです。 ユーザーの私的使用目的利用の範囲を超えないような合法的な形で斬新なネット・ビジネスをやろうとしている方にとってはいろいろ大変だと思います。

特に、利用者の違法行為が発生しないように専用ソフトで厳密なアクセス制御を行おうとして専用ソフトを提供したりすると、プロバイダーが複製・送信の主体と判断され違法となる可能性が高まるわけで、ソフトだけ提供して、ユーザーに勝手にやらせる(結果的に邪悪なユーザーによる違法行為の可能性が高まる)方が、プロバイダー側としては安全という皮肉な結果になります。システム設計における著作権保護の重視への逆インセンティブが働いてしまうわけです。たとえば、Sound Portalについて言えば、ゲオの子会社が作ってるわけですからCDの売り上げに悪影響を与えないよう、入念なアクセス制御が行われていると推定されますが、それが裏目に出るなんてことはないのでしょうか?

複雑な課題をできるだけ短くまとめてみたので重要な論点が抜けている可能性もありますがその際はご指摘下さい。コメントお待ちしております(特に、パターン5と6の適法性について)。

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