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変革を3つの視点捉え直すと自分たちの「変革」が理解できる

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昨日の記事で、「変革=transformation」について、語源を遡ってその意味を掘り下げました。そこから見えてくるのは、「新しく、根本的に作り変えること」に他なりません。この意味に照らせば、DXは、「デジタル前提の社会に適応するために会社を作り変えること」と解釈すべきでしょう。

しかし、私たちは、「変革」をもう少し広い意味で使っています。それは、英語の「transformation」と日本語の「変革」が、まったく同一の意味ではないことに起因するのかも知れません。「変革」の意味について辞書を見ると、「変えて新しいものにすること。また、変わって新しいものになること」という説明もあり、「transformation」の「何かを完全に変えること」というほどの強い意味合いは含んでいないように思われます。

事実、日本語の「変革」は、日常的にはかなり曖昧に使われていて、昨日の記事で紹介した「改善」も「変革」と同義で扱われることもあります。そんな日本語の「変革」の使われ方を、オペレーション、プロセス、戦略という視点で整理してみると、わかりやすいかも知れません。

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オペレーションとしての変革

「オペレーション(operation)」とは、作業、工程、業務、操業、事業、営業(活動)、経営、運営を意味します。これらをよりよい状態に変えることを「変革」と言う場合があります。これは、昨日の記事で紹介した「改善=improvement」であり、「transformation」とは異なります。

それぞれの作業や業務、工程に携わる人たちが、自分の業務の課題を見出し、これを改善することです。既存の事業や経営を維持する上で、大切なことです。

ただ、「改善」は、既存の業務のやり方を根本的に変えることなく、いま直面する課題を解決するには、有効ですが、ビジネス環境が激変し、既存のやり方では対処できない事態では、短期的な効果はあっても、長期継続的な効果を期待できません。

プロセスとしての変革

「プロセス(process)」とは、過程、経過、成り行き、進行、(ものを造る)方法、手順、工程など、時間的経過を伴う一連の手順を意味します。提供する価値、すなわち製品やサービスは同じであっても、その提供方法を変える場合などがこれに該当します。

例えば、Netflixは、1997年、映画を見たい人に郵送でDVDを送り届けるビジネスを世界で初めてスタートさせました。1999年、定額制(サブスク)のレンタルサービスを開始、月額15ドルでDVDを本数制限なしにレンタルできるこのサービスは、延滞料金、送料・手数料が全て無料という当時としては画期的なアイデアでした。

その後、競合の台頭により、経営的には厳しい状況に置かれましたが、2007年、それまでのDVDの郵送&レンタル・サービスから、ビデオ・オン・デマンド方式によるストリーミング配信サービスに移行、2008年から2010年にかけては、大手メーカーと提携し、ゲーム機(Xbox 360PlayStation 3Wii)、ブルーレイディスクプレーヤー、インターネット接続テレビ、Apple製品(iPhoneiPadなど)およびその他デバイスでの配信に対応したストリーミング映像のウェブ配信へと移行しました。これによって、当時、DVDやビデオ・テープのレンタル・ショップを米国全土に展開していたBlocbusterなどのビジネスを駆逐し、圧倒的な競争力を持つようになったのです。

その経過が分かる動画がありますので、紹介しておきます。

「幅広い映像コンテンツを顧客に提供する」という事業目的は、そのままにプロセスをまったく新しいものに作り変えてしまうことにより、新たな価値を創出したわけです。これは、「変革」の本来の意味に当てはまる事例と言えるでしょう。

戦略としての変革

「戦略(strategy)」とは、包括的で大規模な作戦遂行の計画を意味します。事業そのものを新しく作ることと解釈できるかも知れません。

例えば、富士フイルムは、そんな変革の好例です。1980年代、写真フイルムは拡大の一途にありました。そんな、1988年、世界発のフルデジタルカメラを発表したのです。当時、写真フイルムは富士フイルムにとって利益の源泉でした。それにも関わらず、儲かっている写真フイルム事業を駆逐するかも知れない事業へと踏み出したのです。その後、化粧品、医薬品、再生医療へと事業を広げ、写真フィルムが市場から消えてしまったいま、収益の柱として、成長を続けています。まさに、戦略を変革し、事業そのものを作り変えることで、会社を存続させ、成長させることに成功しました。

もちろん、これらの新しい戦略が、既存事業と全くの無関係だったわけではありません。デジタルカメラは写真フイルムで培った写真や画像の知見が土台になっています。また、化粧品、医薬品、再生医療は、感光材料やハロゲン化技術、調剤技術などが、活かされています。 写真フィルムで築いた基盤技術があればこそ、新しい事業を成功に導くことができたのです。

いま自分たちが使っている「変革」という言葉をどのような意味で使っているのかを問い直してはどうでしょう。いずれが優れているとか、いずれでなければならないのかということには意味がありません。何を目指しているかが大切です。

この3つの視点でDXを考えれば、オペレーションとしての変革、つまり業務の改善なのか、プロセスとしての変革、つまり新しいビジネス・モデルを作ろうとしているのか、戦略としての変革、つまり、事業や会社そのものを作り変えようとしているのか、そもそも、何を目指した取り組みなのかを明確に意識すべきです。言葉やカタチにこだわり「やったつもりの自己満足」あるいは「やってますアピール」は、そろそろ辞めてはどうでしょう。

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ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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