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変革のためか研修のためか、それとも

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DX研修やデジタル・リテラシー研修のご相談を頂くと、私は、次のような質問をするようにしています。

「研修の結果、受講者にどのような行動の変化を期待されますか?」

研修は手段です。大切なことは、この手段を使って、どのような目的を達するかです。特に大切なことは、単に受講者の知識が増えることではなく、経営目標の達成や事業の成果に貢献できる行動を促すかが大切なわけで、その一連の動線も描かないままに研修をしても、お金と時間の無駄遣いです。ところが、この質問に答えられない方が少なくありません。

「なぜ、このような研修を計画されているのですか?」

このような質問をすると、必ず出てくるのが、「DX」です。経営方針あるいは中期経営計画で、DXの実践やDX人材の育成という言葉が掲げられていて、そのために研修をしなければならないからというのが理由です。

「いま御社は、どのような課題に向きあわれているのでしょうか。どのようなことを、事業存続の危機と考えられていますか?」

DX=デジタル化」と捉えている人たちが多いわけで、この発想から導かれる「DX研修」は、おおよそ次のようなことです。

  • ローコード開発ツール:現場で必要なシステムを開発できるスキルを持つ。
  • データサイエンス:現場のデータ活用能力を高める。
  • ChatGPTなどの生成AIツール:仕事の生産性を高める。

ついでながら、某銀行では、「Microsoft Officeを使いこなせるようになる」というのもありました。

確かに、このような研修で上記スキルを身につければ、仕事の生産性やスピードが上がることは間違いありません。ただ、それ以前の問題として、「Microsoft Officeを使いこなせない」ということになれば、まともに仕事ができないでしょう。その意味で、このような研修は、いまの時代に普通に生きてゆくために必要な「読み書き算盤」すなわち「リテラシー」であって、そのための研修は、必要であることは言うまでもありません。

しかし、「DX=デジタル前提の社会に適応するために会社を作り変える変革」に結びつくわけではなく、それとは別の視点で、取り組んでいくべきです。

確かに、上記のような「リテラシー」を高めることで、デジダルの価値を実感し、もっと積極的に取り組もうという世論は作られていくでしょう。しかし、世論だけでは、「DX=変革」が進むはずもなく、「DXの実践やDX人材の育成」を目的とする研修とは別の話です。

当然のことですが、「DX=変革」は、研修だけでできることではありません。人事制度や働き方、組織のあり方や意思決定の仕方、経営方針や事業方針などの変革を確実なものとするために実施するものです。これらと無関係に、研修だけで「DXの実践やDX人材の育成」ができるはずもないのです。ところが、なぜか、「研修をすれば、変革が自動的に進んでゆく」とでも信じているかのような暗黙の了解がある気がします。

そもそも、経営サイドが、「DXの実践やDX人材の育成」を経営方針に掲げるのであれば、「DX=変革=経営者としてはこのように考えている」を示すべきでしょう。しかし、「DX」という流行り言葉を世間に迎合して、自分事として考えもせずに使い、「このように考えている」という部分を現場に丸投げで考えさせようというわけで、これでは「DXの実践やDX人材の育成」などできるはずはありません。

だからこそ、DXという言葉を頭から追い出し、自分たちの堅実を真摯に受け止め手もらうために、先ほどのような質問をしたわけです。

「いま御社は、どのような課題に向きあわれているのでしょうか。どのようなことを、事業存続の危機と考えられていますか?」

DXの定義や解釈はどうでもいいのです。大切なことは、自分たちの現実に勇気を持って向き合い、その現実に対処するための行動を起こすことです。そのための武器としてデジタルは効果的ですが、それを使うことが目的ではありません。だからこそ、この基本の問いに向きあうべきなのです。

ここに自分たちなりの答えを持ち、全社で共有することができれば、経営者を筆頭に、教育担当、事業部門、管理部門が、それぞれの役割を全力で果たせばいいわけです。

「自分たちの課題や危機感」が分からないから研修をしたいというのなら、それは分かります。ならば、経営者や管理者が、まずはこのような研修をうけるべきです。しかし、研修担当者の多くは、それをとても嫌がります。多分、彼らの役割は、経営者のための研修ではなく、社員の研修だからであり、越権行為というか、自分に直接関係ないところに話しを拡げたくないからでしょう。

当然のことだと思います。だからこそ、経営者がしっかりとイニシアティブをとって、「自分たちの課題や危機感」を示し、同じを方向に向かうように、明確な意志を示すべきなのです。そして、徹底して議論すべきです。

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DXの実践のため」とか「変革ため」とか、世間映えのするきれいな化粧まわしを締めたいのはわかります。しかし、化粧まわしが、勝手に相撲を取ってくれることはありません。しかし、現実には、DXと言う言葉だけが一人歩きして、この言葉に振り回された現場は、それらしい取り組みを考えなくてはならず、結局は、全社バラバラな「DXぽい」取り組みが横行します。研修もまた、そんな「DXぽい」取り組みの1つになるわけです。それは、もはや「自分たちの課題や危機感」に対処するための「変革」などとは無関係に、自分の仕事となるわけで、研修の担当者としても仕事をやったことになって、自分の役割を果たせることになります。

「変革のためではなく、研修のためではなく、担当者の仕事のために研修を行う」

そんなことになってはいないだろうかと問いかけてみてはどうでしょう。

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斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー

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